大宮アルディージャ×大宮アルディージャVENTUS 対談企画「南雄太×スタンボー華」

デジタルバモス・大宮アルディージャ男女対談企画の2回目は、南雄太 選手とスタンボー華 選手。GKという特殊なポジションでプレーする二人に話を聞きました。


塩辛持参でお見舞いに

――今回はGK同士の対談ということでお二人に来てもらいました。お互いの第一印象は覚えていますか?

南:うるさいなって思いました(笑)。確か、俺が筋トレルームでトレーニングしているときにスタンボーが話しかけてきたんですよ。その時間はVENTUSの選手が使っていい時間なのに俺が筋トレしていたときだったと思います。

スタンボー:私は最初、「あっ、南さんだ」って思いました。筋トレルームのドアを開けたら目の前に南さんがいて、「一発行って、印象を残しておきたい」と思って話しかけました(笑)。

――南選手はVENTUSの試合を観ることはありますか?

南:観ますよ。後日、スタンボーに「あのシュートは飛べただろ」と言ったこともありますね。

スタンボー:それを聞いたときは、ちゃんと観てくれているんだなと思いました。

――少し近況をお聞きしたいと思います。南選手はいまどのような状態ですか?

南:ようやく最近、走れるようになりました。ステップのトレーニングもやっています。ある程度、予定どおりに進んでいると思います。もう少しすればGKの練習にも合流できるかもしれません。最終的にGKはジャンプをできるかどうかが一番大事なので、そこまでいくのが大変だと思います。

スタンボー:私、お見舞いに行ったとき塩辛を持って行きましたよね。甘いものはいっぱいもらっているだろうから、しょっぱいものがいいかなと思って(笑)。

南:お見舞いまで癖があるんですよ(笑)。

――目標は来季の開幕になりますか?

南:そこはまだぜんぜん考えられていないです。GKでアキレス腱を切った経験のある人はいっぱいいて、そういう人たちが連絡をくれて聞くと「GKは復帰まで8カ月かかる」と言います。ケガしてから8カ月だと、ちょうど来年の1月にあたるので、来年もサッカー選手をやるのであれば1月から普通にトレーニングできれば理想かなとは思っています。

――一方、スタンボー選手はWEリーグ2年目のシーズン開幕が迫っています。

スタンボー:ばっちりです。いつ、何が起きても問題ない状態です。

南:本当に大丈夫なの?

スタンボー:大丈夫ですよ。ここから試合に出て成長しますから。

南:俺らの最終戦の日が、VENTUSの開幕戦だよね?

スタンボー:そうですね。昨季と同じくINACとのアウェイゲームですね。

GK人生の始まりはいつ?

――では、そろそろGKならではの話題について聞きたいと思います。いままでGK同士の対談はありますか?

南:ないですね。ましてや、女子GKとはないです。

スタンボー:こんなきれいな女性とね(笑)。

――まずは、GKをやり始めたきっかけを教えてください。

南:小学5年生くらいですね。当時、読売クラブのジュニアユースのテストをGKで受けたことがきっかけです。親父がテストを見つけてきて、面白いと思って受けてみて、そこからはずっとGKです。歴で言えば、31~32年(笑)。スタンボーがいまいくつだっけ?

スタンボー:23歳です。

南:俺は今年プロ25年目で98年がプロデビューだから、生まれてないね(笑)。

スタンボー:私が生まれた年にプロデビューしていると思います。もう、パパです(笑)。

――スタンボー選手が始めた理由を教えてください。

スタンボー:小学1年生からサッカーを始めたんですけど、他の子たちは幼稚園からやっている子が多くてポジションがなかったことと、身長が大きかったので「お前、GKね」ってなって、そこからずっとGKです。最初は嫌でした。痛かったり汚れたりもするけど、ボールにぜんぜん触れなかったので。それでも、GKでないと試合に出られないし、生き残っていくためにはGKしかないと思ってやっていました。中学生になってJFAアカデミー福島に入るまではずっと男子と同じ少年団のチームにいましたから、シュートは痛かったですよ(笑)。

南:それはすごいことだけどね。

スタンボー:負けん気だけは強かったです。

南:そんな感じはするね(笑)。

――GKの醍醐味はどこに感じていますか?

