【聞きたい放題】金澤慎 コーチ「選手のときよりもサッカーについて考えることが多い。24時間考えています」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回は今季からトップチームのコーチを務めている金澤慎コーチに話を聞きました。

聞き手=須賀 大輔

選手のときよりもサッカーについて考えることが多い。24時間考えています


忘れられない“勝利の喜び”

――現役を引退されてから3年目のシーズンが終わろうとしています。いま感じていることはどんなことでしょうか?
「やはり、大宮はJ2の下位にいてはいけないチームだと思っています。だからこそ、その結果に携わっていながらもなかなかチームの力になれていない自分自身にもどかしさや悔しさを感じています。それが一番の思いです」

――引退後の3年間を振り返ると、どんな時間でしたか?
「最初の2年間は普及部にいて小さい子どもたちにサッカーを教える立場でした。そこで思ったように指導できない日々が続きました。頭で感じていることを言葉で表したり、言語化して子どもたちに分かりやすく伝えたりするなかで、まだまだ自分のサッカーに対する考え方を整理できていないと感じることがたくさんあり、日々、指導の難しさを感じていました」

――最初から、引退後は指導者を志していたんですか?
「そうですね。引退後もサッカーに携わりたいと思っていて、いろいろな携わり方はあると思いますけど、自分の経験を生かして選手を育てたい、選手と一緒に勝利に向ってやっていきたいと思っていました。現役のときに感じていた“勝利の喜び”や“目標に向かって積み上げていく過程の楽しさ”が何よりも忘れられない経験だったので、それを選手ではない立場でも味わいたいという思いが強かったですね」

――今季からはトップチームのコーチに就任されました。どんな思いで引き受けましたか?
「スクールコーチからトップチームのコーチに呼んでもらえたことはビックリでした。自分にできるのか不安もありました。ただ、育成の場にもトップチームの指導者を目指している方々がたくさんいるなかで自分に声をかけてくれた。それは自分にとって願ってもないチャンスなので、このチャンスを生かさないわけにはいかない。指導者としての幅を広げ、今後の指導者人生に生かしていきたいと思って引き受けました」

コーチ1年目の気づき

――トップチームのコーチを務めるにあたり、一番、意識されたことはどんなことですか?
「現役生活が長かったぶん、そこまで違和感なくスムーズに入れたと思いますけど、選手とコーチでは立場は違いますし、僕の現役時代を知っている選手に対してはどう接するべきか考えました。選手のときと同じような振る舞いでコミュニケーションを取るのは違うと感じていたので、新しい自分、2年間スクールコーチをやってきた自分の姿を見せて、指導者としての振る舞いでコミュニケーションを取っていこうとしました。
そのためには積極的にコミュニケーションを取りたいと思いました。正直、選手のときは自分からチームメートとそこまでコミュニケーションを取っていませんでした。ただ、新しい自分を知ってもらうためには自分から積極的に相手の懐に飛び込んでいかないと、一緒に戦っていく上での信頼関係は築けない、チームの一員にはなれないと考えていたので、コミュニケーションは積極的に図りました」

――選手とコーチで一番の違いを感じたことはなんでしょうか?
「選手は自分のことだけを考えていればいいと思います。自分のパフォーマンスを発揮してチームに貢献することがプロサッカー選手の仕事だと思うので。ただ、指導者は自分のことではなく、他のコーチとうまく一緒に仕事をすることや選手と監督の間に入ること、強化部とのコミュニケーションなど、自分が知らなかったことがいっぱいありました。本当に刺激的な毎日ですけど、自分のことだけを考えていればいいという立場ではまったくないとあらためて思いましたね。いかに歯車となり、チームがうまく回るように自分にできることを見つけて、一つの駒としてやっていかないといけないと、まさに感じている最中です」

――勝負の世界にいる以上、勝ったときのうれしさや負けたときの悔しさはつきものだと思いますが、選手とコーチでは感じ方が違いますか?
「もしかしたら、選手のときよりもいまのほうが強く感じているかもしれないです。現役中は試合に負けて悔しくて寝られなかったり泣いたりすることはありませんでしたけど、コーチになって感情の起伏がより激しくなりましたね。試合中は自分の力がほとんど及ばないぶん、それに、この2年間はスクールにいて勝敗のある環境にいなかったぶん、勝ちと負けにすごく敏感になったと思います。勝てばうれしいし、負ければ悔しい。それが表にも出るようになってきました」

――現役時代は感情や思いを出さないタイプでしたか?
「出さないようにしていましたし、どの試合も勝つためにプレーしているけど、相手もいるので結果は自分でコントロールできないと考えていました。勝った、負けたが気になるよりも自分のプレーの出来やチームがやろうとしていたことができたかどうかのほうを気にしていました。それが指導者になると変わるもので、その試合に向けてチームを作り上げていく過程により携わるようになり、まさにそれが結果に直結すると感じているので、勝ったときのうれしさや勝てなかったときの悔しさを感じるようになりましたね」

――すごく新鮮な感覚ですか?
「勝つためにみんなで考えて形にしていって、それが結果につながったときの喜びは選手時代には味わえない感覚だと思います。だからこそ、負けたときもダイレクトな感情を味わえて、それが楽しいですし、魅力的です」

――現役時代を知っている人が見れば、『変わったね』と言われますか?
「最初は言われましたね。選手にも言われましたけど、フロントやクラブスタッフにも『ずいぶん声が大きくなりましたね』とか、『雰囲気や顔つきが変わりましたね』とか、そうやって言われることが増えました。選手時代は黙々とやるタイプだったので、そのギャップはあったのかもしれないですね」

