クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。
Vol.007 早草 紀子
J1参入プレーオフ・モンテディオ山形戦が、終わった直後の櫛引一紀選手を捉えた1枚だ。
この数十秒前まで、ピッチ上ではさまざまな感情が交錯していた。試合終了と同時に線引きされた歓喜と落胆。オレンジ色に染まった観客席の熱が急速に冷めていくのが、カメラ越しにも伝わってくる。
それはピッチ上でも同じだ。挨拶が終わると、いつもの場所に選手たちが集まってくる。言葉を交わすものはない。当然のことながら、その足取りは重い。
勢いが増していく山形の攻撃陣と対峙し続けた櫛引選手。相手のスピードを削ぎながら間合いをはかり、侵入を防ぐ。展開が転じればすかさず最終ラインを上げ、攻撃陣を動かすパスも生み出した。それでもJ1への扉を開くことはかなわなかった。
ドリンクボトルにも手を伸ばさず、タオルを握り締める。この瞬間、おそらく彼の周りから全ての音が消えていたのではないだろうか。脳裏に巡るのは悔恨か、はたまた完全なる“無”か――。
呆然と座り込む姿に、感情の落としどころが見つからないのだろうと想像しながらシャッターを切る。彼の感情がようやく動き出したのは、ゴール裏に移動したときだ。悔しさをにじませるように険しい表情を見せながら、深々と一礼した。
思えば第39節・柏レイソル戦を制してからプレーオフまで、常にギリギリのところでJ1復帰への可能性と向き合ってきた。選手の姿をカメラで追いながら、平常心を忘れ、激しく一喜一憂することもままあった。諦めかけては、いやまだまだ! と奮い立たせる日々は約1カ月にも及んだ。
2年連続の結果を受け止めるのは簡単ではないけれど、来年は歓喜の瞬間を思う存分切り撮らせてもらうことにしよう。
早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。