【VENTUS PRESS】望月ありさ

後期開幕まで1カ月を切った大宮アルディージャVENTUS。デジタルバモスでは毎月1回程度、VENTUS情報をお届けします。今回はVENTUSのゴールマウスを守る、望月ありさ選手を紹介します。


Vol.011 文・写真=早草 紀子
最後尾の司令官・望月ありさ。
後期巻き返しへの、強い思い


土台を築いた長野時代

――日テレ・メニーナ、日テレ・東京ベレーザ、AC長野パルセイロ・レディース、ニッパツ横浜FCシーガルス、そして大宮アルディージャVENTUSとキャリアを歩まれてきました。GKとして一番伸びた時期、おもしろさに気づいたのはどの時期ですか。
「長野1年目です」

――そこが具体的に出てくるということは、その時期に何かがあったということですね。
「もちろんです! メニーナ時代は試合こそ出ていたけれどまだ若すぎたし、ベレーザではずっと試合に出られていなかったので、なでしこリーグでしっかりプレーできた長野の1年目になります」

――試合に出ることで得られるものはすごく多かったとは思いますが、具体的にこういうところが違ったというのはありますか。
「GKは試合に出ないと本当に意味がないと思った時期でもあって、出ることによって自分でもなでしこリーグで何かできるんだという自信にもつながりました。また、そのなかで一番大きかったのがGKコーチとの出会い。セットプレーの守り方から、普段の立ち位置まで、本当に一から百まで自分が知らないことを全て教えてもらいました。この2年間で本当に成長できたと思います。いまの自分があるのはそのコーチのおかげと言ってもいいくらいです」

――いまの自分を形成してる核になっているものとは?
「やはりセットプレーの守備を全て自分に任されたことです。ある程度のお膳立てもなく、紙とペンだけしかもらってない(笑)。試合前にチームに落とし込むのも全部自分です。GKというポジションは、最終的に全て自分の責任になる。なんとなくは分かっていても、しっかりと理解してないと伝えられないから……『こういう時はどうする?』と確認しながらやっていました」

――自分なりに何か研究はしたのですか。
「なでしこリーグで対戦する相手の直近の試合は必ず見て、クイックなのかなど、どういうセットプレーをしてくるかを研究していました」

――めちゃくちゃいい習慣じゃないですか。いまも続いていますか?
「もちろんGKコーチによりますけど、映像は必ず見ます」

――コーチからの目線を理解する視点と、どこが大事かを自分の視点で切り取る、この二つの視点があるのはいいですね。
「そうですね。うまくいかないときは、少しずつ視点を変えて調整します。例えば、マークにつくのが苦手な場合はゾーンに変えたり、譲り合ってしまうようならマークに変えて責任感持たせるなど、選手たちの特徴に合わせます。あまりコロコロ変えるものではないので、一つ軸となる方向性が決まれば、相手によって細かくポイントを押さえて伝えていきます」

――望月選手がそういう考えを伝えることによって、ディフェンスラインの意識も変わってきますよね。
「伝えるからこそ、自分が本当に勉強しないといけないと思っていました。『じゃこうなったらどうするの?』と質問されても答えられないとダメなので、どんな疑問が来ても答えられる準備はするようにしていました。その経験ですごく成長したと思います」


GKというポジションの魅力

――望月選手はフィジカルがしっかりしている印象です。
「小学校4年生からずっとGKをやっているので、GKに特化したフィジカルになったのかもしれません」

――最初からGKをやりたかったのですか。
「最初はフィールドプレーヤーをやっていました。ただ、男子のチームにいたので、だんだんと差を感じてしまって……。けっこう強いチームだったので、特にそう感じていたときにたまたまGKがいなくて、GKだったら試合に出られると思ったのがきっかけでした。自分からGKやりたいと言ったわけではありません。自分からGKやりたいという人はあまり聞かないですよね……」

――以前は見る機会も少なかったかもしれないけれど、いまは目にするツールもあるし、GKをやりたいという人が増えてもいいと思うんですよね。
「GKは全く別物ですからね。メンタルが強くないとやれないし、女の子がやるポジションかなと考えたら、ちょっと……」

