【聞きたい放題】泉澤仁「チームを勝たせなければ、戻ってきた意味がない」

選手に気になる質問をしていく本コーナー。今回はアキレス腱断裂という大ケガから復帰を果たした泉澤仁 選手に話を聞きました。※取材日=5月23日

聞き手=岩本 勝暁

チームを勝たせなければ
戻ってきた意味がない


プレーの手ごたえは?

――5月18日のいわてグルージャ盛岡戦で復帰を果たしました。率直な気持ちはいかがですか?
「長いリハビリだったので、やっとピッチに立てたという感想です。久しぶりのNACK5スタジアム大宮で、うれしさが込み上げてきました」

――試合後のコメントにも「懐かしさ」という言葉がありました。
「スタジアムの雰囲気やロッカールームもそうです。試合に入るまでの流れがいいなと思いながら試合に臨みました」

――パフォーマンスに関してはいかがでしょうか。良いクロスもゴール前に入っていたと思います。
「点を取りにいかなければいけない状態でピッチに入っているので、自分のリズムでプレーできていたかと言えばそうではなかったかもしれません。でも、いまは試合の流れというか、試合勘を取り戻していく必要があると思っています」

――霜田正弘(前)監督も、「練習でプレーするのと試合でプレーするのとでは全然違う」と言っていました。
「そうですね。試合勘は戻ってきているので、早くスタートから出たいという気持ちです。スタートから自分のリズムに持っていきたいですね」

――スタートから入ったほうが、自分のリズムが作りやすいですか?
「スタートから出ているほうが、自分の『仕掛け』がより生きると思っています。負けている状態でピッチに入ると、『早くゴールへ』となってしまいますから。自分の仕掛けより、『シンプルにクロスを上げなきゃいけない』という感じになってしまう。スタートから自分のドリブルで徐々に相手を引きつけていけば、自然とリズムも出てきます。そういう意味でも、スタートからのほうがやりやすいですね」

――確かに、泉澤選手の持ち味である「カットインからのシュート」も、出場した2試合ではほとんど見られませんでした。
「急ピッチで試合に戻ってきたので、シュートの部分に関してはまだ怖いところがあります」

―― 一方、1対1の局面で勝負できるのは、チームとしても大きな強みです。ここからコンビネーションが高まって集団で崩せるようになると、新たな攻撃のバリエーションにもなります。周囲とのコンビネーションはいかがでしょうか。
「まだまだ改善しなきゃいけないところは多いと思っています。自分のこともまだ理解してもらっていないし、一緒に練習や練習ゲームをしたのが数回という状態で試合に臨んでいるので。僕もチームメートのことを理解しなければいけないし、チームメートも僕がどういうプレーをするかを徐々に理解していってほしい。そうすれば、もっと良い場面が作れると思っています」

大ケガを乗り越えて

――左アキレス腱断裂という大ケガを負ったのが昨年9月でした。どういう状況だったのでしょうか。
「練習していたら後ろでバチンと音がして、そこから手術という感じです」

――ヴァンフォーレ甲府に移籍して2年目で出場機会やゴールも増え、泉澤選手の名前をニュースで目にする機会が増えてきたころでした。ショックも大きかったのではないですか?
「自分のケガというよりも、昇格争いをしている中でチームに迷惑をかけてしまったこと。当時の伊藤(彰)監督に対して、昇格する力になれなかったこと。そこの悔しさが大きかったですね。確かに個人としても良い状態だったので、なおさらショックは大きかったです」

――そんななかで大宮アルディージャへの復帰が決まりました。経緯を教えていただけますか?
「シモさん(霜田前監督)に取ってもらったというところが大きかったです。僕自身も大宮に興味があったし、シモさんとも話をして『ウイングのポジションをやらせたい』と言ってくださった。大宮への思いが強かったこともあり、戻ることを決断しました」

――リハビリはキツかったですか?
「想像以上にキツかったですね。痛みもあったし、普通に歩けるようになるまで3、4カ月もかかりましたから。いまも朝起きたときは痛いし、本当に大変なケガだったと思います」

――苦しいときに支えになった人は?
「やはり妻(フリーアナウンサーの山田真以さん)と娘です。二人のおかげでリハビリに専念させてもらうことができました。いまもそうですが、チーム練習が終わってから別のところに行って夜までトレーニングをしたり、また別のところに行ってケアをしたり、結局、家に帰るのが夜遅くになってしまうこともあります。正直、子育てをする時間もなく、ご飯を食べた後に交代浴に行くこともあって、1日家にいない状態がかなり続きました。そのなかでも支えてくれたので、復帰してプレーで恩返しをしなきゃいけないですね」

――実際にボールを蹴れるようになったのはいつごろですか?
「ちゃんと蹴れるようになったのは、試合(岩手戦)に出る2週間くらい前です」

――泉澤選手の最大の武器は、「ゼロヒャク」と呼ばれる急加速するドリブルです。アキレス腱は重要な働きをすると思うのですが、まだ怖さはありますか?
「試合になればそういうことはあまり考えないのですが、練習のときはまだ少し(動きの)かたさがあります。それまで本当に練習試合すらやっていなかったので、いまは試合をやりながら確認している状態です」

