【VENTUS PRESS】乗松瑠華

今シーズンから創設された女子サッカーチーム『大宮アルディージャVENTUS』。デジタルバモスでは毎月1回程度、採れたてのVENTUS情報をお届けします。



Vol.002 文・写真=早草 紀子

新天地で再起を図る乗松瑠華。
「これをチャンスととらえて大宮アルディージャVENTUSでチャレンジする」


今回登場するのは大宮アルディージャVENTUS(以下、大宮V)の乗松瑠華選手。各年代のカテゴリーで代表経験を持つ彼女だが、キャプテンとして臨んだ2016年のFIFA U-20女子ワールドカップでの負傷を機に手術を決断した。それから約2年、思うようにコンディションが上がらず苦しんだ時期を乗り越えて、新天地として選んだのが大宮Vだった。新たなスタートを切った乗松選手のセンターバックへの熱いこだわりにも、ぜひ触れてもらいたい。


——U-20W杯という世界での経験をもっとプレーに昇華させたいというタイミングでの手術でしたね。
「直接的にはあのときのケガが原因というわけではないんです。前々から右ヒザにケガを持っていて、結果的に3位決定戦の前日にケガをしてしまい、そこでアンダーカテゴリーの活動がひと段落ついたので、思い切って手術をしておこうと。(手術を回避して)プレーすることもできたけど、痛みをずっと抱えながらやっていかないといけないというリスクもありました。あのタイミングでケガをしたからこそ、サッカーと向き合うために手術の選択ができたと思っています」


——実際にはリーグ復帰まで約1年半かかりました。所属していた浦和レッズレディースもチーム成績が上がっているなか、移籍というのはいろいろ悩んだのでは?
「悩みました。ボールを蹴れない期間が長かったので……。昨年、自分のコンディションが戻ってきているのを感じてはいたけれど、センターバックとしての出場が与えられませんでした。浦和を出るかどうか悩んでいるときに、大宮Vができるということを知ってかなり揺れました」


——移籍を決断した理由は?
「(浦和で)やっとつかんだ出場機会もボランチでの起用が多かったんです。森(栄次)監督になって2年目で、かなり戦術が浸透していたなかでサッカーをすることが楽しかったのですが、このまま新しいシーズンを迎えて出場機会を探りながら1年を過ごすのと、これをチャンスととらえて大宮Vでチャレンジするのと自分にとってどちらがいいのかと考えて決断しました」


——U-16女子日本代表時代はサイドバックからどんどん攻撃参加していたので、攻撃が好みなんだと思っていましたが、センターバックへのこだわりがかなり強いですね。
「やっていて一番楽しいと思えます。守備が好きという訳ではないのですが、常に前を見て遠くに蹴ることができるし、近くでつないで動かしていくこともできる。後ろから長いボールを蹴れるのは自分の強みでもあるので、ボランチよりセンターバックのほうが生きると思うんです。守備はあまり好きではないけど、ピンチのときに自分が一人で止めたらスカッとするし、みんなをその一つのプレーで助けられたらやりがいを感じます」


——9月の開幕後には古巣である浦和とのダービーもあります。やはり思い入れはありますか?
「どのチームにも負けたくない気持ちはあるけれど、それが浦和だとより深まるし、ケガでなかなか自分のいいプレーを見せることができずに移籍したので、これだけ動けてこれだけいいパフォーマンスができるというところを見てもらいたいです」


——センターバックとしては浦和の攻撃陣を止めてこそ恩返しができますね。
「はい、ピッタリのポジションなんで(笑)」



——始動して約2カ月。やりたいサッカーは見えてきました?
「やっと課題がハッキリしてきました。まだうまくいっている部分は少ないけれど、練習試合を重ねていくにつれて、『もっとこうできるよね』とチームメートに要求する機会が増えました。まだまだだけど、それも大事なこと。ここからです」


——いまのコンディションは?
「めちゃめちゃいいです! (ヒザの)怖さも全然ないし、キレも出てきている感じがします」


——頼もしい! 個人的に新しくトライしてみたいことは?
「極論を言えばセンターバックからFWに入れる一本のパスで点を決められたらシンプルでいいですよね。ゴールを目指すのが一番大事だと思うので、そこは大事にトライし続けたいところだし、その精度を高めたいと思っています」


——メンバーを見ても最終ラインはいろいろ発展させられそうな気がします。
「アリ(有吉佐織)さんとサメ(鮫島彩)さんが両脇で細かい指示をくれるんです。センターバックはずっと声を出し続けるべきだと思うんです。それがセンターバックだけではなく、両サイドバックからもいろいろな声が出ると、前線の選手もすごくやりやすいと思います」


——その声によって再発見したこととかありますか?
「自分は最初にボールを受けたときにFWを見ることが多いのですが、相手のプレスが来るところとFWの位置関係を見ることに慣れ過ぎていて、ボランチが受けられるコースを消していたり、前に行き過ぎて相手の守備にハマってしまっていたことがありました。そこは自分の課題だなと思ったのですが、その課題を見つけてくれたのはアリさんの“声”でした。GKがボールを持ったときに味方のボランチの位置を見て、『いま上がっていっていいよ』とか『いま下で受けて』など、アリさんがけっこう言ってくれるんです」


——大宮Vの最終ラインはすごく声が出ているんですね。
「そうですね。……負けずに声は出しているつもりです(笑)」



——最近は練習試合もしていると聞きました。実践形式ではじめて分かる自分たちのプレーというのもあると思います。
「まだみんながお互いのプレーを分かり切ってないなかでどう合わせるか、最初は本当に難しかったです。『まず目指すべきはゴールだよね』という話が出るくらい、最初は周りを見過ぎている感じがありました。これをこうしたらこういう動きが生まれてくる——そこを理解していくところからのスタートでした。それを次の試合で修正して、するとまた別の課題が出てきて……いまはエンドレスな状況です(苦笑)」


——どんなときに大宮Vらしさを感じますか?
「流動的に空けたスペースに人が入ってきて、攻撃時にリズムが出るときがあるんです。個々で勝負するというよりはチームで崩してゴールを目指していくサッカーだと思います。でもまだみんな周りを気にしすぎていますね。どこに立てばいいんだろう、どこに抜けたらいいんだろうと……。もっと自分の良さをどんどん出して「自分がこうしたいからここにボールを出して!」といった要求が出てくると、また違うチームカラーが出てくると思います」


——4月29日からはいよいよプレシーズンマッチ(初戦はジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦@ゼットエーオリプリスタジアム)が始まります。代表組も帰ってきて、短い時間ながらもここは積み上げられるなというところは?
「やっぱり守備ですね。攻撃はいろいろなアイデアを持って、ゴールから逆算して自分たちの良さを出しながら自由にやればいいと思うのですが、守備はもっと改善できるところが多いと思います」


——初めて大宮Vのユニフォームに袖を通して戦うことになるジェフ戦に向けて意気込みを聞かせてください。
「これを読んで試合を見に来てくれる方もいると思います。まずは絶対勝ちたいです。新しいチームで難しい部分も出てくると思います。そのなかでもトライすることを続けながら、どんどん要求し合っていきたい。チームのために何ができるかも考えるけれど、自分がまずゴールを取るために何ができるかというのもみんなで大事にしていきたいと思っています。ぜひ応援よろしくお願いします!」



乗松 瑠華(のりまつ るか)
1996年1月30日生まれ、埼玉県出身。164cm/57kg。西上尾キッカーズ→JFAアカデミー福島→浦和レッズレディースを経て今シーズン、大宮アルディージャVENTUSに加入。


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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