【聞きたい放題】奥抜侃志 前編「こっちは本当に結果がすべて。いいプレーだけでは評価されない。やはり、ゴールを決めることが一番」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回はポーランド1部リーグのグールニク・ザブジェへ期限付き移籍中の奥抜侃志選手に話を聞きました。前後編の2回に分けてお届けします。

聞き手=須賀 大輔

「こっちは本当に結果がすべて。いいプレーだけでは評価されない。やはり、ゴールを決めることが一番」


突然の移籍に至る経緯

――元気ですか?
「元気にやらせてもらっています。楽しく生活できていますし、こっちの生活にもだいぶ慣れてきました」

――海外で生活してみて驚いたことはありますか?
「スーパーでの買い物ですかね。こっちだとレジで買った商品をポンポンと投げられて、早く持って行けみたいな感じです()。日本は整理してカゴに入れてくれるからきっちりしているんだなとあらためて思いました」


奥抜選手が暮らすザブジェの街並み(写真本人提供)

――本当に急な移籍でびっくりした人も多かったと思います。移籍の経緯や状況を教えてください。
「そうですよね、自分でもびっくりでした()。ぎりぎりまで悩んでいたのが本当のところです。最初にオファーを聞いたのは8月に入る前くらいのタイミングで、そのときはあまり現実的に考えてはいなかったですし、ポーランドと聞いて、あまり日本人選手がプレーしているイメージも浮かばなくて『行きたい』という感じではなったです。ただ、その後、映像を観たり、話を聞いたりしていくうちに日本よりもサッカーが文化として浸透していると感じて『行きたい』と思いました」

――移籍が発表されたのは8月31日と移籍ウインドーのぎりぎりでした。迷う気持ちもありましたか?
「行きたい気持ちは強くなっていましたけど、チーム状況もチーム状況だったので。横浜FCと仙台に勝って勢いに乗り始めた状態で『ここで抜けるのはちょっとな……』という思いは正直ありましたね。でも、そこで相馬さんが自身の経験を踏まえながら『後悔しないように』と言ってくださり、その言葉で『行こう』と確信を持てました。本当に相馬さんの言葉は大きかったですし、1歩を踏み出せました」

――海外を意識したタイミングはいつごろでしたか?
「小さいころから海外でプレーしたいとは思っていました。これまでも何回か、海外のクラブから興味を持ってもらえたことはありましたけど、ケガなどもありそれ以上は進まなかったので、今回は本当にいきなりオファーが来て、『こういう感じなんだ』と思いましたね。」

――チームメートにはどのタイミングで伝えたのですか?
「契約に関わる事なので、移籍が確実になるちょっと前に話したと思います。みんな、びっくりしていましたね()

――泉澤選手はポーランドでのプレー経験がありますよね?
「仁くんにはいろいろと聞いていました。日本のように組織でプレーするよりは、一人ひとりの能力が高く個人技で勝負する縦に速いサッカーと教えてくれたので、『自分には合っているな』と思いました」

 

ポーランドリーグとの相性は?

――実際、ポーランドに行ってみての感想はどうですか?
「個人個人のパワーやスピードは本当にレベルが高いと感じています。日本と比べてサッカーそのものが違いますね。やっぱり速い。ゲームテンポがすごく速くて選手一人ひとりも速いので局面がすぐに変わって、まずは個人技が優先される印象です。日本みたいにポゼッションしてという感じはあまりないですけど、そこが僕には合っていると思っています。ただ、状況によってはコンビネーションで崩したいと思うときもあるので、そのときはちょっと困ります()。こっちの選手はコンビネーションを使って崩すなら、その前に自分でシュートを打つ意識が強くて、ゴールを目指すためにサッカーをしているとすごく感じていますね」

――日本にいたときは味わえないようなスタイルや感覚ですか?
「そうだと思います。いまのJリーグで言えば、横浜F・マリノスがそういうサッカーに近いのかなと思います」

――初得点のシーンなどを見ると、自分の間合いで仕掛けてかわせているようにも見えましたが、自身の感覚としてはそんなこともないですか?
「最初はすごく苦労しました。足の長さや伸びてくる距離がぜんぜん違い、振り切ったと思ったらスライディングで足が伸びてくることも多く、そこの感覚をつかむのに苦労していましたね。こっちのDFは基本的に足に向ってくるようなタックルをしてきます。ボールを取れないとイライラしてきて削ってきたりユニフォームを引っ張ってきたりと、そういう部分は日本よりもかなりすごいです」

