【VENTUS PRESS】上辻祐実

開幕から2カ月がたちシーズン中盤戦に差し掛かったWEリーグ。デジタルバモスでは毎月1回程度、大宮アルディージャVENTUSの情報をお届けします。



Vol.009 文・写真=早草 紀子

「‟伝えること”は決して得意ではないが……」
上辻祐実が見せてくれた新たな変化

 陰となり、陽向となり、ベントスを牽引するベテラン組——鮫島彩、有吉佐織、上辻祐実、阪口夢穂らで形成する通称“87会”もすっかり定着した。それぞれのキャラクターが立つ87会のなかで、上辻のプレーはいぶし銀だ。ド派手なプレーで沸かせるよりも、唸らせるプレーが彼女らしい。ボランチとしてひとたびタクトを握れば、使われる方が驚きを隠せないパスコースで可能性を引き出してみせる。自他ともに認める人見知りの彼女もベントスでは“伝える”ことから逃げる訳にはいかない。ベテランにはベテランの挑戦があることを彼女の変化から感じ取ることができた。

チームの良さを消さないために

——始動当初のベントスのイメージはどうでした?
「とにかく元気でしたよ(笑)。すごく人見知りをするのですが、元チームメイトが多かったので個人的には助かりました」

——ベントスの若い選手たちはとにかく物怖じせずにぶつかってきますよね?
「めちゃくちゃ質問しに来ましたよ! (源間)葉月、(村上)真帆は特に。プレーが終わった直後とかに『今の見えてたんですか!?』ってよく聞かれました(笑)。(杉澤)海星にいたっては『どういうプレーをしたら助かりますか?』と聞かれて、ザックリしすぎて困ったことを覚えてます(笑)。広いから何を答えても正解ですよね」

——自分の持ってる既成概念と違うなと感じるところはあります?
「もうね、だいたいが違うんです(笑)。だからとりあえずは合わせていきます。ベントスは勢いがウリなのでそこは殺さないようにしないといけないって思っています」

——前に出て行きたい選手がたくさんいますもんね。それにしても元気だなと思う選手はいますか?
「マル(山崎円美)! アップから全力ですから。マルのエネルギーがなくなってるのは見たことがない」

——WEリーグが開幕して、厳しい戦いが続くなか、第5節ではホームでサンフレッチェ広島レジーナを相手に初勝利をおさめました。
「ずっと課題だった立ち上がりに失点しなかったことに尽きます。これまでもやってきてはいたんですけど、あの試合の入りは『ゼロで行こう』と再確認をし合った。でもやっぱりピンチもあったんですけど、それが防げたのが良かったです」

——守備力が上がってきた実感はありますか?
「がんばってます(笑)。粘り強くというか、体を張るところは張りながら……我慢ができるようになってきた。その我慢の時間がまだまだ多いんですけど」

——ホーム初勝利でゴールラッシュ。スタジアムの雰囲気はいかがでしたか?
「もう本当に『お待たせしました!』という感じでした。点が入ったのもサポーターの人たちの側だったので良かったです。去年在籍していた、ちふれASエルフェン埼玉でもNACK5スタジアム大宮を使ったことがあったのですが、やっぱりいいですね。ピッチと客席が近いので、飲水タイムに話してることが客席に聞こえているのか、よく笑われます(笑)」

——意外と聞こえるんですよね。逆に観客席の思わず出たボヤキも聞こえますよ(笑)。
「あ〜それはポジション柄(ボランチ)ちょうど聞こえないので良かったです(笑)」



両足で蹴れるという武器

——記憶をたどってもらいたいのですが、両足遜色なく蹴れるようにしようとしたのはいつごろからですか?
「記憶はないんですけど、母が『小さいころから左足も蹴りなさいって言ってて良かったわ〜』と言ってるので、そこがきっかけじゃないでしょうかね。中学生のときなどけっこう練習しました。ネットに向かってひたすら蹴り込むというものでしたけど。でも両足蹴れるととても便利ですよ」

——両足で蹴れるのは武器だと思います。
「ですよね。まず、プレーの選択に困らない。ボールが流れて『あ〜左足や(⤵)!』ということがない。右足で打たなければいけないから左に切り替えさないと、など思ったことがないです」

——それは阪口選手と一緒だったラガッツァFC高槻スペランツァの時代からその域に達してたんですか?
「高槻のときは左サイドハーフが多くて、左でボールを上げることが多かったので、蹴らなきゃいけない状態に置かれてました。でもすごいいいお手本(阪口)がいたので……トラップにしろ、何にしろ一番うまいお手本でした」

——お手本がいたからって全員ができる訳じゃないですから、上辻さんのお手柄ってことで大丈夫ですよ(笑)。
「そっか(笑)。でも大事ですよ、お手本。うまい人を真似るのは大事です」

——いま若い選手たちからすごく見られてると思いますよ、上辻さん。
「見られてます?……こわっ(笑)」


ベントスで見つけた新な務め

——いまのコンディションはどのような状態ですか?
「ヒザの痛みは少しマシになってきてますけど、まだまだです。次の日練習できるまでに戻すことに必死です」

——いろいろ経験を積まれてきてますけど、ここでサッカーの考え方が変わったなと感じる時期は?
「いろいろあるんですけど、一番は日テレ・ベレーザ(当時)の最後の年でしょうか。監督が永田(雅人)さんになって、『こういうサッカーをやろう!』と見せられたとき、私だけじゃなくみんな頭のなかが『???』となりました(笑)。言っていることは分かるし、それができたらいいけどさー、簡単に言うけどさーって(笑)。映像とか見せてもらって、細かくボールの持ち方、体の向きを練習で重ねていくたびに分かっていくんです。その翌年にちふれに移籍をして……。でも監督が永田さんと一緒にサッカーをしていた菅澤大我さんだったので、大きくブレずにサッカーを理解することができました」

——そういった経験から増えた引き出しは?
「ポジショニングかな。ダメなんですけど、よく分からずに雰囲気でやってたところもあったので、ちょっと相手を見ながらできるようになったかもしれない。そういうところはベントスでも“伝える”ようにしてます」

——……すごい変化ですね。
「私が“伝えてる”ってことが、ですよね(笑)? “伝えること”は決して得意ではないですけど……。さすがにチームのことは“87会”の他の選手がやってくれてるのでグランドに立ったときくらいは、ね。私の務めはここだなと思っています」

——様々な選手がいるベントスですが、このチームで広がった選択肢はありますか?
「今までは攻撃をもう一度作り直す意味でちょっと後ろの位置にいて、サポートみたいなのをやってほしいと言われていたのですが、なにせみんな勢いがあるので、そこにいてもボールは来ないことが多いんです(笑)。なるべくもう少し前で関わるというか、高い位置に行ければゴールに近づくのかなと思っています」

——リスクを恐れて守りがちになるチームもあるなか……。
「みんなめっちゃ出て行きますよね。そうなるともう『行け行け〜!!』って思って見送ってます。正直に言うと休みたい時間帯もあるんですけど、なかなか休ませてくれません(笑)」

——その勢いを消さずにリスク管理も取れたライン設定が感覚として生まれればもっとゴールを見せてもらえますね。
「そう思います。個人的には11月には古巣であるちふれASエルフェン埼玉との対戦もあります。厳しい戦いが続きますが、スタジアムに足を運んでいただいて、ぜひ後押しをお願いします!」



早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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