【聞きたい放題】矢島輝一「まだ僕の心は死んでいない。魂に火をつけて、自信を持ってプレーする」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回は度重なるケガからの復帰を目指す矢島輝一選手に、いまの率直な思いを聞きました。

聞き手=須賀 大輔

「まだ僕の心は死んでいない。魂に火をつけて、自信を持ってプレーする」


矢島を襲った2度の大ケガ

──この2年、もがいている姿を見てきましたし、いろいろと話を聞かせてもらっていました。あらためて、その期間を振り返ると、どんな思いがありますか。
「大学生のときにも左膝の前十字靭帯を損傷しているので、前十字のリハビリがどんなモノかは頭に入っていました。何回も言ってきたけど、そのときに『次、前十字のケガをしたらサッカーを辞めよう』と思っていたので、正直、どうやって復帰すればいいか整理がついていませんでした。ただ、大宮に来て、このまま何もせずに辞めたら、こんなにも申し訳ないことはないと。その思いで復帰を決意して、リハビリにも取り組んで、右膝の前十字靭帯損傷からの復帰は順調にいきました。でも、(2022年8月20日第32節)町田戦に出たら、古傷の左膝がバンと腫れてしまった。だけど、もう離脱はできないし、チームも残留争いをしていたので、騙し騙しでも僕にできることはあると思い、プレーしながら治していく決断をしました。その矢先、(同年10月5日第33節)山形戦で肩を脱臼しました。ピッチに入ってすぐ、GKとぶつかったときにゴリゴリと音がして、すぐに脱臼したと分かりましたけど、そこで交代はしたくなかった。自分で押したら肩がハマって、時計を見たら残り20分くらいだったので、『やるしかない』と思い、その試合はプレーしました。その後、相馬監督とも話して、『1試合は休むけど、残留が決まってなかったらやる』と伝え、翌節の山口戦で残留が決まってからオペをしました。2年で2回のオペ。今までの人生で心が折れたことはなかったけど、さすがに今回は『なんでだろう、どうしてだろう』となりましたね。奥さんもそういう僕の姿を見たことがなかったから、どうしていいか分からなかったと思います。自分でも気持ちを上げようと思ってもまったく火が付かない状態でした」

──何かに当たったりしませんでしたか。
「本当に不思議な感覚というか、放心状態というか、自分の頭の中で理解するのに苦しみました。起きたことは受け入れるしかないと分かっているけど、受け入れられず、苦しかったです。挫折という言葉はあまり好きではないですけど、目の前が真っ暗になるのは初めてで、膝のときも『またか』と思ったけど、肩のときは『地獄の中にまだ地獄があるか』と思いました」

心の支えとなった存在

──それでも矢島輝一は、這い上がってきました。もう一度、ゴールを決めたい思いが残っていたからですか。
「その思いはもちろんありますけど、一番は、大宮のファン・サポーターに対する申し訳なさです。自分でもこれほどケガが続くかとびっくりしています。何かを怠ったことはないし、自分がやるべきことはやってきましたけど、こんなにケガが続いてしまった。この2年間は、どうすればよいか分からない状態でした。加入直後からケガをしてしまい、大宮のファン・サポーターのみなさんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。だから、僕から『ユニフォームを買ってください』なんて言えないし、『応援してください』とも言えないです。それでも、『ユニフォーム買いました』とか、『輝一くんがよければリハビリの投稿もSNSに挙げてください』とか、たくさんメッセージをくれました。これがFC東京のサポーターの方が言ってくれるならまだ分かるんですけど、大宮に来て何もしていない僕を見捨てないでいてくれるファン・サポーターの方がいてくれる。こんなにありがたいことはないです。僕から『応援してください』とは言えないけど、応援して良かったと思ってもらえるプレーをしたいし結果を残したい。その思いだけですね」

──FC東京ファン、大宮ファンだけでなく、矢島輝一ファンに、もう1回ゴールを決める姿を見せないといけないですね。
「東京時代からずっと応援してくれる人もいるし、東京のサポーターには愛してもらった自覚がすごくあります。そうやって大宮でも愛される選手になりたいです。そのためには、まず自分がプレーで示さないといけない。大宮のファン・サポーターの方たちを虜にできるくらいのプレーをしたいです」

──奥さん存在も大きかったのではないですか。
「それは間違いないです。このオフに結婚式を挙げたんですけど、そこで完全なサプライズで奥さんからメッセージの入ったスパイクをもらいました。聞くと、ミズノの本社にまで行って僕の担当者にお願いしてくれたらしくて。それをもらったときに『このスパイクを履いてもう一回プレーしないといけない』と一気に火が付きました。まだ、結婚してからゴールを決めた姿は見せられていないですし、このまま終わったら僕じゃないなと。この後、どう転ぶかなんか分からないし、自分の置かれている状況、立ち位置も分かっているけど、それを踏まえてもう1回チャレンジしないと男じゃないと思いました。前十字靭帯を2回損傷していてもう完璧な体ではないけど、その中でも今まで以上の自分を見せたい。ゴールにこだわってやっていきたい。僕のプレースタイルを考えれば、前線でキープしてはたいて中盤を前向きにプレーさせてあげることも役割だけど、それ以上にゴールを取らないといけない。自分の生き方としてもゴールを決めることで周りに納得してもらって、『輝一を応援して良かった』と思ってもらうしかないと思っています」

