【聞きたい放題】番記者座談会 前編

デジタルバモス恒例企画となったクラブOBの渡邉大剛さん、MCタツさん(リモート参戦)、エルゴラッソの須賀大輔記者による番記者座談会を開催!
2023シーズン開幕に向けてオフシーズンの補強状況や今季の期待感について語り合っていただきました。
※3名の意見は、クラブの公式見解ではありません。

今季の補強状況を分析

須賀:座談会企画も3年目に突入しました。すごくあっという間ですね。

大剛:そんなに経つんですね。

タツ:もうそんなになりますか。今回は取材先の沖縄からリモートで参加させてもらいます(笑)。

須賀、大剛:うらやましいです(笑)。

須賀:では早速、今季の展望を話していきたいと思います。チーム全体の印象はどう受けていますか。

タツ:選手よりもコーチングスタッフがガラッと変わりましたよね。ここ数年、結果が出ていなかったなか、これまでコーチングスタッフのせいで結果が出なかった訳ではないですけど、何かを変える意味では非常に良いトライをしたと思います。実際、キャンプを見ても雰囲気は変わっていて、以前よりも声が出るようになった印象は受けました。みんなが積極的にコミュニケーションを取ろうとしている感じはありますね。

須賀:確かにコーチ陣は大きく入れ替わり、多かれ少なかれ変化は起きそうですよね。その一方、選手編成はどう見ていますか。

タツ:率直に言うと、補強はかなり苦労したんだろうなと感じています。ポジティブに捉えるならば、あえて実績のある選手を獲っていない。フレッシュさや、伸びしろといった判断基準で選手を獲得してきたように感じます。ポジティブに見ればそうなのですが、そうでないと困ります……(笑)。その補強方法になぜ信頼を置いているかというと、昨夏の袴田(裕太郎)選手と岡庭(愁人)選手の補強がバチっとハマったから。僕はブラジル人を補強しようと言っていたけど、それがいかに的外れだったか。最終ラインを補強すれば勝点を取れるようになるという、強化部の考え方がピタッと当たった。今までの大宮は実績のある選手を多く取っていましたが、今季はそういう考えがなかったのだと思います。昨季はサッカーが分かる人の目で何が必要かを緻密に見極めて補強できたから、このオフもそういうやり方で進めていると思っています。

大剛:予算の問題で選手編成に大金はかけられなかったと思うけど、そのなかで最大限の努力はしたと思います。昨季の袴田くんや岡庭くんは大宮に拾ってもらった恩を感じていて、『このチームのために結果を出さないと自分の今後のキャリアもない』というくらいの強い覚悟があったと思います。今季は石川俊輝が戻ってきて、浦上(仁騎)くんも加入してくれた。アカデミー育ちで大学を経由し、“大宮愛”を持っている選手の加入はすごくポジティブです。「チームのために自分を犠牲にする」、「このクラブのために自分の能力を最大限に発揮する」とは言いつつも、それを心の底から本当に思えているかどうかは大切で、そういう選手が一人、二人といることで、チーム全体に波及して他の選手たちにも届いていく。そういう良い影響は期待できると思います。ただ、各ポジションで軸になりそうな選手はある程度計算できるけど、そうではないポジションもあるので、不安要素がない訳ではないです。

須賀:僕も上を見ればキリがないと思っています。もっと欲しい選手、獲りたい選手はいたと思いますけど、今季の選手に話を聞くと、腹を括っている選手が多いと感じています。たとえば、富山(貴光)選手は「オフに強化部としっかり話し合った上で契約を更新した」と言っていましたし、石川選手は「もう1回オレンジのユニフォームを着て戦いたかった」と熱い想いを口にしていました。新しいコーチ陣も、原崎政人ヘッドコーチ、山岸範宏GKコーチ、横山知伸フィジカルコーチとアルディージャに縁のある人たちが就任しました。そういう想いが良い方向に作用すれば面白いチームになる予感はかなりありますよ。

コーチングスタッフと練習スタイルの考察

タツ:少しコーチングスタッフや練習メニューの話題にさせてもらうと、他クラブはすごくデータ主義になってきています。もちろん、大宮もGPSを付けるのはかなり早かったと思うけど、それをどう使うか。いまの大宮はそこが弱いと思います。他クラブの話になりますけど、昨季にインタビューをさせてもらったアルビレックス新潟は、GPSの数値を見てトレーニング内容を決める専門のスタッフを雇うなど、コーチにお金をかけています。

