オフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP【2022年9月】

その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP。9月のマンスリーMIPインタビューは、惜しみないハードワークで中盤を支える栗本広輝に話を聞きました。


「みなさんが作ってくれる雰囲気は、これまで経験したなかで一番」

文=戸塚 啓

相馬体制のキーマン

最終局面に入ったJ2リーグで、栗本広輝はキーマンの一人に挙げられるだろう。

リーグ戦出場は18試合にとどまるが、7月2日のいわてグルージャ盛岡戦から10月1日のザスパクサツ群馬戦まで、15試合連続でスタメンに名を連ねてきた。しかも、その間のフル出場は13試合を数える。ダブルボランチの一角として、相馬直樹監督のサッカーに欠かせない存在となっているのだ。

「試合に出続けられるのは、選手としてとてもありがたいことです。ただ、自分のパフォーマンスをさらに上げて、チームの結果につなげていきたいと思っています。まだまだミスが多いですし、とくに失点は自分のところで防げたものがたくさんあったと思うので、もっともっとチームの助けになれるようにしていかないと。自分自身のパフォーマンスについては、物足りない気持ちが強いです。もっともっと上げていかないといけないです」

自己評価は厳しいが、ピッチ上では求められるタスクを実行している。

9月14日の大分トリニータ戦は分かりやすい。

開始早々に先制点を奪ったものの、12分、22分に失点を喫し、追いかける展開となった39分だった。自らが空中戦を競ったボールが相手にわたると、センターサークル付近でボールホルダーに襲いかかる。相手とボールの間に体を押し込んで奪い取ると、態勢を崩しながら柴山昌也へつなぐ。ここから中野誠也の同点ゴールが生まれたのだった。

「守備の強度や球際の部分は、相馬監督に求められていることです。ポジション的に周りへの声がけも意識しています」

続く栃木SC戦では、新里亮の先制弾をアシストした。右サイドから岡庭愁人が入れたクロスに反応し、ファーサイトで相手DFに競り勝つ。ゴール前への折り返しを、新里が蹴り込んだのだった。10月1日の群馬戦までに、二つのアシストを記録している。

「僕自身がもっともっとやらなきゃいけないと思っているのは、まさに得点やアシストの部分です。試合の入り方として、まずしっかりと守備から、という意識はありますが、大宮だけでなくサッカー界を広く見ても、中盤の選手には目に見える結果が求められている。ゴールはまだ取っていないので、チャンスがあれば狙っていきたいです」

喜びを分かち合うために

32歳のルーキーである。JFLのホンダで中心選手として活躍し、アメリカで実績を積み上げてきた。初挑戦となるJリーグの舞台で、デビュー当時から落ち着いてプレーしている。

「アメリカのほうがバスケットに近いというか、ゴール前を行ったり来たりする展開が多かったのですが、Jリーグはもう少しボールが落ち着く時間がある。足元の技術が高い選手が多い印象です。日本からアメリカへ行ったときよりは、スムーズに適応できたというか、できているほうかなと思います」

リーグ戦は残り4試合となった。シビアな状況に置かれているが、J2残留圏を死守するだけでなく、ここから順位を上げていくことは可能だ。

「9月の試合で勝点を取れていたときは、メリハリが出てきていました。ボールを取りにいくところと、自陣で少し我慢する時間を選手間で共有できて、意識をそろえることができていました。ここから先もチームの目標としてJ2残留がありますので、そこへ向けて勝点を積んでいくことが必要です。毎日のトレーニングから抜かりのないように、気持ちを引き締めてやっていかなければ」

新型コロナウイルスの感染状況を見極めつつ、リーグ全体で声出し応援の適用が広がっている。大宮のホームゲームでも、9月の大分戦から声援が戻ってきた。

栗本の表情に、笑みが広がった。

「声出し応援ができないときから、最高のサポートを受けていました。そのうえで言うと、ホントに最高ですし、ありきたりな言葉になってしまうのですが、これ以上ない後押しを感じています。アルディージャのファン・サポーターのみなさんが作ってくれる雰囲気は、僕がこれまでJ2の試合で経験したなかで一番だと思っています。ホントに力をもらっています。自分のチャントを聞くことができるのも、もちろんうれしいです」

残り4試合のうち3試合は、NACK5スタジアム大宮で戦う。ファン・サポーターと作り出す一体感は、大きなアドバンテージになるはずだ。

「ファン・サポーターのみなさんには、シーズン開幕からここまで十分過ぎるサポートをいただいてきました。みなさんが期待している結果を残せていないなかで、ホントに力強く、変わらないサポートをしていだいていることに感謝しています。残り4試合、みなさんに喜んでいただけるように全力を尽くしたい。勝利をつかんで一緒に喜べるように頑張ります」

「ハードワーク」という言葉が、ピタリと当てはまる選手である。そのプレーは勝利への執着心にあふれ、ひたむきにボールを追いかける姿が観る者の心を打つ。スタンドの熱量を押し上げる。スタジアム全体の一体感が高まっていくのだ。

情熱と、技術と、忠誠心のすべてをピッチに注いで、栗本はチームのために戦う。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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