今野浩喜の「タダのファン目線記」氷川神社 後編

今野さんが「ただのファン目線」で行きたい場所に行ったり、会いたい人に会う本連載。今回は氷川神社後編です。ひと通り境内を案内してもらったあとは、今野さんが権禰宜の遠藤さんにインタビューを行いました。


大宮は日本一の場所

遠藤 「寒くなかったですか?」

今野 「靴下、基本履かないんですよ」

遠藤 「すごく気になっちゃって」

今野 「お互い寒さを心配しながらでしたか(笑)。ご案内ありがとうございました」

遠藤 「いえいえ、こちらこそ。しゃべり出すとものすごくネタがあるので……。あんまり発信してないんですけどね、日本一のものがけっこうあるのに」

今野 「まぁ、大体的に太文字で『日本一の〇〇!』とか言われるよりはいいですよ」

遠藤 「あははは……。ただ私は、スサノオノミコトは日本一の英雄だと思っていますし、ここ首都圏は多摩川があって、荒川があって、利根川があって、ものすごくいい場所だと思っています」

今野 「ふ~ん」

遠藤 「大宮は、日本の中でも一番いい場所だと思っています」

今野 「へぇ~」

遠藤 「やはり、一宮というのは、その土地の中で一番いい場所であって、そこに神様をお祭りするのは当然のことなんです」

今野 「そんな場所にあるチームが、なんでこんなに……」

遠藤 「頑張ってほしいです!」

今野 「一番いい土地にあるのに」

遠藤 「あまりにも恵まれすぎているんじゃないかと」

今野 「なるほどね」

遠藤 「古くから恵まれた場所なんですよ。食料が豊富でインフラも整っている。ある意味パラダイスなんです」

今野 「確かに、埼玉は一番いいんじゃないかと、住んでても思います」

遠藤 「はい。『翔んで埼玉』の印象が強いんじゃないかと……」

今野 「埼玉県民が自虐的に言うのはいいんですけど、外の人間に言われるとハラがたつ。でも、ハラをたてちゃいけない雰囲気があるじゃないですか。埼玉の人って」

遠藤 「でも江戸時代から、世界有数の都市である江戸を支えていたのは埼玉ですから」

雅楽の勉強のため関東へ

今野 「ご出身は埼玉ですか?」

遠藤 「いや、私は実は奈良なんです」

今野 「奈良! すごっ。奈良よりも埼玉のほうがいいですか?」

遠藤 「ん~奈良は奈良で、また」

今野 「ふふふ……。いつごろ、埼玉に来たんですか?」

遠藤 「大学を卒業してからですね。高校までは奈良に住んでました。だから、家に帰ると言葉が関西弁に」

今野 「ほう、いまだに家では。うまいですね。標準語が」

遠藤 「直しましたもん」

今野 「関西弁だと問題があるんですか?」

遠藤 「う~ん、いいんでしょうけど、その土地でコミュニケーションを図るうえでは……。この言葉を奈良で使ったら、『なに気取ってんのや!』となりますから(笑)」

今野 「そうか。神職というのは、どういう経緯で就けるんですか?」

遠藤 「私は、父が春日大社の神職でした。子どものころからいろいろご奉仕とか手伝いをしていたこともあって、自然とこの道に」

今野 「まったく関係ない人間も、神職に就けるんですか?」

遠藤 「就けますよ。神主の資格を取れば」

今野 「ほう~。奈良から大宮へは、どういった経緯で?」

遠藤 「大学の教授が『氷川神社に行けよ』ということで」

今野 「どういう理由があって、氷川神社行きを薦めたんですかね」

遠藤 「神主はいろいろな仕事をしないといけないんですが、私が特化していたのは、雅楽って分かります?」

今野 「いえ、分からないです」

遠藤 「日本の古典音楽の一つです。私は子どものころからずっと笛をやってまして。雅楽を一番伝えているのは皇室で、宮内庁楽部というのがあるんですが、そこの先生に習いたいという思いがあったので、関東圏の神社を探していたんです」

今野 「そういうことか。『埼玉かよ!』ってなりませんでした?」

遠藤 「いえいえ、全然」

今野 「当時から『ダ埼玉』って言葉ありませんでした?」

遠藤 「私がちょうど大学生のころ、さいたまんぞうさんが『なぜか埼玉』を出されて。そう言えば、言われてましたね」

今野 「嫌じゃなかったですか?」

遠藤 「はい。だって、1982年に東北新幹線が開業した当時の出発地点でしたし、そこまで気になりませんでしたよ」

今野 「へ~」

遠藤 「そのうち埼京線ができて、湘南新宿ラインもできて、住んでみて、こんなに便利なところはないですよ」

今野 「あっ、埼京線がない時代に来たんですね。じゃ、どんどん便利になっていくところを見てきたのか。埼京線があったら、もうすべて網羅したようなもんですもんね」

遠藤 「そうですね(笑)」

大宮の良さを伝え続ける

今野 「あの~、よく恋愛の神様とか言うじゃないですか。氷川神社っていうのは?」

遠藤 「スサノオノミコトは……神話的には災害を治める神様ですかね。ただし、ヤマタノオロチを退治してイナダヒメをお嫁にもらった話なんかを聞くと恋愛にも通じているし、いたずら好きの神様でもあったようです。人間的魅力も併せ持った、オールマイティーな神様だと思います」