――もっと前向きなアピールをしてください(笑)。
「あ、いまはすごくGKが好きだし、『どのポジションをやりたい?』と聞かれても、GKと答えますよ」

――どんなところがおもしろいですか? おススメポイントは?
「GKは試合を変えられるポジションだと思います。もちろんFWも点を取って変えられますが、GKも同じく点に絡むので、一本止めれば流れを変えられる。試合を動かせるポジションだと思います。陰ながらと思うけれど、GKがうまいチームは本当にしっかりしているし、自分の闘志次第で試合は変わります」

――U-17、U-19と代表活動に触れることで何か自分に影響はありましたか。
「海外の選手に触れることで、リーチの長さや、日本では感じることができないものを知ることができます。その中で、自分がどうしたら通用するかということを考えさせられました。また、チームメイトたちの技術レベルが高くて、自分はGKというポジションですが、足元の技術やビルドアップというのがすごく大事だと痛感し、練習でも取り組むようになりました」

ハイレベルなポジション争い

――そういう経験を重ねて、昨年、大宮アルディージャVENTUSへ加入しました。
「まず、則さん(佐々木則夫・元総監督)からお話をもらえて光栄でしたし、自分はチームでは年齢が上のほうなのですが、いままでいろいろな経験をしてきたので、後輩たちに伝えていけたらと思っていました。また、フレッシュな気持ちでみんなが集まると思ったので、そういうところも楽しみでした」

――実際に入ってみてどう感じましたか。
「いままでは、ある程度形ができているチームでプレーしてきたので、一からサッカーチームを作るということは大変なんだなと本当に感じました。でも、成長していってることも感じます。最初は結果が出なかったけれど、少しずつ勝てるようになって、まだまだですけど結果がついてくると雰囲気もいいので、やってきたことは間違ってないと思えます。個人としてもまだまだいろいろな意味で成長しないといけません。後輩に伝えるだけではなくて、自分の苦手なところをもっと高めていって、もっとチームに貢献したいと思います」

――苦手なところとは?
「ビルドアップやクロス対応は得意なのですが、近場でのシュートストップのスピード、ジャンプの飛距離、あと高く遠くに素早く動くのが、ガタイがいいのでちょっと……。俊敏系とパワー系とでタイプが分かれるじゃないですか。結局、パワー系は俊敏さに欠けるので、そういうところもある程度は高めていければ、オールマイティになれるのかなと思います」

――VENTUSのGKはそれぞれ違ったタイプがそろっています。それぞれから受ける刺激はありますか。
「(今村)南海で言うと、本当に怖がらないんですよ。相手の懐まで入れるし、体に当てられる選手なので、見習わないといけない。素早く体に当てるのはチームで一番。スタンボー(華)に関しては、体格もあって自分よりも背が高くて、でも俊敏性も持っていて、そういうところでは自分の届かないところも止められる。どうやって飛んでるのか日々盗んでます(笑)」

――逆に刺激を与えているのは、さっき言っていたビルドアップのところですか?
「そうですね。足元の技術、ロングフィード、あとは経験……頭の中ですね。自分は考えてプレーするタイプなので、フィジカル面に特化していないと自分では感じているから、フィールドプレーヤーと一緒に守るということを意識しているんです。だからコーチングも必要になってくる」


チームとしての成長は?

――開幕戦から比べるとチームの守備がすごく成長していると感じます。システムの変更はあったにせよ、システムを変えたからといって急に成長する訳ではありません。頭脳派の望月さんから見ると、どういうところが変化してきていると感じますか。
「自分はまだまだ現状に納得はいっていません。自分が寄せてほしいタイミングとDFが寄せたいタイミングが違うなど、自分とDFとで意見が合わないこともあるし、そこをすり合わせていかないといけません。まだまだあるのですが、やっていくうちにその選手の特長を後ろで把握できるようになったことで、『こういう場合にこういうプレーをするからこう予測して止めよう』といったことを考えて、全体のオーガナイズを見るようにしています。しっかり後ろからつなぐときは、ポジショニングを意識したり、中間ポジションを取って相手を惑わせる位置になってからビルドアップをするなど、選手全員が状況ごとに判断してプレーできているのが、守備がよくなってきていることにつながっていると思います」