――フィジカル面での違いは事前に聞いていたと思いますし、イメージもしていたと思いますけど、目の当たりにすると想像以上でしたか?
「ここまで足が届くのかと、びっくりしました。あとは、ピッチの違いも大きくて、こっちは日本に比べて柔らかめでステップを踏むと滑ってしまうのでそこのアジャストはすごく難しいです。日本のときはステップで揺さぶってドリブルしていましたけど、こっちだと自分のほうが滑ってしまうので、ボディフェイントで抜くスタイルに変えています」

――攻撃は自由な部分が多いんですか?
11になったらドリブルしていいよと監督もチームメートも言ってくれています。そもそも身長の高い選手が多いのでゴール前でクロスを待っている選手が多いんです()

――ポジションはシャドーでの出場が多いですか?
「いろいろなポジションをやっていますけど、最近は1トップ2シャドーの左シャドーが多いですね。ちょっと前はウイングバックもやりましたし、いろいろな経験ができています」

――ウイングバックだと守備もかなり求められそうですね。
「運動量が多くてすごく大変です。不慣れなポジションなので守備のときに逆を突かれてしまうことはありますけど、パワーやフィジカルで押し切られるシーンはあまりなくて、スピードは通用している感覚はあります。デカい選手はシンプルに縦に蹴って走ってくる選手が多いですけど、スピードでカバーできる部分はあり、戦う部分の成長は感じています」

ポドルスキの存在

――チームにはJリーグでもプレーしていたルーカス・ポドルスキ選手がいますけど、たまたまだったんですか?
「たまたまみたいですね。交渉中にインスタのDMでポドルスキ選手から『来いよ』みたいなメッセージが来て、そのときに初めてポドルスキが所属していることを知りました()
急にダイレクトメッセージが来たので驚きました」

――ポドルスキ選手は優しいですか?
「すごく優しくてだいぶ面倒を見てくれています。ポドルスキ選手は簡単な英語で話してくれるのですごく助かっていますし、練習中も助けてくれます。この前はお寿司を買ってきてくれて、日本のことが本当に好きなんだと思います」

――選手としても一流ですよね。
「キックがとにかくすごいです。精度とスピードが異次元。こんなに速くて正確なボールを蹴る人がいるんだと驚きました。あと、スペインのマラガで柴崎岳選手と一緒にプレーしていたダニエル・パチェコという選手がいて、テクニックもあって人間性も素晴らしいです。この二人は経験豊富ですごく勉強になりますね」

――移籍してから3試合目で初ゴールを取れたのは大きかったですか?
「かなり大きかったです。あのタイミングで2点取れたのはすごくよかったですね。こっちでは結果でしか評価してくれないので、ゴールがどれだけ大事か、それをひしひしと感じています」

――結果を残すかどうかでチームメートからの信頼も変わってきますか?
「結果を残すまではどこか“外国籍選手”という目で見られていて、点を取ってから認めてくれたような空気がありました。そういう意味でもこっちは本当に結果がすべてだなと。いいプレーだけではそれほど評価されない。やはり、ゴールを決めることが一番だと思います」

――ポーランドでのプレーは通過点だと思いますが、今後のステップアップはどのように描いていますか?
「ヨーロッパに来て一番感じるのはもっと若ければよかったなと。市場を見てももっと若ければ、いろいろと経験をして吸収してステップアップしていく流れに乗れたと思いますけど、この年齢だと早く結果を残して、早く上にいかないといけない思いが強いです。だから、いまはとにかくポーランドで結果を残して、早く五大リーグに挑戦したいです」

――いま、ワールドカップを戦っている日本代表選手を見ても、全員が全員、早いタイミングでヨーロッパに行ったわけではなく、這い上がってきた選手もいると思います。
「そういう選手は結果を残したと思うので、自分も早い段階で結果を出せるかどうかだと思います。そうすることで他の国のチームからも注目されると思うので本当に結果が大事だと思っています」

――今季の目標はどうでしょうか?
「いまは10試合で3ゴールくらいなのでもっとゴールを取りたい。まだまだチャンスで外してしまっているシーンもあるので、そこをしっかりと決められるようにならないといけないですね」

――ゴールを取れば取るだけ道は拓けていくということですね。
「そのとおりだと思います。とにかく、ゴールが大事ですね」


後編へ続く

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