オフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP【2022年8月】

その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP。8月のマンスリーMIPインタビューは、シーズン途中にキャプテンに就任し、上位陣相手の2連勝に大きく貢献した富山貴光選手に話を聞きました。


「どんなに苦しい状況でも、感謝の気持ちを忘れずにプレーしたい」

文=戸塚 啓

人生初のキャプテン

シーズン終盤へ向かっていくチームを、富山貴光はキャプテンとして支えている。プレースタイルは献身的で、自己犠牲を厭わないメンタリティはリーダー気質の表われにも映るが、意外なことにキャプテンに指名されたことはなかったという。

「人生初めての経験です。中学校のときに、副キャプテンをやったことがあるぐらいで。相馬監督とクラブと話をして、断る理由はないので引き受けました。いま目の前にある目標はJ2に残留することなので、それに向けてピッチ内外でやれることを、自分らしくやっていこうと思っています」

大宮に加入したのは2013年である。2度の移籍を経験したものの、現在のメンバーではもっとも古くからトップチームを知る選手だ。気がつけば年長者の一人でもある。ベテランとキャプテンに就任する以前から、周囲への目配せは心掛けていた。

「自分なりにやっていた部分はありますが、キャプテンになってさらにやらなきゃいけない部分も増えました。ミスをしちゃいけない場面でミスが起こったら、厳しい声をかけなければいけないこともあります。逆にいいプレーをしたときは、とことん褒めるとか。メリハリは大事にしています。チームとしていい雰囲気で練習ができるようにしていきます」

昨季はギラヴァンツ北九州へ期限付き移籍した。愛する大宮から離れて、強く感じたことがある。

「どれだけの人がクラブをサポートしてくれているのかを、あらためて感じることができました。北九州ではいくつかの食堂がスポンサーになってくれて、選手にお金の負担をさせずにお昼ご飯を食べさせてくれるんです。それ以外のところでも、いろいろな人が声をかけてくれて、地域の人たちのありがたみというものを、再確認することができました」

北九州で育んだ思いは、大宮へ復帰してさらに膨らんでいる。

「自分たちに見えるところでも、見えないところでも、たくさんの人たちに支えられていると思います。その環境にあらためて感謝しながら、少しでも恩返しがしなければいけないと、ここへ戻ってきたときに感じました。そういう人たちのためにも勝ち続けないといけないですし、勝点を取れなくても感動を与えられるような試合を、提供していかないといけない。それがプロサッカー選手の仕事だと思います」

強い大宮を取り戻す

リーグ戦は残り9試合となった。第30節と第31節は上位相手に連勝を飾ったが、その後は連敗となっている。

「横浜FCと仙台に連勝したのは、我慢強く戦ってみんながハードワークした結果でした。そこは忘れちゃいけない。監督も求めている部分なので、それは継続してやっていく。プラスアルファで各々の強みを出していければ、もっと勝利をつかめると思う。僕自身はみんなが強みを出せるようにサポートをしながら、僕自身も強みを出せるようにやっていきたいと思います」

北九州ではJ3降格の現実と直面した。「J2で勝つことは難しくなっている。どこがJ1へ上がってもおかしくない」と話す。実力拮抗のリーグであることを理解したうえで、富山は大宮の捲土重来を誓う。

「ここへ帰ってくるときには、もう一度強い大宮に返り咲きたい、そのために少しでも貢献したいと思いました。それができるクラブであり、それができる選手がそろっている。いまのような立場にいるべきクラブではないと思います。J2で勝つことは難しくなっているけれど、そのなかでどれだけ勝点を積み上げられるか。僕自身が成長しながら、クラブも成長しながら、強い大宮を取り戻したい。それは、ずっと思っていることです」

8月末には奥抜侃志が海外へ旅立った。富山は後輩の存在を刺激として、自身もレベルアップしていきたいと考えている。

「彼は以前から海外へ行きたいと言っていたので、個人的にもうれしいです。クラブとしてもいいニュースだと思います。移籍先のチームで活躍をして、日本代表に選ばれるようになったり、トップリーグへステップアップしていったりしたら、クラブにとってもうれしいことです。僕たちはここで強いチームを作っていかなきゃいけないので、侃志とはお互いが切磋琢磨していけるような関係でいたいと思います」

すでに消化した熊本戦を含めて、9月は5試合を消化する。リーグ戦が最終局面へ向かっていくなかで、富山は何を思うのか。

「どんなに苦しい状況でも、感謝の気持ちを忘れずにプレーしたい。自分がピッチに立ったら、チームメート、スタッフ、クラブの関係者、クラブを支えてくれる人たちのことを思いながら、彼らの思いを背負いながら、何が何でも、どんな形でもいいので、勝点3を取る。勝点3が難しい試合では、最低でも勝点1を取れるように。近道はないと思うし、地道な作業が繰り返されていくでしょうが、一日一日、一分一秒を大切にして。日ごろの練習からチームを勝たせるために何ができるのかを考えて、一人ひとりの選手がうまく強みを出せるように、うまく手助けをしながら、チームがいい状況で、いい雰囲気で練習ができて、いい試合ができるように。そして、最後には笑って終われるようにやっていきたいです」

チームメートを思い、チームを思い、クラブを思い、ファン・サポーターを思い、大宮アルディージャを支えるすべての人を思う。クラブの遺伝子を継承する者として、富山はピッチの内外でハードワークをしていく。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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