――日々の練習があるとはいえ、試合での個人の判断や特長を理解するには、やはり時間が必要だったということですかね。
「そうですね。しかも試合になると周りの声が聞こえなくなってしまったりもするので、そこでいかに声を聞くかですね。コーチングしていても自分が正解かもまだわかりません。自分はDFを使って守りたいから、自分の特長と周囲を合わせていかないと、止められるボールも止められなくなります。だから、日々コミュニケーションしていかないといけないと思っています」

――最終ラインには経験豊富な選手がたくさんいて、いろいろな意見が飛び交います。この考えは自分にはなかったなという、VENTUSに入って少し考え方が変わったなと思うところはありますか。
「単純にサメさん(鮫島彩)に関しては、守備範囲が広いんです。 リスク管理のためにマークする選手を見ておいてと細かく伝えているのですが、自分ではマークを放しすぎていると感じる距離でも、サメさんは余裕で間に合うんです。そこは本当にすごい。自分だったら置いていかれます。だから、自分の感覚でポジショニングの指示を出してしまうとよくないんです。最初は、そんな遠くにマークすべき相手選手を置いていくのは不安だったんですよ。だけど、サメさんはできてしまうので、しだいに慣れていって、いまは後ろから見ていて危ないと思ったことを早め伝えるようにしています。コーチングの大切さをあらためて感じています」

――その目線で見て、長嶋選手と乗松選手の攻め上がりは許容範囲?
「いや、基本的には二人で前には行かせたくないんですよ」

――すごく怒られると言っていました(笑)。
「前を狙うなら、一人は絶対にカバーするように言っています」

――いつも「バランス!」と叫ばれているなと思って見ています。前期で印象に残っている試合はありますか。
「うまく行った試合は、最初に勝ったサンフレッチェ広島レジーナ戦ですかね。あとは勝てなかったけれど、日テレ・東京ベレーザ戦はみんなが終始、体を張って失点ゼロに抑えたというのはすごく守備の頑張りを感じました。自分も全然シュートを打たれなかったですし、INAC神戸レオネッサとやった開幕戦の頃とは変わったなと(苦笑)。まあ、あの試合はフォーメーション的にいろいろあったんですけど」

――広島戦は攻撃もすごくよかったし、攻撃で先手を取って守備にもつなげるあのサッカーが、VENTUSがやりたいことなんだろうなと思いました。ベレーザ戦は相手の攻撃力を踏まえた上で、守備から波を前に出していく。両方が重なったら一つの形になっていました。ベレーザ戦の立ち位置は本当によかった。あれは気を遣いました?
「いや、けっこうみんなちゃんとやっていたので、気になりませんでした。守備の意識はあったと思います。練習試合でぼろ負けしてましたから(苦笑)」

後期への期待と伸びシロ

――いろいろな良いところ、悪いところが出た前期の戦いを、率直にどう捉えていますか。
「下位にいるチームに点が入らずに引分けたりしているから、後期はしっかり勝っていかないといけません。新しくできたチームではありますが、前期が終わった段階でチームとしての基盤は作れていないといけません。どんどん質を高めて、見に来てくれる方々に納得してもらえるような試合を、一試合でも多くやっていきたいです」

――このチームの伸びシロはどう感じます?
「まだまだ伸びシロありますよ! ケガで苦しんでいる選手も多いですし、その選手たちが全員復帰できたら、本当のVENTUSになると思っています」

――自分たちが思っているVENTUSという形が少し見えてきて、さらに復帰してくる選手たちもいる。まだ、本来のVENTUSは見せられていませんか?
「そうですね。まだまだです。レギュラーも定まってないと思っていますし、GKだっていまは自分が出ていますけど、この先は本当にどうなるかわからないと思っています。お互い切磋琢磨して一番いいVENTUSを見せたいです」

――後期が終わるころ、どんなVENTUSになっていますか?
「『ベントス成長したな』と誰もが思ってもらえるような試合をして、もっとVENTUSを応援したいと思ってもらえるような試合をしたいです」

――そんなサポーターに後期、「私のここを見て!」というポイントは?
「そうですね。必死になってシュートを止めて、チームの流れを変えるところです。まだまだ攻撃されて守備に回ることも多いので、そこでいかに自分が止めてみせるか。攻撃参加も得意なところなので、攻守を両立して、チームメイトにもファン・サポーターのみなさんにも頼れるGKだと思ってもらえるようになるので、見ていてください」



早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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