Vol.001 早草 紀子「新たな可能性」【ファインダーの向こうに】

クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。



Vol.001 早草 紀子

新たな可能性


カメラを構えていると、確保できる視野は非常に狭い。だからこそ、ファインダーの中に映る情報に集中できるとも言える。

今シーズンは新しいスタイルへ挑戦しているため、開幕から間もないこの時期は、これまでと違う動きをする選手たちを把握しなければならない。頭の中をフラットにしているつもりでも、どこかでこの選手はこういう動きをするだろうというイメージが抜け切らないためか、選手たちのプレーに少なからず翻弄されるときがある。

そんな時間帯がまた面白かったりするのだ。「こんな動きをするのか」と、驚きと高揚感が交じり合う中で、時に追いかけ、時に待ち構えるようにその姿をとらえていくのは、この時期ならではの醍醐味かもしれない。

3月10日に行われた徳島ヴォルティス戦では、畑尾大翔のこの表情に、新しい形の可能性を教えてもらった。展開が切り替わり、最終ラインでボールを持った彼。いつもなら、少し持ちながら前線のスペースを探る。うん、途中まではいつもの感じだ。そうそう、そこまで運ぶと、次は……。

ここから、次の組み立てに絡む選手へ視野を切り替えるのが通常である。このときも、そうするつもりだったが、渡部大輔へボールが渡ったとき、「あれ? まさか上がる気ですか?」と一瞬で察知させてくれたのが、畑尾のこの表情だった。

次の瞬間、彼は右サイド前方を目掛けてかけ出した。「本当に走った!」とワクワクしながら、思わず全力疾走する彼をファインダーで追跡してしまった。残念ながら、その狙った場所にボールは出てこなかったが、今年はこのパターンも出てくるのか。心してかからねば。

こういう発見ができるこの時期は、やっぱり面白い。


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。

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