選手に気になる質問を聞いていく本コーナー。今シーズンから大宮アルディージャに加わり、最終ラインでリーダーシップを発揮している田代真一選手に、オフィシャルライターの岩本勝暁記者が突撃しました。
※取材日:4月13日
聞き手=岩本 勝暁
強い危機感を持ち、
なおかつ上を目指してやり続けるだけ
無失点にこだわる
――昨日(12日)、原博実フットボール本部長の就任が発表されました。どのように受け止めていますか?
「自分たちがやることは変わらないと思っています。早く結果が出せるように、ピッチでやるだけ。そこは変わらないです」
――いまのチーム状況をどのように見ていますか?
「結果が出ていないので、少し自信を失ってしまったり、ミスを怖がってしまったりする場面が出てくるのはしょうがないと思っています。自信を持ってやるだけだし、結果を出すために毎週準備をし続けることしか自分にはできません。そこは、若い選手を含めてみんなに伝えるようにしています」
――失点が多いというところでは、DFとして歯痒さもあるのではないでしょうか。
「失点を0で抑えるという部分は自分自身も強いこだわりを持っているので、そこには歯がゆさも悔しさも、もちろん責任も感じています。確かに失点を0で抑えられたらベストですが、いまは1点を取られてもバタバタしないなど、メンタル的なところが必要です。そのなかでも、より無失点にこだわるところには、これからも持ち続けたいと思っています」
――第6節のファジアーノ岡山戦は、最後に同点に追いつかれましたが、気持ちの入ったゲームでした。3試合ぶりの先発となった田代選手も特別な思いで臨んだのではないですか?
「あの試合だけでなく、いつも強い気持ちを持って、選手、スタッフ全員が取り組んでいます。ただ、あの試合は少しアクシデントがあって、そういう気持ちの部分が見えたゲームになったのかもしれません。僕自身、試合に出るときは常にあれくらいの気持ちを持って臨んでいます」
――ゴールこそなりませんでしたが、前半に2度、CKからのヘディングシュートがありました。
「自分じゃなくてもいいと思っていたのですが、中の配置を見て、どこらへんがチャンスになるのかなというのを見て、キッカーに伝えていました」
――ゴール前ですばやくカバーに入って、ピンチをしのぐ場面もありましたね。
「常にそれをやっていかないといけないし、でも、自信がなかったらそういう場面で一歩が出なかったり、体も動かなかったりするものなんです。みんなが頭をフレッシュにできたら、ああいう気持ちのこもったゲームができると思います」
――GKが栗本選手に代わってからは、相手にほとんどシュートを打たせませんでした。
「いつもそういう(相手にシュートを打たせないという)気持ちでピッチに立っています。でも、ラインが下がったのは事実だし、相手あってのことなので簡単ではありません。その中で、全員で守り切るんだというイメージを共有できたときは、ああいう統一感のある守備ができる。あれが今後、勝っているときに生きてくれば、あの岡山戦の価値が出てくると思います」
松田直樹さんとの出会い
――DFとしてのこだわりを教えてください。
「GKもそうですけど、一番後ろにいるので、前の選手をどれだけ動かせるかが大事だと思っています。あとは年齢も年齢なので、しゃべってチームを良い方向に向かせられるようにすること。DFとして無失点にこだわるのはもちろん、セットプレーで点を取って1-0で勝つというのが、自分としては一番痺れる試合ですね」
――対人やヘディングが強い印象があります。いまのプレースタイルはいつごろに培われたものなのでしょうか。
「対人はあんまりですけど……、プレースタイルと言えるのかはわかりませんが、常に強い気持ちを持っていなければ自分のパフォーマンスは出せないと思っています。メンタルはすごく大事ですね」
――メンタルの部分で影響を受けた人は?
「いままで一緒にやってきたDFの選手……、たくさんいます。いろんなチームでやらせてもらったし。特に横浜F・マリノスが最初のクラブなので、マツさん(松田直樹、急性心筋梗塞のため2011年8月4日に34歳で急逝)や中澤佑二さん、(栗原)勇蔵くんなど、すごい選手といっぱいやってきました。すごく自信になったし、若いときに学ばせてもらったことも多く、たくさんの人から影響を受けてきました」
――松田さんとの出会いは?