今野 「は~。ここに来ておけば間違いないですね」

遠藤 「そうですね」

今野 「遠藤さん、ここに来てから、そのすべての知識を入れたんですか?」

遠藤 「いや、奈良にいたときからかもしれません。世界文化遺産の奈良公園の中に宿舎があって、そこに住んでいたので。歴史の宝庫、古くからの文化が息づく場所で、自然と言い伝えや芸能に興味を持って、勉強していました」

今野 「変わり者だなぁって、ならなかったですか?」

遠藤 「変わり者ですよ(笑)。でも、あとは幼稚園が東大寺の幼稚園だったので、本当に小さいころから神仏の近くで生活して、それが当たり前だったので」

今野 「最近の知識も、ものすごくインプットしているじゃないですか」

遠藤 「いろいろ忘れちゃいますけどね。だから、しゃべるようにしています」

今野 「ツアーとかないですかね。遠藤さんの説明つきで」

遠藤 「今のところ……」

今野 「神主さんは、みなさんそれくらいの知識があるんですか?」

遠藤 「あるんじゃないですか。分からないですけど」

今野 「じゃ、いろんな神社で質問していいんですか?」

遠藤 「どんどんしてください。面倒臭がられるかもしれないですけど」

今野 「そうですよね(笑)」

遠藤 「最近は神社ブームで、御朱印とかもあってけっこういらっしゃるんですよ。神主さん、1日中汗だくになって書いてますから」

今野 「スタンプラリーみたいなもんですね」

遠藤 「本来は参拝した証なんですけど、最近では印を押すだけじゃなく、日付を書いたり、神社名を書いたり、一言書いたり、絵まで描いているところもあるようです」

今野 「最近はインスタ映えも……」

遠藤 「ただ、我々の使命は次の世代に伝えていくことですから。お賽銭だけでは賄えない、神社を維持することができないとなったら大問題ですから、ブームもありがたいことだと思っています。氷川神社の良さ、大宮の良さを伝えていくのも、大事な仕事なんです」

富士山の頂上でアルバイト

今野 「遠藤さん、全然関係ないですけど、趣味は?」

遠藤 「雅楽は子どものころから。あとは、ひざを悪くしてやらなくなりましたけど、山登りとかスキーは大好きで、昔はやっていました」

今野 「山はだいたい登りました?」

遠藤 「すごいところは登っていないですけど、富士山は頂上に1カ月いました」

今野 「いた!?どういうこと」

遠藤 「富士山は8合目から上は神社の土地なんですよ。学生時代、夏の間そこで1カ月、お手伝いをしていました」

今野 「どういう生活をするんですか?」

遠藤 「まずは朝3時に起きて神社を開ける。ご来光を拝みにきている方がすでにいるので、みなさんが持っている木の杖に刻印を押すんです。そういうこととか、ご祈祷をやったり。お昼になると暇になるので、あとは自由時間(笑)」

今野 「とはいえ過酷ですね」

遠藤 「はい。上がって3日くらいは、心臓がバクバクいってます」

今野 「ちゃんとした建物があるんですか?」

遠藤 「はい。それで周りを石で囲んでいます」

今野 「トイレとか水道は?」

遠藤 「水道はなくて、雪解け水とか雨水を汲んでおく。風呂は10日に1回でした」

今野 「今は仕事が趣味みたいなもんですか」

遠藤 「大好きですね。365日、24時間神主です。それが私の信条なんで」

今野 「すごいなぁ。みんなそうですか?」

遠藤 「いや、いろいろいますよ。こうやれっていう決まりはないので。日本の神社くらい自由なところはないかもしれない」

今野 「そろそろお時間なので、大宮アルディージャのベストイレブンを……」

遠藤 「すみません。あまり分かっていないので……(笑)」

今野 「大丈夫です(笑)。最後、何か言い残したことは?」

遠藤 「ぜひ頑張ってもらって、一緒に大宮を盛り上げていけたら」

今野 「そうですね。お忙しいところ、今日はありがとうございました」

遠藤 「いえいえ、とんでもない。話し足りないので、今度ゆっくり遊びに来てください」

今野 「そうですね、もうちょっと暇な時期に……。暇な時期ってあるんですか?」

遠藤 「いや、ないですないです」

今野 「ですよね(笑)。いやぁ、今日はいろんなお話を聞けて、すごく楽しかったです」

構成:粕川哲男

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