──奥さんからのスパイクにはそういうメッセージが込められていたんでしょうね。
「彼女は本当に強い人です。これまで『サッカーをやってほしい』とか、『ゴールを決めてほしい』とか、一度も言われたことはありません。毎日、ご飯を作ってくれて、試合の日は仕事を休んでサポートしてくれる。そうやって徹底して尽くしてくれている奥さんだったからこそ、無言のメッセージというか、それが僕に一番火が付くと分かってくれていたと思います」

とにかくゴールを決めたい

──いまはサッカーに飢えていますか。
「とにかくゴールを決めたいです。これは自分の弱い部分でもあるけど、これだけケガが続くと、1回の練習が本当に怖い。ハードな練習をした日は、またどこかが痛くなるんじゃないかとビクビクしている自分がいる。でも、その恐怖心は試合に出てゴールを決めればなくなるモノだと思っています。だからこそ、いまの僕にはゴールが必要です」

──昨季、右膝のケガから戻ってきたときは『どんな形でもいいからゴールがほしい』と言っていました。その思いはいまも変わらないですか。
「本当にどんな形でもいいです。クリアが自分に当たって入ってもいい。とにかくゴールを決めたいです」

──いまはその1ゴールの決めるためにやっていると言っていいですか。
「過去の自分だったら、ここでバンと目標を言えたかもしれないですけど、ここ数年の自分を振り返ると、本当に一つずつです。その先に何があるか。正直、まだ膝に不安はあります。そこをどうにかフラットな状態に戻せたらゴールが見えてくると思いますね」

──『ゴールを決めたらうれしくてどんな感情になるか分からない』。昨季、右膝のケガから復帰したときの会話をはっきりと覚えています。その思いも変わらないですか。
「ゴールを取るイメージはあります。この形で取りたい、この形ならチャンスがあると頭の中にはあります。だけど、いまはそこじゃない。1回1回の練習でアピールしていかないといけないし、相馬さんが求める強度に追い付かないといけない。そこからチームを引っ張っていく存在にならないとメンバーには入れない。ただ、体の状態が戻りさえすれば、球際や強さで引っ張っていける自信はあります。ゴールをイメージするよりも、まずは体を壊さずに整えて、その先にゴールが待っている。そういう考え方のほうが、いまの自分らしいと思っています」

──自分のことを『弱い』と言いましたけど、こんなに強い選手はなかなかいないと思います。自分の中で何かブレずに持っているモノはありますか。
「自分のためにプレーをすれば、その結果、感動や希望、活力につながると思うので、まずは自分にこだわる。その姿を見てくれた人に何かを与えられる選手になりたい。その思いでずっとプレーしてきました。ちょうど去年、新人研修のときに書いた『5年後の自分へ』という手紙が届いて読んだんですけど、同じことが書いてあって、いまと考え方は変わっていないなと。タイミングが良すぎましたね(笑)」

──今日、お話を聞いていて、『矢島輝一はこんなもんじゃない』と誰よりも一番分かっているのは輝一選手だと感じました。
「自分がどのくらいできるかは、自分が一番分かっているし、まだ、そこに到達していないのも自分が一番分かっている。だから、すごくもどかしいし、何をしているんだと、何回も思います。こんなにぐずっているならサッカーを辞めたほうがいいんじゃないかと思ったこともあります。でも、やっぱり、プレーしていると自分に期待しちゃう自分がいるんです。『サッカーは楽しいな。こんなプレーもできるんだ』って。そうするとワクワクする気持ちが沸いてくる。まだ、自分が自分に期待しているから、サッカーを続けているし、上を目指しているんだと思います」

──サッカーを嫌いになっていなくて良かったです。
「サッカーに当たることはないです。サッカーに生かされているので、今までの生き方をもう1回示したいです」

──ずっと思っていたことを言わせてください。輝一という名前は“ずるい”です(笑)。
「それが僕の生き方、モットーですね。名前のように生きたい。そう常に思っています」

──いまは、“一番輝く”瞬間が来ると信じてやるしかないですね。
「ビビっていてもしょうがないですから。やれることをすべてやった上でどうなるか待つ。それで出た結果を受け入れる。本当に今季は勝負の年。覚悟をもってやりたいです」

──満員のNACK5スタジアム大宮が待っていますよ。
「ホーム開幕戦の金沢戦を観て、(浦上)仁騎が、『今まで目指してきたチームで大きな後押しを受けながら勝ててうれしかった』と言っていました。僕は大宮のアカデミーで育ったわけではないけど、やっぱり、大宮のファン・サポーターの熱量はすごいと思います。あのスタジアムで熱量がそろったときの雰囲気は最高だと思います。そこで大きな波を起こせるのはピッチに立った選手です。街もスタジアムも沸かせるプレーをしたい。それはゴールだけじゃなくて、球際一つ、ハードワーク一つでもそう。そこにファン・サポーターの方にも乗っかってきてもらって、大きな波を作りたいです」

──最後に、ファン・サポーターのみなさんにメッセージをお願いします。
「ケガ続きで、プロとして一番初歩的なピッチに立ち続けるということがこの2年は全然できていないですけど、まだ僕の心は死んでいないので、魂に火をつけて、皆さんの前に立つときは自信をもってプレーします。そのためにも自分らしくポジティブに進んで行くのでその姿を見てほしいです。そこで僕のプレーを観て、後押しをしてくれるなら、ぜひ応援をよろしくお願いします」


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