「ユースのときからたまに練習に参加させてもらっていたんですけど、めちゃくちゃ怖かったですよ。マリノスに入って初日の練習も怖かった。でも、時間が経つにつれて仲良くしてもらったし、何度も食事に行ったし、たくさん面倒を見てもらいました。可愛がってもらったと思っています。熱いし、でも、優しい。すごく人間味のある人でした。いまでも大好きだし、めちゃくちゃ尊敬しています」
――怖いというのは?
「めちゃくちゃな人でもあるので(笑)。でも、それがみんなから愛された理由だと思います。自分もそんな年齢になって、ああいうベテランにはなれていないかもしれないけど、自分なりに自分らしくやっていきたいと思っています」
――松田さんから学んだことで、いまの若い選手に伝えたいことは?
「なんですかね。でも、あの人も気持ちはすごく大事にしていました。気持ちがプレーに出るし、それが見ている人にも伝わる。そういうところは若い選手にも伝えていけるかもしれないですね。あと、いつも『甘いぞ』『甘いぞ』と言われていたので、そういうところかな」
惑わず、自信を持つこと
――今シーズンからの加入となりましたが、現状の大宮アルディージャをどのように見ていますか?
「昨シーズンの試合も見ていましたし、もちろん結果も知っています。(南)雄太さんからも話を聞いていて、やはりいるべきところは上のリーグだと感じました。クラブの規模や環境を考えたら、絶対に上のリーグにいなければいけない。ただ、現状は順位表を見ても降格圏です。この環境に甘えちゃいけないし、全員が強い危機感を持って取り組まなければいけない。いまは結果が出ていないけど、上に行けるチャンスは絶対にあります。それを信じて、最後までしっかり戦いたいと思います」
――チームに合流する前はどんな印象を持っていましたか?
「ここ数年、結果が出ていなかったので、何か理由があるんだろうな、と。甘さとか、メンタル的なところもあるでしょう。もっと感情を出すことも一つで、そういう気持ちの部分が周りに伝播していくこともあります。僕ももっと感情を出していかないといけないし、もちろん言った人間にも責任が生まれます。全員でこの状況を変えていかなければいけません」
――若い選手が多いチームですが、雰囲気作りで意識していることはありますか?
「若い選手が自信を持ってプレーできるようにすることが重要です。ミスをしてもいい。大事なのは、誰かがミスをしたら、その分、周りの選手が頑張ること。誰かのために頑張れる犠牲心を持つことが大切だと思います」
――長いキャリアの中でも一つ勝つためにこれほど苦しんだことはなかったと思います。解決策はあるのでしょうか。
「何度も言うように、自信を持つことです。それから、自分にしっかり矢印を向けること。他人事ではなく、自分事に思わなければいけません。こんな状況だからこそメンタルの話ばかりになりますが、それが大事なことです。もちろん結果が最優先ですが、迷いなく、自信を持って取り組んでいきたい。ここでもがいた分だけ、きっと強くなれると思います」
――週に一度の練習公開もあり、少しずつサポーターとの交流も増えてきたのではないですか?
「まだ規制もあるので直接話すことはできないですけど、早く結果を出してNACK5スタジアム大宮を満員にしたいですね。結果を出せば満員にできると思うし、声は出せないけど応援も増えると思う。その日が来ることを信じてやっていきたいです」
――NACK5スタジアム大宮の印象はいかがですか?
「良くも悪くも雰囲気が作りやすいですね。相手(アウェイ側のチーム)からすれば、雰囲気を“作られやすい”スタジアムだと言えます。ホームで戦う僕たちからすれば、それをいい方に変えなければいけません。いまの段階では、変えられるのは自分たちしかいないと思っています」
――新型コロナウイルスの影響もあってなかなかリフレッシュできる時間が少ないかもしれません。オフの日はどう過ごされているのですか?
「でも、こういう状況だからこそ、気分転換して頭をフレッシュな状態に持っていくことが重要だと思っているんです。オフの日は、家族といることが多いですよ」
――リーグ戦も4分の1を消化しようとしています。「まだ4分の1」なのか「もう4分の1」なのか、田代選手にとってはどちらでしょう。
「どっちもあるんじゃないでしょうか。ここまで早かったと思うし、まだそんなものかと思うこともある。『次こそは』という気持ちで毎試合臨んできての10節ですから。もちろん一つ勝つことが大前提ですが、その後もしっかり積み上げていかなければいけません。残りの4分の3も強い危機感を持ち、なおかつ上を目指してやり続けるだけ。自分は変わらずにやっていきます」
岩本勝暁 (いわもと かつあき)
2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。