オフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP【2022年6月】

その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP。6月のマンスリーMIPは、今季途中からゴールマウスを守り続けている志村滉選手です。


とにかく我慢強くやり続けることが大事
文=戸塚 啓

一躍チームのムードメーカーに

後半戦の巻き返しを期すチームで、この男に寄せられる期待は大きい。

GK志村滉である。

4月7日にギラヴァンツ北九州から期限付き移籍した。上田智輝の長期離脱による緊急補強で、同9日のヴァンフォーレ甲府戦からメンバー入りする。

「J2の順位はチェックしていたので、どうして大宮がこんな順位にいるのだろうと不思議に感じていました。合流してみると、なかなか勝てていないのでチームの雰囲気はちょっと重いところもありましたので、最初のあいさつで一発ギャグをしました(笑)。小さなことかもしれないですけど、雰囲気は大事だと思いますので、いろいろな選手とコミュニケーションをとるように意識していました」

キャラクターは明るい。クラブ公式サイトのQ&Aにある「アルディージャで一番のムードメーカーは?」との質問には、「カワくん(河田篤秀)と自分(これからは2トップでいきます)」と答えている。

「磐田、水戸、FC東京、北九州でチームメイトだった選手もいますし、チームに馴染むのには1日も要らなかったですね」

甲府戦から8試合連続でベンチ入りしていくと、5月18日のいわてグルージャ盛岡戦で急きょピッチに立つ。負傷退場した南雄太に代わり、加入後初出場を果たしたのだ。

「いつでも試合に出られる準備はしてきたつもりですが、雄太さんのああいうケガで出るというのは、もちろん想像していませんでした。ちょっとびっくりしたところはありましたが、準備はしていたので焦ることもなく試合に入れたと思います」

Jリーグのピッチに立つのは、21年4月10日の甲府戦以来だった。公式戦の緊張感から1年以上も離れていたが、落ち着きを失うことも、気持ちが揺らぐこともなかった。

「自分で言うのもなんですが、試合型の選手というか、大舞台に強いと言いますか……去年の1試合目の出場も途中からだったのですが、そのときも崩れることなくプレーできました。プロになってからシーズンを通してずっと試合に出たことはないですが、いつ出ても良いパフォーマンスができる準備は、練習からできているのかなと思います」

危機感と覚悟

大宮のGKのトレーニングでは、一見するとサッカーに関係のない用具や器具が使われている。ドイツで知見を深めた松本拓也GKコーチのメニューは、独創的で実践的だ。

「すごく面白いですね。練習メニューの種類が豊富ですし、いろいろなものを使って試合で実際に起こるようなシチュエーションを作ってくれます。相手のクロスが味方選手に当たったあとの対応を練習していた週の試合で、ほぼ同じ状況が起こったことがあります。もちろん、しっかり対応することができました」

相馬直樹新監督のサッカーは、「徐々に浸透してきています」と話す。監督のサッカーを理解しながら、志村は自らとチームメイトに矢印を向ける。

「7月2日の岩手戦でも、ある程度良い攻撃ができていたと思うのですが、結果につながらないとやはり意味がありません。そこは選手たちの仕事だと思います。いまいる順位は相当厳しくて、いまの覚悟のままでは同じ順位にいることになってしまう。全員が責任をもって結果にこだわって、この状況を変えるんだという気持ちでやっていくべきだと思います」

7月は水曜開催の試合があり、合計6試合を消化する。ここで勝点を積み重ねていけるかどうかは、大宮のシーズン全体を左右することになりそうだ。

「J2は今年に関しては勝点差がないので、いまの順位からでもまだまだ上も狙えると思います。連勝すればポンと順位は上がりますが、そこでひと安心ではなく、そこからさらに勝点を積み上げていくことが大事です。7月は連戦で厳しいところも出てくるかもしれないですけど、高いモチベーションと強い気持ちで試合に臨んでいきたい。大宮はこの順位にいるべきチームではないし、環境的にもこういう順位にいるべきチームではない。それは、大宮に来てはっきりと感じていることです」

GKとして心掛けるのは「安定感」だ。

「攻撃陣が思い切って攻められるように、守備の選手も躊躇せずに攻撃参加できるように、安定感のある守備を見せていきたいです。無失点で終えれば守備陣は良い流れになっていくので、とにかく我慢強くやり続けることが大事だと思います」

サポーターの後押しが力に

プロ入りから6シーズンを過ごしたジュビロ磐田は、ホームスタジアムが球技専用だ。前所属の北九州のホームも球技場だ。臨場感あふれるスタジアムでプレーしてきた志村だが、NACK5スタジアム大宮は「素晴らしいですね」と言う。

「ファン・サポーターのみなさんとの距離が近くて、ピッチとスタンドの高さの違いもあまりなく、観客の皆さんが選手に近い目線で見られるので、すごく良いスタジアムだなと思っていました。大宮に移籍して実際に試合に出てみたら、ゴール裏のサポーターの皆さんを背にしたときに、太鼓や拍手をものすごく感じることができました。声を出した応援を聞ける日が早く来てほしいな、と思っています」

アウェイにも駆けつけてくれるファン・サポーターには、「本当にありがたいです」と真っすぐな感謝の気持ちを抱く。彼らの気持ちを受け止めるからこそ、「現状を打破する」との思いが体の芯を貫くのだ。

「アウェイの盛岡戦も、たくさんのファン・サポーターの皆さんに来ていただいて、大きなパワーをもらったなかで戦うことができました。ホームでもアウェイでも、皆さんのパワーがすごく力になっています。そのなかで勝てなかったのがホントに悔しかったですし、結果は僕たち選手の責任です。毎試合大きなパワーを与えてくださるファン・サポーターの皆さんのために、僕たち選手はここから勝利を重ねて順位を上げていきますので、ぜひ一緒に戦っていただけたらと思います」

GKが勝点を運ぶプレーを見せると、チームは目標に近づく。それだけに、後半戦の巻き返しを期すチームで、志村に寄せられる期待は大きいのだ。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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