【聞きたい放題】笠原昂史「みんなに支えられていると思えるから、自信を持ってプレーできる」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回は、4月12日に行われた第9節・ザスパクサツ群馬戦でJリーグ通算200試合出場を達成した笠原昂史 選手に、13年目を迎えたプロキャリアについて話を聞きました。

聞き手=平野 貴也

「みんなに支えられていると思えるから、自信を持ってプレーできる」


劣等感との戦いの日々

――率直に、200試合という数字をどう受け止めていますか?
「自分がここまでプロキャリアを積めるとは思っていなかったので、よくやってこれたなという印象です。明治大の同期ではほかに3(山田大記、小林裕紀、久保裕一)がプロに進みましたが、僕は4年生のときに関東大学リーグに1試合も出場できませんでした。本当にギリギリ、プロの世界に引っかかった。23年でクビになってもおかしくなかったので、こんなに長くは続けられないだろうと思っていました」

――キャリアを振り返っていただきたいのですが、水戸ホーリーホックでのプロデビュー戦が、2年目の天皇杯・大分トリニータ戦。リーグデビューは3年目の2013年でした。
「最初に出た試合は、アウェイの大分でPK戦だったかな……(天皇杯2回戦で2-2PK3-5で敗戦)。点を取られたらどうしようと、ビビっていたと思います。何もできなかったんじゃないですかね。プロに入ってからしばらくは、試合をしたくないくらいに自信がありませんでした。リーグデビューは、覚えています。アウェイのガイナーレ鳥取戦(2013317日、J23)では、先発した本間幸司さんがケガをして、(1-1)前半途中から出場したけど、水戸から移籍した岡本達也さんに試合終了間際に点を取られました。その試合も何もできず、あっという間に時間が過ぎたことくらいしか覚えていません(1-3で敗戦)。僕は、劣等感とずっと戦って来ていて、リーグ戦に出場するようになってからも自信はなかったです。たしか、次の試合で本間さんは『やれる』と言ったけど、クラブの判断で出場を見送ったのですが『幸司さん、出ないのか。えーっ、オレが出るの?』って思ってしまったくらいで、試合に出られることをチャンスだと思えていませんでした」

――GKは出場機会を得るのが最も難しいポジションと言われますが、そんなに自信がなかったのですね。プロ3年目の13年にリーグ戦15試合に出場し、以降も出場経験を積みましたが、長く、本間選手と併用される形でしたよね?
「僕が出場したのは、ほとんど幸司さんがケガをしていたときです。開幕戦で先発したシーズンもありましたが、3試合くらい出てダメで、すぐに幸司さんに戻りました(2015年、開幕から3戦先発も12敗。第4節に本間選手が先発してシーズン初勝利)。先発を勝ち取ったという感覚はずっとなくて、2016年にハーフシーズン起用してもらったとき(22試合に出場)も、クラブが(我慢しながら期待をかけて)起用してくれていると感じていました。そのシーズンは、アウェイのセレッソ大阪戦(2-2)の印象が強いです。前半は、ソウザ選手のトゥーキック気味のシュートを正面から捕りに行って、股下を抜けて失点。後半は、松田陸選手のクロスを捕ろうと狙って少し早めに動いたら、たぶんそれを見られて直接“シュータリング”のような形で狙われて失点。酷いプレー内容でした……」

 

7年かけてつかんだ自信

――しかし、水戸でのラストシーズンとなったプロ7年目の2017年は、先発に定着して42試合に出場。通算98試合出場となりました
「このシーズンも『使ってもらった』感覚でした。よく覚えているのは、ホームのジェフユナイテッド市原・千葉戦(17617日、J2193-1で勝利)。ずっとピンチを抑えていたのに、最後にFKを直接決められました。試合には勝ちましたけど、最後に1本決められたのがめちゃくちゃ悔しかったのを覚えています」

――悔しい記憶ばかりのようですが、水戸時代のうれしかった思い出は?
2015年の天皇杯で鹿島アントラーズ(との茨城ダービー)PK戦で勝ったときは、めちゃくちゃうれしかったですね(0-0PK3-2で勝利)。リーグ戦だと、17年のホームファジアーノ岡山戦(37)かな。パフォーマンスがけっこう良かった試合で、最後に押し込まれたけど耐えて1-0で勝ちました。少し距離のあるところからでしたけど、豊川雄太選手にゴール左上にヘディングシュートを打たれて、体を伸ばして右手ではじいたセーブは、覚えています。フルシーズン出場できた17年は、チームに貢献できるパフォーマンスができている実感が少しずつ沸いて来ました。だから(新しい挑戦として)移籍するという決断にも至りました」

――7年をかけて、ようやく得た自信なんですね。大宮に来てからすぐに100試合出場を達成しています。
「大宮でのデビュー戦は、ホームの徳島ヴォルティス戦(18J23節、0-1)で覚えていますが、100試合目は……まったく記憶にないです(4節のツエーゲン金沢戦、1-1)。時間がかかったな、やっと100かと思いました。GKで同じくらいのキャリア(当時29歳、プロ8年目)なら、それくらいの数字になっている選手のほうが多いと思いますから」

