クラブオフィシャルライターが今、気になる人や話題について取材をする本コーナー。今回は先日、退任が発表された藤原寿徳GKコーチに、今シーズンのGK陣について話を聞きました。
Vol.008 平野貴也
GKコーチの視点で振り返る2019シーズン
――今シーズンは4人中3人のGKがリーグ戦に出場し、いずれも好プレーを見せてくれました。1年を振り返って、どのような感想を持っていますか?
「チームとしてやるべきことは、監督によって決まること。そこは押さえていかなければいけませんが、選手それぞれにタイプが違うことは問題ありません。それぞれが真のプロとして自立し、どんな状況でも、チームが目標に近付くための大事な一人として頑張るということを、シーズンが始まる前に4人全員と約束しました。今年は3人が公式戦に出場しましたけど、全員がどの立場でもモチベーションを落とすことなく、プロとして働いてくれたと思っています」
――GKはリーグ戦に1人しか出場しないことも多いポジションですよね。
「アクシデントがない限り、試合中に交代することがないですからね。どのチームを見ても、リーグ戦の出場は1人か2人が多いと思います。ただ、大宮の選手は実力が近いので、誰が出ても良いように毎週準備をしていました。1番手がケガをしたから、次は2番手という話ではない競争ができていたと思います。例えば、笠原昂史選手はハイボールに強くてゴールを守れる幅があり、加藤有輝選手はスピードを生かした守備と攻撃力があります。個々の特長をチームとしてどう生かすかが大事なので、前の試合でベンチに入っていなくても、次の試合で先発はあり得るぞと話していました。そういう意味で、今年は3人が出ましたけど、クオリティーを落とさずに力になれましたし、代わって出たら急激に力が落ちて負けたということもなかったので、良かったと思います」
――シーズン中盤では、笠原選手が負傷した際、若い加藤選手が初めて出場のチャンスをつかみました。見ている方としては楽しみが大きい分、公式戦デビューでミスが多かったらどうなるのだろうという不安もありました。どのような気持ちで送り出したのですか?
「選手を毎日見ていると、『これなら出せる』と思える時期があるものです。それが、まさに今回でした。高木琢也監督も見ていましたし、リーグでデビューする前に天皇杯に出ましたが、そこでも良いパフォーマンスをしていました。元々、攻撃力のある選手ですが、守備の集中力も高く、これならいけるなという感触がありました。だから、心配はありませんでした。もちろん、実戦に慣れていく必要はありましたが、攻撃面ではキック(パス)で状況を変えてしまうことができる選手ですし、チームもそこに期待していました。監督も若い選手を使って伸ばすことが底上げだと理解されていたので、楽しみしかなかったですね」
第22節・鹿児島ユナイテッドFC戦から先発の座をつかんだ加藤。今シーズンはリーグ戦10試合に出場した
――実際に、加藤選手のパフォーマンスは良かったと思いました。ただ、勝利という結果が付いて来なかったところは、シビアな現実を見せられた印象でした。
「チーム全体で見たときに、勝ち切れない試合が続きました。彼のパフォーマンスは悪くなかったのですが、では、すごく良くてチームに大きな影響を与えたかというと、そこまでではありませんでした。守備の最後の砦であるという部分では、もう少し存在感を出せたのではないかと思います。本当にシビアなところです。実際に笠原選手が復帰し、勝てないという状況は止まりました。そこは、監督の経験を生かした素晴らしい起用でしたよね。あそこから、引分けや勝ちといったもう一つ上の結果で終わることができました。監督の勝負勘と経験による起用で素晴らしかったと思います」
――加藤選手にとっては、手応えがあるのに先発の座を失う悔しい形になりました。
「若い選手にとっては、必要な経験だと思います。試合に慣れたところで、もう一度冷静に見つめ直したり、強い刺激があったりしたときに、もうひと伸び来る可能性があります。だから、チームにとって悪いことではなかったと思います。彼には、2020年東京五輪のチャンスがあります。確かに、試合に出続ける力があればいいですが、私は日本代表の選手も何人も見て来ましたけど、そういう(結果につながる)部分が甘いと呼ばれません。プレー内容だけでなく結果まで評価できるパフォーマンスまでそろったときに呼ばれるものです。実際に代表のスタッフは何試合か見に来ていましたが、“そろう時期”は必ず見てくれています。まだ足りないというところはあったと思います。次の機会のために、ジャンプするためにかがんで力を溜めることが必要です。そうしなければ、レベルアップにつながりません。そこそこはできるけど、チームを勝たせられない選手ではいけません。もうワンランク伸びてほしいですね」
――清水選手は、出場機会がありませんでした。
「彼の良いところは、シュートストップの反応のスピード。練習でもすごくよく止めます。しかも、近距離からのシュートにとても強いです。彼にも伸びてほしいところはありますが、彼が試合には出られなくても練習で安定したセービングを見せていたことで、他の3人も気が抜けなかったと思います。4人で良い競争をするグループになれていたと思います」
――藤原GKコーチに聞きたいことがあります。試合中は指笛を懸命に鳴らす姿が印象的でした。
「あれは、特別な意味はないですよ。守備のセットプレーは、ネガティブな気持ちになりがちですけど、今シーズンは失点が少なかったですよね。私としては、練習のときから吹いているので、同じ気持ちにさせるというか集中力を喚起するために吹いています。あとは、応援というか、みんなで強い気持ちで臨もうという意味合いでしかないです。指示を出す場合もありますけど、基本的には、指笛で呼んで叫んでも聞こえないですから(笑)」
――指笛って、あんなに音量が出るんですね。
「鹿島アントラーズでコーチをやっているときから、練習でずっと吹いていました。どこかのコーチが昔、吹いていたんですよね。どなただったか忘れましたけど。それで真似をしたのが最初かな。ちょっと空気を変えたいときに、あの音がいいなと思うんです。心理的に、ホイッスルの音よりも指笛の何かが裂けるような音の方が、注意を喚起できるような気がしています」
――指笛だと元日本代表監督の岡田武史さんが有名です。
「岡田さんは、吹き方(指の使い方)が違うんだよね」
――某ラジオ番組でも取り上げられたようですよ。
「聞きました(笑)。私はゲームの流れに夢中なので、どこまで聞こえているかなんて、気にしていないし、全然分からないですけどね。まあ、本当は不要で黙って見ていられるのが一番良いです。でも守備は、気持ちで変わるところもあります。実は昨年、私が来て1年目のときに、それぞれの役割はやるけど、みんなで固まって守るという雰囲気が少し足りないかなと思い、気持ちを一緒にしたかったんですよね。自分のマークだけじゃなくて、誰かのマークが外れて、そこにボールが来たら、自分のマークを捨ててボールに行った方が良いですし、みんなで守るという気持ちが大事だと思うので。よく鳴らしていたかもしれないですけど、今シーズンは危険な場所でのFKも少なかったですし、本当にセットプレーの守備に関しては、良かったと思っています」
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。