――トップチームのコーチ1年目は苦しいシーズンでした。開幕から9戦勝ちなし。監督交代。残留争い。どんな思いでしたか?
「いま思い出しても、シモさん(霜田正浩前監督)のために何も力になれなかった悔しさは大きいです。ただ、チームは前に進まないといけない。そこで相馬さんが来てくれて、相馬さんはチームのために何とか結果を残したいと必死にやってくれていたなか、相馬さんのために、チームのために、選手のために何ができるか日々探しながら、試行錯誤もしながらトライする毎日です。それが刺激的であり、自分の無力さを感じる毎日でもありました。もっともっとみんなの役に立てるように力を付けていかなくてはいけないと感じています」

――選手時代にも同じような経験はされていると思いますが、まったく別物ですか?
「ぜんぜん違います。直接、結果に関わっていることですごく責任を感じています。だから、1年目ということもあり、正直、切り替えようにもうまくできないことが多かったです。常に『どうしたら相馬さんの考えていることをうまく表現できるか』を考えています。選手のときよりもサッカーについて考えることが多いですし、24時間考えていますね。というよりは、勝手にサッカーやチーム、選手のことを考えてしまう時間が多いです」


アカデミー出身選手の価値

――金澤慎と言えば、大宮アルディージャのアカデミー育ちという部分は切っても切り離せないと思います。その意味で、コーチの立場で意識されていることはありますか?
「いまのトップチームにはアカデミー出身選手が多いですが、その選手たちに、このチームを引っ張っていく気持ちを植え付けたり、アカデミーの選手たちのお手本になっていかないといけない意識を持たせたりすることは自分の仕事だと思っています。やはり、アカデミー出身の選手たちが試合に出て活躍して結果を残してほしい気持ちはあります」

――ご自身も現役時代、その意識は強く持ってプレーしていましたか?
「正直に言えば、そこまで考えてプレーする余裕はあまりなかったです。でも、引退後にそれではいけないなと思いました。この2年、育成の現状を見てきて、アカデミーのスタッフとかいろいろな人と話をして、すごく期待をされているとは感じます。アカデミー出身の選手がトップチームの試合に出ると、こんなに育成のスタッフは喜んでくれるんだという姿は見てきました。だからこそ、アカデミー出身選手には『自分が試合に出て結果を出すことで下に続いていって、次が生まれてくる』ということを伝えていきたいと思います」

――強いクラブの中心にはアカデミー出身選手がいると思います。
「大宮にも良いタレントは本当にいると思います。それを引き出してあげるのがコーチや強化部であり、クラブ全体で引き出していく必要があると感じています。ただ、選手自身ももっとできる。もっと頑張らないといけない。お互いが力を出し合ってクラブのためにやっていくなかで選手としての価値を高めていってほしいです」

――まさに、その先導役を期待されていると思います。
「そこは自覚しています。それは自分がやらないといけない。長くクラブに携わらせてもらっているなかで感じてきたこと、見てきたことを生かして、クラブに対しての思いを言葉にしたり、表現したりすることが求められていると思っています。いまはそれができているかと言われれば、ぜんぜんできていないです。まだまだやり残していることはたくさんあります」


いるべき場所に必ず戻る

――ここから大宮アルディージャはどう這い上がっていくべきだと思いますか?
「僕たちはJリーグのチームなので、どんなときも結果を求められている。結果を出すためにみんながベストの仕事やパフォーマンスをしないといけない。いまはそれができていないから、こういう状況にあり、そこに悔しさやもどかしさがあると思っています。最初にも言いましたけど、大宮はここにいてはいけないクラブです。現状をしっかりと受け止めて、全員で一つずつ積み上げ直していかないといけないと思っています」

――J1の舞台を知っているからこそ、いまの選手たちにも経験させてあげたいですね。
J1のあの舞台で戦えることはサッカー選手として最高の時間です。自分は肌で知っているから、もう一度、あの舞台のあの雰囲気を感じたいと思います。さいたまダービーのすばらしさとか、満員のスタジアムでプレーできる喜びとか、そういうものを感じられるようにならなくてはいけないです。その経験をすることで、J1を知ることで、いまの状況を嫌うようになると思うんですよ。いまいる場所がいるべき場所ではないと思うはずです。そのためにもしっかりとした結果を出し続けて、いるべき場所に戻らないといけないと強く思っています」

――ご自身としての今後のビジョンを聞かせてください。
「引退会見でも言ったように、僕の目指すところはJリーグの監督です。監督をやりたいので、いまはその目標に向かって自分のやるべきことをたくさん経験している最中です」

――どうして監督なんですか?
「勝ちと負けのある生活はすごく貴重だと思っています。それがまったくない時期もあり、中毒みたいな感じです。勝った、負けたで感情が揺さぶられる感覚が忘れられなくて、それをまた感じたい。もう自分がプレーしてその感情を味わえないぶん、監督としてそれを経験してみたい。いろいろと理由はありますけど、それが理由の一つですね」

――目指す監督像はありますか?
「現役を終えたときに“こういう監督になりたい”と思っていたのは、ズデンコ・ベルデニック監督でした。ただ、それはあくまで選手目線での勝てる監督、自分を使ってくれた監督だったからであり、いま指導者という立場になり、それ以外にも大事なことがたくさんあるとも感じています。もちろん、ズデンコのことは尊敬していますけど、いまの時点でこの監督と名前を挙げることは難しいですね。いろいろな方の良いところを吸収して、自分なりの監督像を作っていきたいです」

――大宮アルディージャの監督になってくれることを待っている人も多いと思います。
「もちろん、大宮アルディージャの監督もやってみたいは思いあるので、そう思ってくれているならうれしいです。そのためにも自分自身が力を付けて、結果を残していけるようにならないといけないと思っています」

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