Vol.033 戸塚 啓「あるストライカーの素顔」【ライターコラム「春夏秋橙」】

ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”するオフィシャルライター陣の視点で、毎月1回程度お届けします。

Vol.033 戸塚 啓
あるストライカーの素顔

試合中の彼は、はっきり言ってコワい。NACK5スタジアム大宮の記者席に座っていると、主審や副審に激しく主張する声が聞こえてくる。僕が審判員だったら、恐怖で体がすくんでしまう。たくましくたくわえられた髭がまた、威圧感を増しているのかもしれない。

普段の彼は違う。とにかく柔和である。

練習後のファンサービスには、とても気さくに応じている。メディア対応も紳士的だ。一度取材をさせてもらったら、また話を聞きたいと思わせる誠実さを、スペインからやってきた彼──フアンマ・デルガドは感じさせる。

シンプルにまとめれば、「プロフェッショナル」ということだ。好きなサッカーを職業にできていることへの感謝を、彼はいつも胸に秘めている。

母国スペインからJリーグにやってくる選手が、このところ増加傾向にある。それも、とびきりのビッグネームが。

「スペイン人選手がJリーグに増えているのは、個人的にもとてもうれしいことです。日本のサッカーがさらに発展していくためには、外国籍選手の存在も大事になってくると思います。良い外国籍選手が増えれば、リーグ全体のレベルアップにつながりますからね。その中にスペイン人選手がいるのは、とても光栄なことだと思います」

母国から離れた極東の地で、特別な一戦を経験することもできた。少年時代のアイドルだったフェルナンド・トーレスと、明治安田J1で同じピッチに立ったのである。

「フェルナンド・トーレスやジエゴ・コスタのプレースタイルが好きで、以前からずっと見てきました。トーレスとはⅤ・ファーレン長崎に在籍した昨シーズン、J1リーグで対戦することができました。試合後にはユニフォームを交換することもできました。私にとって忘れることのできない、特別な瞬間でしたね」

明治安田J2第17節終了時での7ゴールは、得点ランキングの6位だ。パフォーマンスの安定感から判断すると、一昨シーズンのJ2リーグで記録した11ゴールを上回るのは確実だ。得点源としての役割を、力強く果たしている。

だからといって、自分本位ではない。第17節・京都サンガF.C.戦で奥抜侃志がJリーグ初ゴールをマークすると、自分のことのように喜んだ。

「侃志も、侃志と一緒にスタメンで出た昇偉も、才能を持った素晴らしい選手です。若いからといって、できないことなどありません。むしろ、とても大きな可能性を秘めている。能力を伸ばしていってくれれば、もっともっといい選手になっていくでしょう」

この試合ではダメ押しの3点目を決めているのだが、自身のゴールは完全に後回しだった。若い二人への思いを、熱っぽく語っていった。

アルディージャ加入1年目ですぐにチームにフィットしたのは、チームへの忠誠を誓うメンタリティーがあるからなのだろう。フットボーラーとしてはもちろん、人間としても魅力にあふれている28歳の存在が、とても頼もしい。

戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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