南:やっぱり、一番は手を使えるところですかね。サッカーと言いながら、GKだけがぜんぜん違うスポーツをやっている感じはありますからね。

スタンボー:GKは勝敗に一番近いポジションだと思っています。シュートを止められる、シュートが入ってしまう。そのどちらにせよ、絶対に勝ち負けに関わる。それが醍醐味だと思っています。あとは、ユニフォームの色が違うこと(笑)。

――GKのユニフォームの色は自分で選べることもあるんですか?

南:クラブによりますね。柏のときは俺が選んでいましたよ。「どんなのがいい?」って聞かれたからけっこう注文していましたね。「黒にしてよ」って言ったのは覚えています。あと、1回やったのは全身、白。でも、洗濯が大変で1年で終わった気がします(笑)。

スタンボー:選んでいいなら、私も黒かな。真っ黒を着てみたいです。今までは水色とか、淡い色が多いので。

南:スタンボーはモデルさんみたいだから、何でも似合いますよ。

スタンボー:こうやって、ちょいちょいいじってくるんですよ。

南:だって、モデルさんみたいに写真撮ってたんじゃん(笑)。

スタンボー:それは恥ずかしい。意外にちゃんとチェックしてくれているんですね(笑)。

“ノーミス”の美学

――GKとして、うれしい瞬間と悔しい瞬間はどこですか?

南:自分のセーブで試合の流れが変わったとか、そのセーブがあったから勝てたとか、そういう評価をもらえるのは素直にうれしいです。あとは、1-0で勝った試合。特別、自分が活躍した訳ではないけど、1-0で勝った瞬間はホッとする。あの感じはけっこう好きですね。家に帰ってからしみじみと、「今日勝って良かった。失点もゼロだった」ってなります。

スタンボー:すごく分かります。1-0で勝ったときは最後の笛がなった瞬間、「終わったー」って思います。やっぱり、無失点が一番ホッとします。「みんな、ありがとう。今日は気持ちよく寝れる」って思いますもん(笑)。

南:自分のなかでミスがなかった試合のほうが、シュートを何本か止めた試合よりも好きですね。今日はほぼノーミスだったなと。たとえ、数回好セーブがあったとしても、ミスが一つ二つあれば自分としては納得できていないことは多いですね。あと、よくあるのは大量リードしている試合の残り1~2分で1点取られてしまうこと。あれはけっこう悔しい。ゼロで終われそうだったのに終われなかった悔しさはけっこう残りますね。

スタンボー:どんな場面でも失点すると、「ああすればよかった」「ここはこうやってできた」とか頭のなかで巡っちゃう。失点=GKの責任だと思っているし、失点さえしなければチームは落ち着いてられると思うので、そのためにも失点につながるようなミスを犯さないようと常に心がけていますね。

――GKをやる上で最も大事にしていることはどんなことですか?

南:ミスをしないことにはすごくこだわっています。本当に小さい細かなミスもうそうだけど、GKはミスが失点に直結するポジションなので、どんなにいいプレーが多くてもミスの多いGKは評価されないし、味方からの安心感を一つのミスで失ってしまう。だから、いいプレー以上に細かいミスをしないことをはすごく心がけています。

その意味では、個人的に波のあるGKはあまり好きじゃない。止めるけどミスもあるのはGKとしてよくない。FWはそれでいいと思います。1点取れれば、何本外してもヒーローになれる。でも、GKは10回なら10回ミスなくそつなくこなす。そういうポジション。それができたうえでビッグセーブが評価されるので、そこにはすごくこだわっています。年々、ミスがあると自分の評価が下がってしまうので、歳を重ねるにつれて意識するようになりました。

