MF33 奥抜侃志【マンスリープレーヤーインタビュー】

ラストチャンスで結果を出す

それは、もしかしたら彼の運命を変えたゴールだったのかもしれない。

第17節・京都サンガF.C.戦だ。0-0で迎えた12分。奥井諒が中盤でボールを奪うと、素早く前線のフアンマ・デルガドへ。ヒールパスを受けた茨田陽生がペナルティエリア内にスルーパスを送り出す。ニアサイドに走り込んだ奥抜侃志はDFをワンタッチで振り切り、倒れ込みながら右足を振り抜いた。角度のない位置から放たれたシュートは、左のサイドネットを揺らした。待望のプロ初ゴールは、停滞しかけたチームを救う会心の一撃だった。そして、この試合から先発の座を奪取した。

「第5節・水戸ホーリーホック戦に途中出場しましたが、そこまでいい活躍ができませんでした。だから僕の中では、チャンスが来ても『あと1回だろう』と思っていたんです。それが京都戦でした。何が何でも結果を残さなければいけなかった。どういう流れでボールが来たかはあまり覚えていませんが、感覚で、気持ちで押し込んだゴールでした」

昨シーズン、18歳でプロとしてのキャリアをスタートさせた。決して順風満帆ではなかった。2018年は7試合の出場に留まった。自分の色は出せたが、ゴールは「0」。東京ヴェルディとのJ1参入プレーオフは76分から途中出場するものの、決定的な仕事をするには時間が足りなかった。

悔しさをバネに臨んだ今シーズン、しかし、1月のキャンプでは新たに就任した高木琢也監督から激しく叱責される場面があった。

「僕、結構ドリブルする場面が多いんです。そのときもドリブルで1人か2人を抜きました。でも、3人目で引っ掛かってカウンターを受けてしまった。そしたら、高木さんから厳しい口調で、『そんなにドリブルが好きなら手でボールを持ってサッカーをしろ』と言われたんです」

そこから何かが変わった。開幕まで時間があったことも功を奏した。ワンタッチでボールをさばくフリックを取り入れる場面も増えた。前向きでボールを持てば、ドリブルもできるしパスも選択できる。仲間をうまく使えるようになり、攻撃のバリエーションが広がった。

「叱られたと言っても、僕のことを思ってのことですからね。自分がどう捉えるかで成長につながると思っています」

新しいポジションでの挑戦

[3-4-2-1]の新しいフォーメーションにもすぐにフィットした。2シャドーの一角に新境地を見出している。

「前からの守備を求められるポジションだし、ショートカウンターが多くなる。自分にとっては、合っているポジションだと思います。昨年に比べたら走る量も増えてきました。試合を重ねるたびに体力は上がっているし、今はそれほど体力的にキツいと感じることはないですね」

第34節のV・ファーレン長崎戦で決めたゴールは、まさに理想的な形から生まれたものだ。前線からプレッシャーを掛け、左サイドで酒井宣福がボールを奪った。平行に出たパスを受けると、素早く中に切り込んで左45度の位置からミドルシュート。ボールは糸を引いたようにゴールネットに吸い込まれていった。

「自分の形を出すことができました。前からの守備がハマって、(酒井)ノリくんからいいパスが来た。あれは自分でもいいゴールだったと感じています」

プロの世界に憧れを抱くようになったころからドリブルばかりやっていた。子どものころは、家の中でも兄と1対1の練習をしていたという。寮生活となったJr.ユース(現U15)時代も、学校から帰るとすぐにグラウンドに飛び出してドリブルの練習をしていた。

「ドリブルはすごく自信を持ってやっていました。そこだけは誰にも負けたくない。ユースにいたころも、トップの選手に負けたくないと思ってやっていました」

自分の中ではもう若手じゃない

名は体を表すという。侃志の“侃”を辞書で引くと、「性格が強く、心正しいさま」とある。水を向けると、「合ってますね」とさわやかに笑った。

性格は思考派というより感覚派。周りから“天然”と言われることもあるが、本人にその意識はない。ただ、将来の青写真は明確に描いている。

「恩返しというか、まずはアルディージャでいろいろなものを残していきたい。自分にとっての挑戦という意味では、海外に行っていろいろな選手と対戦し、多くのことを学びたいと思っています」

今はまだ、ここでやるべきことがある。J2優勝とJ1昇格という最高のクライマックスに向けて、多大なる覚悟を持ってピッチに立つ。

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