オフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP【2022年10月】

その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選ぶマンスリーMIP。10月のマンスリーMIPインタビューは、中盤でフル稼働しシーズン終盤戦を支えた小島幹敏選手に話を聞きました。


「鍛えます。自分の成長や価値を高めるためにも」

文=戸塚 啓

ラスト9試合にフル出場

シーズン終盤のチームを支えた一人である。9月10日に行なわれた第36節から最終節まで、小島幹敏は9試合連続でスタメンに名を連ね、そのすべてにフル出場した。

「8月はまったく試合に出ていないので、9月からは動けたんじゃないですかね」

いつものように飄々とした佇まいで、そんな話をする。もちろんこれは、前振りのようなものだ。「第36節の甲府戦からですよね」と、しっかり記憶している。

「そこから徐々にコンディションが上がっていったというか、自分なりに動けていましたね。自分のプレーどうこうよりは、動けていたかなと」

というわけで、彼こそは10月のMIPである。10月5日のモンテディオ山形戦で、後半終了間際に価値ある同点弾をゲットした。

「0-1で追いかけていたし、自分が点を取りたいと思っていたし、ペナルティエリア内へ入っていこうという気持ちがあって。(大山)啓補がいいボールをくれたので、何も考えずにシュートを打ったら、たまたまGKの股間を抜けた。ちょっとラッキーだったですね。全然狙ってはいないので、ラッキーゴールです」

遅ればせながら今季初得点だった。クールな印象のある彼が、珍しく感情を爆発させた。

「時間帯もそうだったし、メチャメチャうれしかったです。勝点が1でもほしい状況で、それを手繰り寄せることができたので」

スタジアムの雰囲気にも刺激された。NACK5スタジアム大宮に、声援が戻ってきていたのだ。

「やっぱり、いいですよね。とくにホームのNACK5スタジアム大宮では、自分たちのファン・サポーターのみなさんの声援がたくさん聞こえるので、プレーの後押しになります。すごくありがたいし、自分のチャントとかを聞くとうれしいですね。あの山形戦も声援がすごくて、得点の前から自分たちの空気感になっていた。押せ押せムードが続いて、僕が決めることができた。ファン・サポーターの後押しがあったからこそ点が入ったかな、とも思います」

続くレノファ山口FC戦は、2-1で勝利した。山形戦の同点劇を、うまく持ち込んでの勝点3奪取だった。「そうだとしたら良かったですけど、僕は何もしていないので」と、申し訳なさそうに笑う。

ならば、翌節の徳島ヴォルティス戦はどうか。デザインされたCKから生まれた先制点に、背番号26は関わっている。ファーポストからゴール正面へ動き出してフリーになり、左足で放ったシュートを富山貴光がコースを変えてプッシュした。ここでも遠慮気味である。

「自分のマークを味方がブロックしてくれたし、(矢島)慎也くんのボールも良かったですし。僕が蹴ったボールはへなちょこでしたね。当てるのに精いっぱいで、思い切り振れなかったので。それが幸運にも得点につながって、アシストもついたので、良かったです」

V・ファーレン長崎をホームに迎えた最終節では、はっきりとした結果を残した。シーズン5アシスト目を記録している。矢島慎也へのスルーパスが、PKにつながった。

「先制したあとの1失点目は、自分がファウルした直接FKから決められてしまって。すごく申し訳なかったので、得点に関われたのはよかったかなと思いますけど、あれも、慎也くんがいいところに走ってくれたので。アウトサイドで出すのは得意というか好きなプレーなので、うまくできたなあ、という感じでした」

背筋をスラリと伸ばした姿勢から、左足のアウトサイドでスルリとパスを通す。いかにも小島らしいプレーだった。

「ペナルティエリア内とかその周りでは、自分の良さを出せるかなと。どんどんボールを受けるのは大事かなと思いますね」

アカデミー出身の自覚

チームは2シーズン連続でJ2残留争いに巻き込まれ、19位でフィニッシュした。率直な思いを聞くと、小島は「まあ……難しいですよね」と、言葉どおりに難しい表情を浮かべた。

「シンプルにチーム全体として、他のチームより劣っていたというのは絶対にあると思います。技術だけではなくいろいろな面で負けていたんだろうと。この順位が当たり前とか言うつもりは全然ないんですが、プレーオフに出られる6位圏内のチームを見ると、プレーの強度も高いし、個々の能力が高い選手がそろっていると思います」

今季終了時点で、リーグ戦出場数は188を数える。すでにクラブ歴代トップ10に迫る。アカデミー出身の選手ということを考えても、チームを引っ張っていくべき存在だ。

「はい、僕もそう感じます。試合数もけっこう出ているし、経験を積んできているので。アカデミーの選手が多く試合に出ていて結果が出ないと、アカデミーそのものが評価されないし、自分以外のアカデミーの選手にももっと頑張ってほしいと思う。アカデミーの選手だけの責任ではないですけど、アカデミーの選手は一人ひとりがチーム引っ張る意識を持たなければいけないとも感じます」

10月末からシーズンオフとなっている。いつもより長いオフを、どのように過ごすのだろう。小島は少し考えて、小さな笑みを浮かべて答える。

「鍛えます。自分の成長や価値を高めるためにも鍛えます。頑張ります」

どこか照れ隠しのような雰囲気のなかに、確かな決意が込められていた。来季こそは、との強い決意が。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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