スタンボー:聞いていて、すごく心が痛いです。自分が言われているような気がして(笑)。

南:若いときはミスをしていいんだよ。いまの俺が同じプレーをしていたらもう評価されないけど、俺も若いときはビッグセーブが多いほうがいいと思っていたから。それが段々とそぎ落とされたり変わってきたりする。ただ、ミスが少ないほうが絶対にいい。

スタンボー:自分はまだ勢いでプレーしてしまう部分もあって、ミスを引きずって同じミスをしてしまうことがある。まだ、エゴが出て、いいプレーをしようと思っちゃうときがあるので、今季は味方に任せる、お願いすることは増やしていこうと思います。昨季の一年で、「自分でどうにかしようとするだけでは無理だ」と学びました。

――GKにエゴは必要だと思いますか?

南:紙一重だと思います。トライする気持ちは大事。それがなくなっちゃうと全部のプレーが安パイになっちゃうので難しいね。そこには試合の流れや空気もある。いまはやっちゃいけない時間や場面もあれば、少々、トライしていいときもあるだろうし、チーム状況などを加味しながらプレーすることが一番大事だと思います。

スタンボー:いま、自分のプレーを思い出しながら聞いていました。ただ、南さんが言ってくださったように若いからできるプレーもあると思う。他の人に言われるよりもかなり響きます。

どこよりも速いスタンボー情報

――せっかくの機会なのでお互いに聞いてみたいことはありますか?

スタンボー:いっぱいあるな。

南:いつも聞いてくるでしょ。

スタンボー:いっぱい聞いている(笑)。逆に女子GKに何かありますか?

南:ボールは怖くないのかなと思いますよ。こういう言い方は少し失礼かもしれないですけど、女子なのにすごいなとは思います。ブロックの練習とかを見ていても、それは感じますね。

スタンボー:それはぜんぜん問題ないです。男子の強いシュートを受けているほうが怖いと思っちゃいます。

南:それは男女でそれぞれ体感スピードがあるからね。横でVENTUSがトレーニングをしているときは「どんな練習しているのかな」とか「スタンボー、ちゃんとやっているかな」とか、けっこう見ますね。スタンボーの情報はすぐに入ってくるからね(笑)。

スタンボー:本当に速いんですよ……。どこからどうやって流れているのか分からないくらい速い。

南:だいたいの話は入ってくるからね。「今日、スタンボーがあんなことしたらしいよ」とかね(笑)。試合もちゃんと観ていますよ。塩越さん(三菱重工浦和レッズレディース)のシュートを見逃したときもすぐに「あれは飛ばないとダメだよ」って言いました。

スタンボー:マジで耳が痛いです。でも、言ってくれるということは愛情があるからだと思っています。今季は褒めてもらえるように頑張ります。そのためにも、私が聞きたいのはメンタルのことですね。

南:メンタルのことはこの間も話したじゃん。まだ入院しているときにお見舞いに来てくれて、俺が励まされていたはずなのに途中からは俺がスタンボーを励ましていましたからね。いろいろと答えてあげていたら、「なるほど、そうなんですね」って。お見舞いに来てもらったはずなのに、なんで俺が励ましてんだって思いましたよ(笑)。

スタンボー:あれはめっちゃ面白かったですね。そんなつもりはまったくなく、ちゃんと元気になってほしくて行ったのに元気をもらって帰っちゃいました(笑)。

サッカー少年少女たちへの期待

――昔に比べれば日本でもGK人気が出てきたと思いますが、いまGKをやっている子どもたちに何かメッセージはありますか?

