【ライターコラム「春夏秋橙」】引退を最も実感したこととは

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、先日実施した南雄太選手の引退記者会見の模様を、戸塚啓記者にレポートしてもらいました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
引退を最も実感したこととは


現役選手として過ごす、最後の一日となった。

1127日、南雄太の引退記者会見が行なわれた。

ラストマッチとなった12日の東京ヴェルディ戦から、約2週間が過ぎた。すでにメディアから仕事依頼を受けており、忙しい日々を過ごしていると笑う。

「せわしなくて、引退したと実感する瞬間があまりないんです。そんな中で、体を動かさなきゃということでクラブハウスへ行くことがあるんですけど、筋トレとかのモチベーションが全然上がってこない()。無理してやっている感じで、そこに一番引退したということを感じます。今までそういうことは全然なかったので。見た目のためとかだと、モチベーションは続かないですね」

現役当時はきっちり管理していた睡眠や食事も、かなり変わっているようだ。

「解説の仕事をやらせてもらうと、寝る時間がすごく遅くなってしまって、お昼まで寝たりとか。お昼ごはんはカップラーメンでいいやとか、それまでならありえないような選択をするようになったので、ああ、サッカーをやめたんだなと思います」

 

大宮時代の印象深い試合

Jリーグ通算666試合のうち、大宮では37試合に出場している。印象に残った試合を聞くと、迷わずに答えた。

「最初に出場した新潟戦です。横浜FCで少し試合に出られなくなった時期で、チャンスを与えてくれた大宮で、移籍してすぐにピッチに立たせていただいて。試合には勝てなかったですけれど(2-2のドロー)PKを止めたりもしましたし、何か少しこう認めてもらえた感じがした試合でした。すごく印象に残っていますし、今もはっきりと覚えています」

もう一つは、最終節の東京V戦だ。現役最後の試合としてはもちろん、育成年代を過ごした古巣との対戦として、忘れられないものとなったのだろう。

記者会見では大宮についても語っている。

「一人の選手として、今年関わった者として、今シーズンの成績にはすごく責任を感じています。チームで一番の年長者として、苦しい状況をピッチの上でも外でも打破することができなかったことに、強く責任を感じています」

 

大宮アルディージャの未来について

今後へ向けて問われると、真摯な思いを明かした。

J3降格となってしまいましたが、この先の長い歴史の中で、これがあったから良かったと思えるようにしなきゃいけないですし、クラブが生まれ変わる一つの大きなきっかけになった、というふうにしていかなきゃいけないと思います。来年以降は今まで以上に変化……どう言えばいいのかな……今までどおりにやっていたら、絶対に浮上しない。それは成績が物語っています。ここ数年の結果がすべてだと思うので、やはり思い切って何かを、その何かは分からないですけれど変えて、クラブとしても、選手も一人ひとりが変わっていかないといけない。その変化というものを恐れずに進んでいってもらえれば。そこにあとは、ファン・サポーターが期待している結果をつけていかないといけないので。本当に大変な道のりで、簡単ではないと思います。痛みはだいぶ伴うと思いますが、先ほども言ったようにクラブが変わるきっかけになってくれればいいなと、それはすごく思っています」

26年に及ぶ現役生活は幕を閉じたが、サッカー人としての日々は今後も続いていく。現役最後の一日は新たなキャリアの第一歩でもあり、南雄太の「これから」には多くのサッカー関係者が期待している。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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