今回、サガン鳥栖のキャンプも取材したけれどスタッフがすごく多い。そして、川井健太監督の練習は日によって30分くらいで終わってしまうこともあって、2部練習の日でも午前も30分、午後も30分のときもある。それはおそらくシーズン全体を通して考えられていて、『この時期にどんなことをどのくらいやっていて、こういう数字が出ていれば年間を通して動ける』と分かっているからできる練習だと思う。とにかく、鳥栖の練習は選手が待っている時間がありません。常に負荷がかかり続けていて、練習がいつ終わるか分からないから選手も気を抜けないし緊張感がある。昨季鳥栖はスプリント数が1試合平均200回を超えていたそうで、それは横浜F・マリノスが(2020年に)優勝した年にあったくらいで、まだ2チームしか成し遂げていない数字です。鳥栖は昨年のデータなども見てシーズンを戦い抜けるフィジカルを作っているということだと思います。

須賀:いまのお話を聞いて、大剛さんはどう感じていますか。

大剛:僕の現役時代がちょうどGPSでいろいろと計り始めたタイミングでした。これだけ走ればこのくらいのコンディションになるとエビデンスが出るようになったから、同じ“頑張る”でもその質が上がったと思います。なぜこの練習をやるのか。それを選手にしっかりと説明しないといけない時代になってきたので、ただ闇雲にやらせるでは通用しなくなってきている。そこは確かに時代に合わせてやっていかないといけないですよね。

須賀:相馬直樹監督の練習はガムシャラさを求め、頑張るメニューが多いと感じていますが、そこにどれだけ選手たちが納得しているかが大事ということですか。

タツ:そうは言いつつ、昨季就任した時点では、大宮の選手が頑張れていなかったから相馬監督はそういうメニューを多くしていただろうし、そこは難しいですね。大事なのは選手がどれだけ納得できているかで、昨季は相馬監督の練習スタイルで一つの形になった。そこは相馬監督の評価するべき点だとも思っています。

須賀:確かに片方の視点だけで見ると判断は難しいですね。ただ、キャンプの走り込みが生きてくるかはシーズン後にならないと評価できない部分もありますよね。

タツ:しっかりとデータとして裏付けがあった上で走っているならいいですけどね。あと、この座談会はクラブに対してもメッセージを伝える場だと思っているから言わせてもらいたいのは、コーチングスタッフのところですね。いま、世界的なトレンドを見ていても、コーチングスタッフにお金をかけられるチームが強いチームになってきて、ヨーロッパのクラブはスタッフがすごく多い。その全員をまとめて方向性を決めるのが監督の仕事で、監督が選手を育てて戦術を決めて采配を振るう時代ではないです。たくさんのスタッフをまとめる親分みたいな仕事が監督には求められているし、日本も徐々にそうなりつつある。

たとえば、浦和レッズはその流れにあります。今季は新監督が連れてきたスタッフが3人くらいいて、それ以外に昨季までのスタッフが全員残っている。分析担当もトレーナーもすごく多い。実は鳥栖も同じ方向性で浦和よりもスタッフが多いかもしれないくらい。そうなると、何が起きるかというと、監督を代えても全体の15%くらいしかチームが変わっていないことになる。その後、前任者と同じ方向性の監督を連れて来ればもっとその割合を減らせる。鳥栖は資金がないなかで、コーチングスタッフにお金をかけているから、最近の成績が安定していると思う。監督は去っていくものだけど、コンディショニングコーチや分析官が最新のメソッドを取り入れることは、積み上げになっていく。監督にかけるお金は積み上げの投資にはならないけど、コーチへかけるお金は積み上げ式の投資になっていくんですよ。実際いまのJ2はデータに力を注がないと勝てない時代になってきていると思います。だから、大宮もコーチングスタッフにお金をかけ、GPSのデータがあるなら、J1昇格を争える年間のフィジカルコンディションのデータや数字を分かっている経験者を入れたり、情報を仕入れたりすることが絶対に必要です。

