【VENTUS PRESS】鮫島彩 前編

鮫島彩 選手——世界一の景色を知り、なおも、どん欲に可能性を広げるべく、新設チームとなる大宮アルディージャVENTUSで奮闘を続けた2年間。2シーズン目を戦う鮫島選手が、これまでに感じた“プロフェッショナル”、そして現在地について語ってくれました。

Vol.26 文・写真=早草 紀子

「チャンスではリスクではなく、仕掛ける方を選択していきたい」(鮫島彩)

—鮫島選手はもともと描いていた看護師という夢も含め、高校時代はサッカー以外の道も選択肢として持っていました。それが、サッカーで勝負しよう! と舵を切った時期はいつ頃だったんですか?
「サッカーは高校で辞めようと思ってたんです。進学をするにも、世代別代表としてAFC女子アジア選手権が春の開催で、いわゆる狭間にあって、辞めるのはいまじゃないか・・・とかいろいろ考えてたんですけど、高校の国語の先生がサッカーを辞めようとするのを止めてくれたんです。卒業してマリーゼ(東京電力女子サッカー部マリーゼ)に入ってからも、ベストは尽くしてるけど、大きな目標があるわけじゃなかったから、どことなく吹っ切れてもいなくて・・・そのとき、その先生に『どうせやるんだったらサッカーに1回全部懸けてみたら?』って言われたんです。その『どうせやるんだったら』っていうのがすごく性に合っていたみたいで、『やるんだったらとことん突き詰めてみよう!』という感覚になりました」

—マリーゼからアメリカ、フランスと海外経験を積みました。その辺りからずっとプロ契約ですか?
「いえいえ、アメリカ時代はほぼニートでした()

—震災後に急遽という形でしたもんね・・・。鮫島選手はいろんなチームで“プロフェッショナル”なものに触れてきたと思うのですが、高校卒業後初めて体験したなでしこリーグも含めてどういう“プロリーグ”のイメージがありますか?
「正直、小さい頃に見てたLリーグ(後になでしこリーグへ名称変更)の形態がプロかアマかじゃなくて、自分にとってはそこがもうプロリーグというか、トップの場所でした。いまだったら、契約の違いとかわかるんですけど、当時はマリーゼの先輩方が、紅白戦のときにも100%の力をかけている感じ、勝負にこだわってる感じがすごく刺激的で、そのときの立場で見てたそのリーグの全部が“プロ”でした」

—確かに、特にLリーグの時代は人気が低迷して、リーグの存続も危ぶまれてましたから、選手一人ひとりが背負っていた『ここでリーグを潰す訳にはいかない』っていう責任感みたいなものは、代表選手と同レベルの“プロ意識”があったかもしれませんね。
「確実にありましたね。だから『お金をもらってサッカーだけの環境に身を置く=プロフェッショナル』とも一概に言えないと思うんです。プロという観点で言うと、クラブに求められてるもの以上のものを提供できる人はやっぱり一流ですよね。もしかすると選手によっては、プレーだけじゃないかもしれないじゃないですか。魅せ方もそうかもしれないし、ムードメークかもしれないし、グッズの売り上げなんかもプロの一つの要素。チームのなかでの自分の役割が何かを、理解できてそれをちゃんと突き詰めていこうとする人は“プロ”ですよね」

—“プロフェッショナル”を感じた選手は?
「アメリカにいたとき、チームメイトだったイングランド代表のケリー・スミス選手ですね。有名な選手ですが、そのときはすでに代表でもフル出場というよりは交代起用でした。彼女って全練習メニューに参加してることって少なかったんです。二日に一回程度かな。参加しないときはピッチ横で体育座りして練習を見てるんです。英語が話せない私は『ケガしてるのかな?』っていう程度に思ってたんですけど、ケリーが試合に出ると状況が一変するんですよね。そして必ず結果を残す。いまの自分にはこのくらいの練習量が一番試合でパフォーマンス出せるっていう判断をしてたんでしょうね。その姿を見て一種の『プロ』を感じました。そういう考えが許容されるアメリカならではだとは思いますが」