南:少年サッカーを観ていてもGKはうまくなりましたね。余っている子どもがやる時代ではなくなったとはすごく思います。いかにGKが重要なポジションだと日本でも浸透してきたなと。結局、サッカーの試合はGKとFWが決める。それが理解されてきていると思います。あとは、教えてもらえる環境が少しずつ整ってきた。俺のときはお父さんコーチが蹴ったボールをキャッチする時代で、ヴェルディでもジュニアユースにはGKコーチはいなかった。いまではJリーグの下部組織には当たり前のようにGKコーチがいて、そういう環境でGKを教えてもらえるのは大きいと思いますね。だから、基礎がちゃんとしている子が多いなと感じます。今後誰か一人でも、世界でバリバリやるようなGKが出てくれば見方が変わるし、それに憧れてGKをやる子どもたちが増えるだろうから、ヨーロッパのトップでやる選手が出てきてほしい。ただ、まだまだ相当、難しいことでもあると思います。

スタンボー:私はまず、女子サッカーの人口が増えたことがありがたいです。サッカーをやってくれる女の子が増えたことが成果というか、自分たちがプレーするうえで下の世代につなげていかないといけないことは最低限、ちょっとずつはできていると思います。そのなかでGKをやりたいという子がもっと増えてくれたらうれしいけど、まず、サッカーというスポーツがこれだけ楽しくて、人生の彩りが1個でも2個でも増えるモノだと知ってもらいたい。自分のなかではその思いが先にあります。そのなかでときどき、インスタなどのDMで「スタンボー選手を観てGK始めました」とか「GKが好きになりました」とかメッセージをもらうので、それはめちゃめちゃうれしいですね。

――もう一度、サッカー人生をやり直せるとなったらGKをやりますか?

南:どこでも選べるならFWをやってみたいですね。それで一流になれるなら。やっぱり、ゴールを決めて喜べるのはすごくいいなと思います。

スタンボー:すごくわかります。みんながワーって来てくれるのいいですよね。

南:あんなの最高じゃん。俺らがシュート止めても、ワーって走ってガッツポーズ取ることは絶対にない(笑)。そんなことしている間にCK蹴られちゃうからね。だから、FWはいいなと思います。

――プロ25年でゴールは決めていないですよね?

南:オウンゴールしかないですね。あれ、ゴール取ったことになる?(笑)

スタンボー:なる、なる(笑)。

南:あの「1」しかないね。スタンボー、笑いすぎだろ(笑)。

スタンボー:あのオウンゴールの映像を観て爆笑しました(笑)。GKとしてあり得ないプレーではないなと思ったけど、あんなにキレイには飛んでいかないですもん。

南:あんなキレイには飛ばないよね。投げるのをやめようとしたらボールが手から離れたから「ヤバい」と思って、取ろうとしたら後ろに押すような形になってしまってゴールに飛んでいった。正直、自分でも衝撃だったし、一瞬、何が起きたかわからなかったですよ。「え?これなに?」みたいな。あの瞬間はいろいろと考えましたね。しかも0-3で負けた試合の1失点目。記録よりも記憶に残る選手だよね。

スタンボー:私はCBとかやってみたいですね。FWもいいけど、CBで勢い持って突っ込んできた人をいなしたい。どちらかというと、守備のほうが好きです。攻撃は勢いでもできるかもしれないけど、守備は技術が必要だと思うから。

――真面目な話から面白い話までありがとうございます。最後にそれぞれ一言ずつお願いします。

南:自分が無力で何もできないなか、チームの残留が決まったときはホッとしました。でも、やはり大宮アルディージャは残留争いをするようなクラブではないと思いますし、いい加減、あるべきところに戻れるようなクラブになっていかないといけないと思っています。男子もそうですけど、女子も含めて大宮アルディージャというクラブ全体でみんなが同じような方向を向いて進んで行くクラブになっていければと思います。

スタンボー:昨季は3勝しかできなかったので、今季はたくさん勝って、サポーターにも笑顔で帰ってもらいたいです。そのためにもどの試合でも自分たちのサッカーを貫いて戦いたいです。個人的にはまずは試合に出て、無失点でチームを負けさせないGKになりたいですね。

南:どこでどういうチャンスが来るかはわからないし、それをつかめるかつかめないかは自分次第。スタンボーのことは常に気にして応援していますから、試合に出ているところを観たいですね。

スタンボー:シーズン中も困ったらすぐに相談に行きます。夜中でも電話をかけると思います(笑)。



聞き手:須賀 大輔

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