――大宮に加入してからのプレー面の手応えは?
J1昇格を目指すチームに来たのに、ずっと上がることができず、もどかしい気持ちです。もちろん、自分のせいで上がれていないんじゃないかと思う時期もあります。結局、悔しい話ばかりになっちゃいますね()

――水戸では本間選手がいて、大宮に来てからも塩田仁史さんや、南雄太選手がいて、実力あるベテランとポジション争いをずっと続けていますよね。
「学ばせてもらうことも多いですし、幸せな時間を過ごさせてもらっています。心強いですよ。頼れる、助けてもらえる年上の選手がいてくれると。でも、だからこそ余計に『この人たちには、全然勝てていない』と思ってしまうんですけどね。雄太さん、もうすぐ650試合でしたっけ (現在Jリーグ通算663試合出場)? 絶対に届かない。考えられないですよ。本間さんも600試合近く出場しているはず(22年終了時で575試合)。あの人たちの数字を見てきているので、200なんてちっぽけな数字だなと思っちゃいます()

――周囲の基準が高過ぎますね(笑)。大宮では19年に27試合、20年に20試合とリーグ戦に出場しましたが、21年は6試合となり、昨季の22年はV・ファーレン長崎に期限付きで移籍しました。
「昨季の長崎での1年は、出場試合数は8試合で多くは出られませんでしたが、本当に良い時間だったと自信を持って言えます。でも、また昇格を目指すチームに行ったのに前年より順位も下がってしまい、責任を感じるシーズンになりました。大宮にいた21年も、長崎での22年も、出場した試合で1勝しかできず、出場数も尻すぼみで、このままキャリアが終わっていくのかなと感じました」

長崎への移籍で生じた変化

――しかし、今季は自信に満ちたプレーが多くなり、21年までの在籍期間とは明らかに違う印象です。
「違う印象というのは、自分のなかでもそうです。自分の出番が少なかった21年は、監督が代わって(足下でパスをつなぐ攻撃面のプレーも要求されたため)、自分の苦手なところで勝負しなければいけませんでした。もちろん、求められるプレーをやれなければいけないのですが、ゲームに出たときに、すごく頭を使わないといけなくなってしまい、難しさを感じていました。松本拓也さん(昨季まで大宮GKコーチ)には、新しいことをたくさん教えてもらい、プレーの幅を広げてもらえました。でも(元々の長所を生かす部分と、新しいプレーを導入することのバランスが)自分のなかでうまく消化しきれず、少しずつ『以前なら止められたのに』と思う場面も出てきていました。頭の中のモヤモヤが解消できたのが、昨季の終盤。長崎の井出大志コーチから『頭で考え過ぎて、本能的にボールに食らいつくところが欠けてきているんじゃないの?』と指摘してもらったことが大きかったです。今年は、チームから求められるGKとしての仕事もハッキリしていて、頭の中がクリアです。ストロングポイントを評価してもらえていることが、良いパフォーマンスにつながっているのかなと思います」

――大宮での思い出の試合は?
「直近ですけど、今季のジュビロ磐田戦かな。GKが良いパフォーマンスをしても勝てないとか、負けてしまう試合も多いものですけど、あの試合はGKとしての仕事をまっとうできて、無失点。それでも最後は引分けかなと思うようなところで、全員の諦めない気持ちがゴールにつながりました(終了間際にアンジェロッティが得点し1-0で勝利)。勝ててうれしかったし、自分がまだプレーしていけるという自信をあらためて獲得できた試合でもありました。磐田は昨季までJ1にいたチームです。自分やチームがJ1でやっていけるかもしれないという思いも再燃させてくれた試合でした」

――もうベテランの領域の34歳で、200試合も出場しているのですから、自信を持ってプレーできるのではないでしょうか。
「今年は、自信を持って取り組めていますし『クロス、どんどん来いよ。全部キャッチしてやるよ』という気持ちでできているので、今までとは少し違う自分を見せられているかなとは思っています。いまでも毎試合、緊張はしていますけど、ようやく、自信を持ってゲームに入れるようになってきたかなと。あと、NACK5スタジアム大宮で、大勢のファン、サポーターが迎えてくれるときに『一人じゃない。自分だけで背負うものじゃない』と思えている部分もあります。あのオレンジのスタジアムでみんなに支えられていると思えるから、自信を持ってプレーできるという感じです」

――前半と後半の開始前に、サポーターを見て、胸を軽くたたく仕草をしていますよね。
「ルーティンみたいになっていますけど、自分に自信を持たせたり、ハッパをかけたりするために、胸を2回ずつたたいてゲームに入ると決めています。すぐ後ろにサポーターがいるのはGKしか味わえないから、伝わっているか分からないけど『一緒に戦いましょう! みんなでオレンジの壁を作って、ゴールを守ろう!』という思いを込めて(サポーターを見ながら)やっています。


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