新シーズンに期待したいこと

須賀:その視点のお話は面白く、いろいろと議論できそうですが、そろそろリーグが開幕してしまうので、一度、今季の話題に戻りましょう(笑)。今季はどんなシーズンになっていくと思いますか。近年と違いクラブは具体的な目標や数字を掲げませんでした。

タツ:具体的な数字は掲げなくてもいいんですが、若手が絶対成長しますとかいいきってほしい(笑)。『残留を達成しながら若手の出場機会を確保します」ぐらい言ってほしいんです。たとえば、水戸ホーリーホックは育成型クラブだと認識されていると思うけど、大宮も周囲からそう思われるクラブになってほしい。『今日の大宮のスタメン平均年齢めちゃ若い』みたいな試合があってもいいと思います。シーズンを通して軸となる若手選手が出てくることが必要です。

あとは、シーズン中の選手獲得と放出ですね。特に若手は試合に出られないなら、自分たちのところで抱えておくのではなく、シーズン中でもレンタルですぐ放出すべき。シーズン終了まで待つとかやっちゃダメなんですよ。放出することも育成なんです。

獲得も同じ。でもそれは昨季の岡庭選手獲得を見ても強化部がいい仕事をした。他クラブで出られていない良い選手はシーズン中でもすぐに声をかけて連れてきてしまう。『ウチで試合に出ようよ』と。この二つはしっかりやりますよと、新体制の発表で言ってほしかった。育成型クラブというのは、決して自分たちだけで育てるのではなくて、試合に出られていない若手は1回外に出す、試合に出られていない外の若手選手をどんどん引っ張ってくる。それが育成型クラブの役目です。何回も言っているけど、自前のユース出身のかわいい子には旅をさせる。それと他チームの若手もうちで育てる。それが育成型クラブです。順位とかじゃなくて、そういうことをやらなきゃいけないシーズンだし、そう発信していってほしい。

須賀:達成しないといけないことで言えば、僕はシーズン通して同じ監督で戦いたい。それだけですね。シーズン中に新しい監督に初めましてのあいさつをするのはいろいろと悲しいですから……。とにかく、この流れを断ち切るためにも一度貫かないと。タツさんのコーチングスタッフの話と同じように、本当にこのままでは何も残っていかないですからね。

タツ:それは間違いないですね。

大剛:本当にそのとおりで今季は相馬さんで戦い切る。それは絶対にしないとダメだと思います。あと、目標で言えば残留は最低限で順位は昨季もこの場で言ったように良くて一ケタかなと思っています。願いとしては、残留争いをしない位置には常にいて、可能ならば上を目指していきたいと思います。

須賀:相馬さんのやろうとしているサッカーはシンプルだから、新体制発表会の場でも繰り返していたように『前へ前へ』の姿勢をどれだけ貫いて表現できるかどうかだと思います。手堅いサッカーなだけに自分たちの立場を見誤らなければ、開幕から昨季ほど苦しむことはないと思っていますね。

大剛:どうやって点を取るかは今季のテーマになると感じています。映像を観ると、サイドでポケットを取ってニアに速いクロスを入れる練習はしている。スタンダードな攻め方ではあるから、とにかくその精度を上げていく。そして、そのシチュエーションをたくさん作る。敵陣でプレーする時間を増やしたいなら、どうやってその形を作るかをとことん突き詰めていくことが大事だと思います。

タツ:守備では、ハイラインを敷くのは昨季と大きく違うところで、リスクをかけてトライしています。キャンプではかなり前からプレスに行こうとしていた。だから、2トップのプレスがキーになると思います。相馬さんが監督としてしっかりと昨季と違うことにトライしているのだから、クラブにもトライしてもらわないといけない。いつまでも安全志向の考え方はやめて、クラブとしても何か挑戦してほしいですね。選手たちに挑戦してほしいと思うなら、指導者が挑戦しないといけない。指導者に挑戦させるには、クラブが挑戦しないとダメなんですよ。

須賀:前編は幅広い話題となりましたが、いろいろな話が聞けて面白かったです。後編はポジション別に選手の顔ぶれを見ながら、開幕スタメンやシーズンの見通しを話していければいいと思います。ありがとうございました!

《※後編へ続く》

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