—スポーツエンターテインメントの国っぽいですね。エンターテイナーと言えば、ファン感謝際での鮫島選手の仮装と、なり切り力は群を抜いていました。そのかいあってか、初めてサイン会が解禁された先日の公開練習では多くのファン・サポーターのみなさんの姿がありました。
「うれしかったですね、そして楽しかった! まあそれが仮装の成果かどうかは別として()。いつも長話しちゃうんです。あれって女子サッカーや女子アスリートの強みなんじゃないかなって思うんですよね。根本的に、自分たちには女子サッカーを応援してもらいたい、好きなってもらいたいという思いが強くある。人気の浮き沈みの激しいスポーツなので。だから直接ファン・サポーターのみなさんと触れ合える機会は、もう心から『ありがとうございます!』って思いで対応するし、みなさんとの会話を楽しむし、そういう時間を共有したことでファン・サポーターの方たちも何か応援したいって思ってもらえたらうれしいです」

—そんな声援の後押しを受けて、VENTUSはWEリーグ2シーズン目を戦っています。
「昨シーズンは9位。懸命に取り組んだ結果ではありますが、やりようによってはもう少し上位に食い込めたのではないかと・・・。今シーズンは、戦い方にいろんな決め事も生まれてきてます。女子選手は言われたことをどうにか形にしようとするパワーがすごいと思うんですよ。それもあって。今シーズンはいろいろな形を出せてると思います」

—今シーズンはサイド攻撃も魅力の一つです。
「私たちは“ポイント”って呼んでるんですけど、そこにボールが入ったらいい攻撃ができてる印象はあります。でも対戦相手は、結局そこを切りに来るので、そのときにむしろ中央から攻めて“ポイント”を開けるぐらいの形もできるようにしないといけないなって感じてます」

—ただサイドハーフが張ってると、鮫島選手の攻撃参加の機会は減ってしまいますよね・・・
「でも狙ってますよ()? 確かに自分の良さは出しにくいスタイルだとは思います。そのなかでも自分もできることは増やしたいし、ビルドアップから細かく繋いでゴール前まで運ぶスキルを身につけられる機会だと捉えることもできる。上がれるチャンスは少ないだろうから、だからこそ本当にタイミングをちゃんと自分で見つけなとダメだなって思ってます」

—ポゼッション率から見ても、持ち場を離れにくいという苦しい事情は十分に理解していても、見たいと思ってしまうんですよね、鮫島選手の攻撃参加は。
「自分でもわかってるんです・・・攻撃の場面でボールを受けたとして、ここで無理やり仕掛けるよりもボールロストしない方を選択する意識がVENTUSに来てからは強くなってる。取られたらカウンターをくらう可能性が高いし、もしかすると失点までつながるかもしれない。みんなもしんどくなるし・・・だからそこでチャレンジを選択してない自分がいる。でも、もうちょっと仕掛けられる自分でいたいなって思うから、後半戦はなるべくチャンスではリスクではなく、仕掛ける方を選択していきたいです! とはいえ、チームが勝つことが一番だから、その時々で・・・()

—それを踏まえたうえでリーグ再開後、重要になってくるポイントは?
「チームの決まり事や細かいポジショニングを守りながらも、そのギリギリのところで個人的にはちょっとバランス崩していく必要もあるかなと思ってます。どうしても後期は対策を打ってこられるので・・・実際に中断前でも研究されているのは感じましたし、そうなったときにポジションや受け方の工夫をしないと運べなくなってくる。その辺も探っていきたいです。再開後も厳しい試合は続くと思います。ホームでもアウェイでも、ファン・サポーターの方からのパワーが、自分たちには十分届いてるのを感じいるので、それに応えるために全力で戦います!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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