Vol.005 平野貴也「油断禁物」【オフィシャルライター「聞きたい放題」】

クラブオフィシャルライターが今、気になる人や話題について取材をする本コーナー。今回は先日、退任が発表された藤原寿徳GKコーチに、今シーズンのGK陣について話を聞きました。


Vol.005 平野貴也

油断禁物

暑い、とにかく暑い。今年も猛暑がやって来た。高木琢也監督が「この暑さで、トレーニングもたくさんはできないし、私も好きな方だけど、そこまでできないなと、立っていて感じている。モンテディオ山形戦に勝った後の2連休も、休むことの必要性を感じているから。リフレッシュして動ければ、戦術を細かくやるよりも良い結果が出るかもしれない」と言うように、相手と戦う前に、暑さとも戦わなければならない時期である。

7月25日、名古屋グランパスから期限付き移籍により加入したDF櫛引一紀は、埼玉の暑さに慣れているところ。出身地の北海道室蘭市は、さいたま市に比べると平均気温が5度くらい低い。札幌でプロになって京都へ遠征したときに「夏の暑さが違う!」と気付いたという。もちろん、今では名古屋での生活を経て、本州の暑さにも慣れているが、やはり埼玉の暑さは少し質が違うようだ。

「90分の試合をこなす中で、ゲーム体力が戻って来ているのは良いことなんですけど、練習も結構きついですし、この気温なので、調整の難しさはありますね」

サッカー選手にとって、夏は大敵。走ることの多い競技で体温が上がりやすく、ダメージが残りやすい。しかし、それを乗り切る体力をつけなければ、勝負には勝てない。そのため、ほとんどの選手が学生時代に走り込みを経験している。櫛引も例に漏れず、夏の思い出と言えば、それだった。

「楽しい思い出は、ほとんどないですね……。(室蘭大谷)高校で、めちゃくちゃ走った印象が強い。3年生のときはインターハイに出て、開催地が沖縄だったから暑かったのですが、僕にとっては初めての全国大会だったので、楽しかったです。でも、下級生のときの函館合宿は、宿舎から海辺まで走って、昼間に浜辺で走り込んで、また宿舎まで走るとか。距離も結構あって、休む暇がないくらい走り続けていました」

想像するだけでもしんどくなる話だ。しかし、小学生のころまで記憶をさかのぼれば、楽しい思い出もあるという。夏休みに入り、練習を見に来る子どもたちも多い。櫛引に子どものころの思い出を聞いてみた。

「子どものころは、楽しかったですね。お祭りが好きでした。もらったお小遣いの中でやりくりしながら、カキ氷を食べたり、くじ引きや射的をやったり。今でも、ちょっと行ってみたいなと思うくらいですけど、大人になると『暑いし、汗をかくからやめよう』と冷静になっちゃいますね。あとは、従兄の家に泊まりにいくとか。泊まって夜更かしをしてゲームをするのとかは、楽しかったですね。自由研究? 何をやったか、まったく覚えていないな……(笑)」

夏を楽しむ少年は、苦しい夏を乗り越える青年になり、夏の暑さに負けず戦うプロサッカー選手になった。直射日光を避けられないグラウンドで、走り回って体温が上がる。水分補給はもちろん、体温調整も必要だ。睡眠不足も天敵。しかし、クーラーの冷気を浴び続けても、身体の調子が狂う。クーラーは、タイマー機能を使うことで使用時間を抑えているという。

コンディション調整が難しい時期なのは言うまでもないが、シーズン途中の加入は即戦力の期待を受けるため、すぐに結果を残さなければならないという気持ちが生まれるものだ。櫛引は「チームとしても重要な時期。僕がチームに入って負けた、なんていうのは嫌なので、勝ち続けたい」と、強い意気込みで臨んでいる。


加入から約1週間後の明治安田J2第25節・FC岐阜戦から先発起用され、初陣こそドローだったが、その後は3連勝。試合に出るようになって3勝1分。失点した試合は悔しさも伴うが、早くもチームを勢い付ける原動力となっている。順位は自動昇格圏の2位に浮上。勝点6差の首位・柏レイソルを追う態勢が整った。このまま優勝の原動力へと躍進してもらいたいところだ。

ところで、夏の暑さはまだ続く。

「練習が終わってシャワーを浴びても、車の中に入ったら汗が吹き出します。キーを入れてエンジンをかけて、ギアを入れようとしたときに、そこが銀色なので『熱っ!』ってなりますね」

家に帰るまでが仕事? 油断は禁物だ。


平野 貴也 (ひらの たかや)
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。

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