【聞きたい放題】大山啓輔「もう、大宮アルディージャという固有名詞が俺の中に染みついてしまっている」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回は、今季で大宮アルディージャ在籍10年目を迎えている、大山啓輔選手に話を聞きました。

聞き手=須賀 大輔

「もう、大宮アルディージャという固有名詞が俺の中に染みついてしまっている」


10年目の境地

――今季で大宮一筋10年目。チーム最古参です。
「今季の契約の話をする際も、いろいろな人に相談すれば、いろいろな立場からいろいろな意見をもらえることは分かっていました。それに、一つのクラブに長くいるメリットとデメリットも分かっていて、よく言えば、大宮アルディージャのことを誰よりも知っている。悪く言えば、他のクラブのことを何も知らない。それらを加味した上で、自分が10年目をここで迎えるべきなのか、迎えていいのか、いろいろな思いはありました。この9年を振り返っても、クラブにとって苦しい時期のほうが長く、その責任が自分にあるのではないかなとか、力になれていないなら自分の居場所も考えないといけないのかなとか、葛藤や迷いみたいなモノはありました。でもやっぱり、自分の気持ちの根本にあるのは、このクラブへの思いであり、その気持ちは簡単に捨てきれないんですよね。もう、自分の意思でどうにもならない領域の感情になっているというか、勝手に頭や体がこのクラブのことを思っている。その表現が正しいと思います。相談に乗ってくれる人、アドバイスをくれる人、そういう人たちは大切にするべきですけど、この気持ちを本当に理解してくれる人は限られていると思うし、そもそもこういう境遇を経験したことのある人はほとんどいないと思います。最終的には『このクラブでもう一度力になりたい』と自分で判断して、今季をスタートしました」

――そんな思いや気持ちが十字架になっていたことはないですか?
「ここ数年は割り切って自分にフォーカスしている部分が多いですね。ずっと試合に出続けている訳でなく途中出場が多いから、『試合に出たい』、『結果を残したい』と、そっちに気持ちを持っていくようにしています。そこまで考えるのは自分が活躍できてからでしょと思うことでどうにか紛らわせていた部分もあります。試合に出ていなくてもできることはあるけど、やっぱりピッチに立たないとできないこともいっぱいある。その意味では、17年、18年、19年あたりが一番苦しかったですね。自分が試合に出ているのになかなか結果が出ない。18年はJ2に降格して、J1にも上がれなくなった最初のシーズンだったので、そのときが一番、いま言ってもらったような気持ちは強かったと思います」


2018年からJ1昇格を果たせないシーズンが続いている

アルディージャにこだわる理由

――ここ数年は、どんな感情が一番占めていますか?
J22年連続残留争いをして迎える今季はだいぶ割り切れていると思います。この順位にいることが自分たちの実力だとチームとして受け入れ出したというか。20年とか21年って、『ここは僕らのいるべき場所じゃない』と言っていて、もちろん、いるべき場所ではないけど、残留争いをしてしまった現実がある。それを自分自身もクラブもやっと理解して、ここからどう上がっていくという視点に変わりつつあると思う。言い方が正しくないかもしれないけど、それはもうしょうがないこと。俺らが積み上げてきた結果でしかないから。昨年から今年にかけて、そこの考え方はちょっとずつ変わってきましたね」

――大宮を離れる決断ができるタイミングがなかった訳でもないと思います。それでも、居続ける理由はなんですか?
「自分がこのクラブにしてもらったこと以上のことをできているか。それを基準として考えたときにそうではないんですよ。小学生のときからお世話になって、このクラブがあったからプロの選手としてサッカーを続けられている。それを返しきれているかという思いが常に頭の中にある。もちろん、これだけ長くいれば人は入れ替わっているし、その時々で『こうしたほうがいい』と思うことはあったけど、もう、大宮アルディージャという固有名詞が俺の中に染みついてしまっているんですよね。俺の中ではまだまだ足りない。どうなったら満足できるのか、OKと思うのか、それは分からないし難しいけど、『アイツがいたから大宮は良くなったね』、『アイツのおかげで大宮は立ち直れたね』と、言われるようにならないとその思いは消えないと思います」

シフトチェンジの必要性

――一昨季や昨季は残留争いをしているなかで、大宮の「過去を知っている自分が何か言うことが正しいのか分からない」と悩んでいましたね。
「正直、僕が加入した14年やJ2で優勝した15年、J1を戦った16年といまではクラブの状況が全然違う。毎年、クラブから財務状況を説明してもらう機会はありますけど、状況は確実に変わっています。そう考えると、もちろん強かった時期のチームの雰囲気やクオリティーは大事にするべきだけど、気持ちや思考は変えないといけない部分はあると思います。15年のJ2では勝って当たり前で18年くらいまではそんな雰囲気があった。プレーオフ圏内でもダメ、自動昇格が絶対だよね、みたいな。それが段々とプレーオフ圏内を目指すようになり、今季は明確な目標は掲げていないけど、そういう風に変わってきているのは事実。悔しいけど、勝たないといけない、勝つことが当たり前の状況から、自分たちで勝利をつかみにいく状況に変わってきている現状は受け入れないといけないですね。サポーターの方に対してその現実を言うのはすごく勇気がいると思うし、もちろん批判もあると思います。ただ、その気持ちの違いで戦い方は変わってくるだろうし、いまのクラブ状況に合わせてシフトチェンジしていく局面に来ていると思う。だから、いまは相馬さんが言うようにチャレンジャーのメンタリティーが大事。“勝って当たり前の雰囲気”を変に出してもしょうがないから、“みんなで一つひとつ勝とう”という雰囲気でやっていって、それがよい方向につながっていけばいいと思っています」