再加入までの道のり

――これまで所属したクラブでは試合に出られない時期もありました。比べづらいかもしれませんが、ケガで試合に出られないのとどちらが辛かったですか?
「それはもう、ケガをしているときのほうが相当辛かったです。(出場機会がなくても)まだサッカーはできているわけですから。ケガをしたときは、初めての手術だったこともあって、いろいろな不便もありなおさら辛かったです」

――2019年には海外でもプレーしています。
「ポーランドのポゴニ・シュチェチンではなかなか出場機会がなく、サッカー観の違いも感じました。最初の1カ月は一人で行ったこともあり、適応するのにかなり苦労しましたね。言葉も全然わからないし。ただ、それもすぐにプラスに考えるようにしました」

――サッカー観の違い、ですか?
「はい。日本で言うところの『チャレンジ&カバー』がないというか、ある意味、カバーなんかいらないという感覚でした。やられたら、責任はそこにあるという感じ。結局、個の能力を上げなければいけないと感じました」

――その後、横浜F・マリノスに加入しますが、出場は天皇杯の1試合にとどまりました。甲府に入ったころから、本来の泉澤選手のプレーが戻ってきた気がします。
「そうですね、やっと自分のコンディションが戻ってきたというか。甲府ではキャンプから参加したことで体も作れたし、自分のなかでフィットしたように思います」

――そして今季、6年ぶりに大宮に復帰しました。泉澤選手がいた2016年のころとはかなり顔ぶれも変わっています。いまのチームをどう見ていますか?
「本当にまだわからないんですよね。1月にケガ(左足踵骨疲労骨折)をしてキャンプにも参加していないですし。みんなと一緒に練習したのも復帰の1週間前。チームメートがどういうプレーをするのかはだんだんわかってきましたが、やはり理解するのに少し時間がかかっています」

――外からアルディージャの試合はご覧になっていたと思いますが、チーム状況はどのように見ていましたか?
「みんな自信を失っているなあ、と。練習でやっているプレーをそのままやれば、そう簡単に負けることはないのにと思いながら見ていました」

――自信を失っているというのは、試合のどういうところに表れていましたか?
「後ろのビルドアップのところだったり……、あとはボールを取られてもいいから、サイドハーフの選手はもっと自信を持って仕掛けてもいいのかなと思って見ていました。もちろん、試合に出ている選手にしかわからないこともあるんですけどね」

――泉澤選手が以前在籍していたころは、J2で優勝し、J1でも過去最高位の5位に入るなど、チーム全体がとても自信に満ち溢れていたように思います。
「だからと言って、当時は自分たちのことを『強い』とは思っていなかったんです。そう言っていただくことも多いのですが、自分としては『そんなことなかったなあ』と思いながら聞いています。もちろん、『もっと上に行きたい』という向上心は全員が持っていました。現状に満足している選手は一人もいなかったですね」

完全復活と言えるように

――チームに合流して、いよいよ本格的な復帰です。ポジション争いも激しいと思いますが、どこで勝負していきますか?
「1対1の部分、そこですね。どれだけ相手を引きつけるか、どれだけ数的不利な状況になれるか。そこで違いを出せたらと思います」

――数的不利な状況ですか? 一人でボールを持ち、相手を2、3人引きつけるということでしょうか? それによって、逆に周りが数的優位になると。
「はい。仙台戦も1回目は1対1の状況でしたが、その次からは相手のサイドバックとボランチとサイドハーフが僕のところにゆっくり来ていました。それを試合開始からやっていけたら、徐々に相手を押し込んでいけると思っています」

――サイドで相手を引きつけて、ゴール前で数的優位を作ればチャンスも増えますね。
「そうですね。チームメートには、信頼して中(ゴール前)に入ってほしいです。あとはしっかりクロスを上げられれば、点が入る可能性も高まると思います」

――年齢的にも30歳を過ぎ、ベテランの域に差し掛かろうとしています。チームにおけるご自身の立ち位置をどのようにとらえていますか?
「チームを勝たせなければ、戻ってきた意味がないと思っています。できるだけ早くスタートから行けるコンディションを作って、1試合でも多く出場してチームを勝たせたいですね」

――ゴールも期待しています。
「ゴールは本当にほしいです。ただ、何と言うんでしょうか、いまはシンプルにゴールまでボールを運ぶ人がいないので、自分自身のゴールというところには至っていません。言い換えると、いまはそこ(ゴールまでボールを運ぶこと)に力を使っているという部分もあります。もちろん、僕も点が取りたいし、目立ちたいという気持ちはあります。だからと言って、『ゴール前でしかドリブルはしないよ』となると、いまのチーム状況から考えるとマイナスになってしまう。その葛藤はあります。いまは我慢して、チームの勝利のために自分の力を発揮したいですね」

――どういう状況になれば、泉澤選手の“完全復活”と言えるでしょうか?
「スタメンで2、3試合出れば、完全復活だと思います。出場しない限り、コンディションは上がらないので。90分とは言わなくても、70分とか60分でもいい。前線の選手として、ガツガツやっていきたいと思います」



岩本 勝暁 (いわもと かつあき)

2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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