【ライターコラム「春夏秋橙」】ただいま急成長中。室井彗佑は、ここからさらに進化する

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、大学サッカーに造詣の深い飯嶋玲子記者が、来季の加入が内定している東洋大の室井彗佑選手の人となりを紹介してくれました。


【ライターコラム「春夏秋橙」】飯嶋 玲子
ただいま急成長中。室井彗佑は、ここからさらに進化する

623日に東洋大の室井彗佑の来季加入が発表された。念願のプロ入りをつかみ取った室井だが、3年生までは決して順風満帆ではなかった。

1年生のときの出場は2試合のみ。23年では出場試合数こそ増えたものの、そのほとんどが途中出場。2年生で4得点、3年生で5得点という数字は、エースと呼ぶには難しい。同学年の選手がスタメンで活躍するなか「焦りもあったし、実際に監督と話をしたこともあります」と室井は言う。すべては自分に何が必要なのか、室井自身で気が付くことに懸かっていた。そして今季、彼は大きな成長を果たし、3年ぶりに1部リーグに復帰した東洋大の躍進に貢献している。

室井の特長はスピードだ。背後に抜けるスピード、裏を取るタイミング、そして11をしかけるときの思い切りの良さ。どちらかといえば小柄なほうだが、前橋育英高時代からそのスピードは評価されていた。自身も「高校時代まではスピードだけで勝負しようという気持ちがありました」と認める。ただ大学サッカーは、スピードだけでは通用しないことも痛感した。2年生のときには筋力トレーニングを増やしてフィジカル強化に努めたが、なかなか結果が出ない。昨季のリーグ戦では、自信のあった11さえ決められないこともあった。

悩む室井に、東洋大の井上卓也監督は室井のゴールをまとめた映像を渡した。そこで気が付いたのは、ゴール前での落ち着き。ゴールを決めたときは、いずれもゴール前で落ち着いたプレーができている。そこで今季は、スピードに頼るだけではなく、徹底的に実戦を意識したシュート練習を重ねた。どんな局面でも落ち着いたプレーができてこそゴールにつながる。練習にはチームメートもこぞって協力してくれたという。

そんな彼の変化を感じたのは、今季初ゴールを挙げた関東大学リーグの桐蔭横浜大戦だ。その試合で2点目となるゴールは、GKがカバーし切れない位置を狙いすましたミドルシュート。これまでは、あまり見たことのない形のゴールだった。

「去年はロングシュートやミドルシュートを打つ場面が少なかった。でも今後、上のレベルでサッカーをするのであれば、そうした形も必要になると思った」と室井は振り返る。彼のスピードは相手も当然警戒している。「そのぶん、自分とはスペースを空けて対応してくるからチャンスなんです」。

この試合を皮切りに、室井は3試合連続ゴールをマーク。現在、合計8得点でリーグ戦の得点ランキングトップに立っている。

パスを呼び込むタイミングやシュートの正確性、GKの出るタイミングを計ってのシュート。そこには、これまでの室井には見られなかった落ち着きと、多彩なゴールの形があった。もちろん、ここぞというときには、相手の裏を狙って疾走する。自分の武器であるスピードを捨てたわけではない。ただ、スピードだけでは対応できない局面での攻撃の引き出しを増やした。自分のイメージをも利用するしたたかさも得て、室井はFWとしての才能を大きく開花させた。

目的とする選手のひとりに興梠慎三を挙げる室井は、その理由を「決して大柄ではないけれど、背後にも抜けられるし、ボールも収められる万能型の選手」と語る。いま、室井が目指しているのは自分の武器を生かしつつ、オールマイティーにゴールを狙える選手だ。FWとして目指すべき方向性を得た室井は、水を得た魚のように得点を重ねている。

94日には、特別指定選手として熊本戦に出場も果たした。「もともと緊張しないタイプ」というが、大宮サポーターの応援には「鳥肌が立った」という。出場時間はわずか15分。そのなかで決定機も作って会場を沸かせたが、結果的には決め切れず「期待に応えられなかった」。守備面など反省点も多く、出場の喜びより悔しさが先に経つデビュー戦となった。プロのピッチに立つためには、さらなる成長が必要だと実感させられた。

東洋大では、タイミングよく相手の背後に抜けるプレーの多い室井だが、大宮では相手の背後に走るプレーを期待されているという。ただ「それを何本もやるには、まだまだ力不足。体力不足も含め、もっと成長しないと」。その決意を胸に、残りの大学生活に臨む。

来季、室井が大宮の一員になるとき、サポーターはいまよりさらに成長した姿を目にするはずだ。そのときに湧き上がる「鳥肌が立つ応援」を室井はいまから楽しみにしている。

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