――28歳はまだまだ老け込む年齢ではないですが、サッカー選手・大山啓輔としては、どう這い上がっていきたいですか?
「もともと、チームの一人としてうまく機能させて、させられて生きるタイプで、チームが良くなっていくのと一緒に自分も良くなっていく、自分が良くなっていくのと一緒にチームが良くなっていく。そういう関係性にチームと自分はあると思うから、常に考えているのはチームのことです。チームの中に自分がどう溶け込み、入り込み、チームが上向きになるように考えてやることで結果的に自分に回ってくる。それは過去の経験もそうです。自分だけステップアップしていく人もいると思うし、それも正しい道だと思うけど、俺はそういうタイプじゃない。チームに生かされて、チームを生かしてのタイプだから、チームがうまくいくようになれば必然と自分もその波に乗っていると思います」

15番へのこだわり

――背番号は1年目からずっと15番ですね。
「前任者のマサさん(斉藤雅人/大宮VENTUSヘッドコーチ)は、俺の気持ちを分かってくれていると思います。だから、『大事にはしてほしいけど、気負い過ぎなくていいよ』と。ただ、もうここまで来ると何をするにも15なんですよ。本当に。銭湯に行って、渡された鍵の番号が15とか。自分でもすごいなと思いますよ。子どもも15が好きですから。“俺=15”のイメージになってきているのはうれしい。だけど、それなら大宮の15番を背負うだけの結果を残さないといけない。ちょっと前まではそうやって考え過ぎてしまう時期も長かったけど、最近は単純に15が好き。これだけ背負っていたら勝手に好きになる()。もうラッキーナンバーですね。峠を越えた感覚はありますよ。だって、いま、15がすごく好きですもん。
意外とまだスタジアムでも15番のユニフォームをみるんですよ。普通、一つ持っていたら同じユニフォームは買わないじゃないですか。でも、今季の開幕前にTwitterでも宣伝したけど、売り上げは10位くらいだった。毎年、買ってくれる人がいるのはありがたいし、まあまあ健闘したと思っていますよ()。スタジアムで15番を見つけるとうれしいし、ちょっと多めに手は振りますね()

――バンディエラの表現はまだ早いですか?
「全然しっくり来ていないですよ。だって、他のクラブの人は認識していないはずですから。大宮のサポーターの方はそうやって言ってくれるかもしれないけど、他のチームのサポーターの人に『大宮の選手は?』と聞いても、俺の名前は出ないと思う。それは、大宮で言えば慎くん(金澤慎コーチ)だろうし、川崎Fの中村憲剛さんくらいにならないと。まだそこまではぜんぜんですよ。それは自分で決めるモノではなく、周りが評価してくれて初めてそうなれると思っています」


J1昇格は諦めない

――このチームで成し遂げたいことは何ですか?
「それはJ2に落ちてしまったときから変わらないです。J1昇格のためにどうするべきかをずっと考えている。現状はそこに箸にも棒にも掛からぬ状況だし、さっきの話と少し矛盾するかもしれないけど、それでも、選手一人ひとりがそこに基準を置いておかないといけない。いまはそれが中期的な目標かもしれないし、数年後なのかもしれないけど、そこを目指すなら最初からその目標を持っておかないと、いつまで経っても到達できないと思います。選手たちはそこを忘れてはいけないですよ。昨季、自分たちがボコボコにされた新潟がいまJ1でちゃんと戦っている姿を見ると、J2で結果を出せるチームはJ1でも戦えると思う。そうやって自分たちで基準を上げていくことが大事だと思います」

――最後にファン・サポーターの方にメッセージにお願いします。
「ここ数年、これだけ思ったような成績が出ていなくても、あれだけの方がスタジアムに集まってくれている。それは期待してもらっていて、応援してもらっている証だと受け止めています。今季の結果を見てもホームのすごさは感じています。それに俺にとってあそこは聖地というか、気持ちのギアが入る大切な場所です。試合前、未だに緊張するんですけど、NACKの雰囲気を背中に受けると、何かやれそうな気がしてくる。『あ、大丈夫』と思えるんですよね。本当に幸せです。いまは結果が出ていないし、やらないといけないことが多いけど、ふとしたときに『あのスタジアムで、あれだけの人の前でサッカーができて本当に幸せだな』と思う。もしかしたら、それも俺にしか分からない感覚かもしれないですね。ただ、本当にその感情は絶対に忘れたくないし、それをプレーで返さないといけない。どの立場でも自分にできることを精一杯やろうと思っているので、NACKに集まってもらって一緒に戦ってくれたらうれしいです。必ずお返しします」


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