オフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP【2022年4月】

その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選定するマンスリーMIP。4月のマンスリーMIPは、崖っぷちのチームを起死回生のビッグプレーで救ってくれた南雄太選手です。


「キックのクセが見えたので、思い切って勝負できました」
文=戸塚 啓

最多出場記録を達成

5月4日に行なわれた大分トリニータ戦で、南雄太は偉大なる記録を打ち立てた。GKで歴代最多となるリーグ戦出場を達成したのだ。楢﨑正剛を上回る数字は「661」にのぼる。

「僕自身はあまり実感がないのが、率直なところです。ここを目標にやってきたわけではなく、目の前の1試合に出られるかどうか、ということを大事にしてきました。最多出場記録を持っていたのがナラさんで、現役のときは代表で一緒にやったり、Jリーグで何度も対戦したりしましたが、遠い存在というかすごく尊敬していた先輩です。ナラさんが現役中に追い越すようなことは、一度もできませんでした。何か一つでもナラさんに追いつけた、追い越せたというのは、長くやってきて良かったなと思えることですが、数字について特別に思うところは全然ないんです」

同世代を駆け抜けた4歳年上の先輩は、J1での出場数がそのほとんどを占めている。それに対して南は、J1が266試合、J2が395試合だ。「ナラ」さんこと楢﨑とは内訳が異なることもあり、あくまでも控え目に受け止めている。

「ナラさんにしろ、ヤット(遠藤保仁)にしろ、J1での数字が大きいですからね。単純に比較はできないと思います」

確かにそのとおりかもしれない。しかし、ピッチに立つまでの準備に、J1とJ2で大きな違いはないだろう。積み重ねた数字の重さは変わらないはずだ。

南は遠慮がちな笑みをこぼした。

「そう言っていただけるとうれしいです。たくさんの人からお祝いのメッセージをいただいたりすることで、すごいことをしたんだなあと実感しています。ただ、連戦中だったのですぐに次の試合へ向けた準備をしていったので、感慨に浸るようなことはなかったです」

大逆転劇を呼び込んだPKストップ

チームの調子は上向きだ。そのきっかけを作ったのは、他でもない南である。第12節のザスパクサツ群馬戦で見せたPKストップだ。0-2から3-2へ持ち込むプロローグとなるビッグプレーだった。

「前半のうちに2失点しましたけど、ボールを握れていたしゴール前へ入っていける機会も多くて、1点入ればいけるんじゃないかという雰囲気がありました。それまで負けていたときはあまりそういうのがなかったんですけど、ハーフタイムのロッカールームもすごくポジティブで、それまでとは全然違いました。そういうなかで(菊地)俊介が1点入れて、ホントに流れが変わって相手を押し込むこともできた。キャンプからそういうサッカーを目指してきて、初めて相手を押し込んで勝つことができた。内容と結果がリンクした試合だったかなと。これを続けていけば勝つ試合が増えていくんじゃないか、と思えるゲームでした」

自身のプレーに触れないところが、いかにも彼らしい。0-2で迎えた34分のPKストップについて、あらためて聞く。

「まあでも、それまでに2点取られていましたし、ホントに意地というか、ここで3点目を取られたら試合が終わってしまう、何とか止めたいという思いでした。キッカーの岩上くんがこの試合2本目のPKということもあって、自分としては1本目で何となくキックのクセが見えたので、思い切って勝負できました」

群馬戦で逆転勝利を飾ったチームは、続くツエーゲン金沢戦を2-1で制した。翌節は大分と1-1で引分けた。南はここでも決定機を阻止し、勝点1を持ち帰ることに力を注いでいる。

「守備がかなり整理されてきました。今まではサイドを簡単に崩されて失点したり、ラインが下がってしまって寄せられずにミドルシュートを打たれたりとか、勝てていないチームにありがちな失点がすごく多かったんです。それが、群馬戦の立ち上がりを除けばすごくコンパクトな陣形を保つことができて、一人ひとりの役割が明確になってきました。大分戦は相手にボールを持たれていましたけれど、崩されて危なかったシーンはそれほどなかった」

白星に恵まれない時期も、南のプレーは安定していた。失点のほとんどは、客観的に見てノーチャンスだったと言っていい。それでも、彼は自分の矢印を向けていた。

「ノーチャンスに見えるものを止めて、流れをこちらに引き寄せたいと、ずっと考えていました。劣勢でもゲームの流れを持ってくるのが良いGKですし、『どうにかしたらいけたんじゃないか』という失点は結構あるんです。一見するときれいに決められているように見えても、もう少し抵抗したかった失点はあるので。チームに流れを持ってくるようなプレーができるようにならないと、という思いはずっとありますね。クリーンシートがいまだにないので(第14節終了時点)、そこはGKとしてすごく責任を感じています」

ピッチに立ち続けられる所以

南のメンタルには、GKとしての使命感が根づいている。プロキャリアが25年目を数える経験者としての責任感も太い。だから彼は、チームの結果を自分ごととして強く受け止めるのだ。

「チームが苦しいときや流れが悪いときに、一人気を吐くのはすごく難しい。でも、それができるのが良い選手だと思うんです。そうありたいですし、チームが少しでも勝利に近づくようなプレーをしないと、試合に出ている意味がありません。そこはこだわらなければいけない、という気持ちでいます」

チームの勝利に貢献するために、南は一日一日を無駄にしない。誰よりも早くクラブハウスに行き、帰宅時間は誰よりも遅い。

「自分がやらなきゃいけないことをやっていると、クラブハウスに居る時間が長くなっちゃうんです。年齢も年齢ですし、人一倍どころか人の何倍も体に時間をかけないと……それは、横浜FCでカズさん(三浦知良)とか(中村)俊輔くんを見てきて、あの二人も自分の体にこだわってやっていましたし、だからこれだけ長くできるんだなというのは感じていたので、特別なことをやっている感覚はないんです」

練習前に一人で筋トレをするのも、練習後の体のケアに時間をかけるのも、42歳の南には欠かせない日課である。「やらなくてもいいならやりたくはないんですけどねえ」と言うが、「やらないわけにはいかない」のだ。

「いまこの年齢で大きなケガをしたら、おそらくサッカー人生は変わってしまう。それは30代後半からずっと思っています。ケガにはしょうがないケガもありますが、やるべきことをやっていなくてケガをして、『もっとやっておけば良かった』と思いたくない。ちょっとの悔いも残さないように全部やらなきゃ、という感じです。それが、自分に時間をかけている理由ですね」

コンマ数秒の攻防を制するために、途方もない時間を注いで自分を鍛える。自分を律する。自分を鼓舞する。自分を見つめる。

南のプレーから、目を離すことはできない。

離せるはずが、ない。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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