【VENTUS PRESS】鮫島彩 後編

鮫島彩 選手——選手はサッカーから離れたときの幅広い行動力も注目されます。オフライフをどのように楽しんでいるのか、後編では鮫島選手のエネルギーあふれるオフの楽しみ方に迫ります。


Vol.27 文・写真=早草 紀子

「世界が広がるのが大好きだから、いろんな人と話したい」(鮫島彩)

—鮫島選手はオンオフにしっかりメリハリをつけますが、やはり海外経験の影響はありますか?
「昔からリフレッシュはしっかりする方でしたが、やっぱり海外の選手はオンオフがハッキリしてるからいろいろ・・・(笑)。日本ではオフでお酒飲むことすらちょっと“オン”に影響するんじゃないかとか。そういう考えのなかで過ごしてきたけど、フランスではタバコ吸ってる人もいましたし(苦笑)、それでも全然走れるんですよ。だから良いって訳じゃないですけど、日本では逆にそういうのを言い訳にしてたんですよね。「オフに〇〇をしてたからパフォーマンスがどうこう」って訳じゃなくて、ただ実力が足りてないから良いパフォーマンスにならないだけじゃないですか。もちろんオフの過ごし方も大切ですけど」

—フランスはその辺りは突き抜けてそうですもんね。
「ですね~。でもアメリカもなかなか・・・(笑) ナイトゲームだったときに、午前中に試合のあとのパーティーで着る服をみんなで買いに行ったことがあったんですよ。『サメ!買いに行くよ!』って言われて駅で集合して・・・もう私、ビックリしちゃって(笑)。当然のことながら、ドレスを買いに行ったあとに試合して、みんなちゃんとパフォーマンスできてる。 それまでは“これを真面目にやったから大丈夫だ”って、ただ安心したかっただけなんだと、気づかされました。もう概念が一気に崩れた感じ(笑)。若い時期にこういう“衝撃”に触れることができて良かったと思ってます」

—こういうこともアリなんだと思えることで、枠が取り払われますよね。でもそれだと日本に帰ってきて、また日本的な枠を感じることもあったのでは?
「どこかでまた日本流みたいな意識にはなってるとは思います。日本には日本の大事にすべき文化がありますからね。でも昔からリフレッシュはする方だったからオンオフのスイッチの切り替え能力は我ながらスバ抜けてるかな(笑)」

—それは間違いない。良い才能をお持ちで(笑)
「でもあまりにもオフを堪能しているので、最近イノ(井上綾香)に心配されるんです。このウィンターブレイクも、『サメさんホント走ってないでしょ』って自主練習で鬼の走り込みを一緒にやらされました(笑)。割とやるところはちゃんとやってるんだけどなって思いながら連れ出されました(笑)」

—“ちゃんとやってる”のはあらゆる角度からちゃんと伝わってますよ(笑)。よくSNSに食事をアップしてますけど、めちゃくちゃ品数もあって、栄養面も完璧じゃないですか。料理は昔から得意だったんですか?
「全然まだまだです! もともと海外含めてずっと移籍族だったり、マリーゼ(東京電力女子サッカー部マリーゼ)のときは寮だったので食事がついてたりで、自炊もそこまで力を入れていた訳ではなかったんです。ようやくINAC(神戸レオネッサ)で6年間落ち着いてたので、そこからガッツリやり始めたんですよね。あと関西のスーパーがめちゃくちゃ安くて最高だったのも大きかった。山も海もあるから、食材を買うのも楽しくて楽しくて」

—練習場の近くに酒蔵もたくさんありますしね。
「それ! 私ずっと行きたかったんですけど、まだ行ってないんですよ。何をやってたんだ・・・私、播磨の方のお酒も好きなんです。よく行くお店に地元のお酒を置いてて、東とはまた違うお酒が並ぶのが面白かった」

—日本酒好きな鮫島選手が酒蔵に行ってないとは痛恨のミスですね(笑)。日本酒にはいつから目覚めたんですか?
「最初に新潟の景虎を飲んだときに美味しさに衝撃を受けて、で関西に行って三重の而今(じこん)に出会って『めっちゃ美味しい!』ってなってハマりました。あとは黒龍の石田屋! これがまたすごいんですよ。オフ前しか飲めないからチョイスが失敗できないので、ツマミも含めて選択は大事ですね。まあ、お酒が好きというのもありますけど、何よりもみんなが集まるその“場”が好きなんです」

—激しく同意! 他に最近ハマってるものって?
「実はとうとうゴルフを始めました! 去年の春くらいからだから、まだまだなんですけど。アスリート仲間が、『社会に出て交流をするとき、必ずゴルフかお酒の話になる』と話してて、彼女はお酒が飲めないのでゴルフを始めたところ、話にもついていけるし、人脈も広がるというのを実感してるって言うんです。私、お酒はクリアしてるので、あとはゴルフを身に着けたら最強でしょ(笑)? 世界が広がるのが大好きだから、いろんな人と話したいんです」

—そこに着地するのが鮫島選手らしいところですね(笑) ゴルフは楽しくなってきました?
「やっと楽しくなってきた! 最初はゴルフボールに全然当たらないし、何より止まってるボールに動作を加えていくのにイライラしてて(笑)。私、ボーリングとか、反射のないスポーツがどうも苦手なんです。だから楽しい!って思えるまでが長かった。コースにも一応出てるんですけど、私のレベルに付き合ってくださる方たちとまわらせてもらってるから・・・『後ろ来てないならもう一回打っちゃいなよ』とかそういう感じのなかでやってます。ゴルフって繊細だし、風とか自然の影響受けるし、もう大変(笑)」

—ゴルフのきっかけになったのがアスリート仲間ということでしたが、アスリート同士でつながりをもったきっかけって何だったんですか?
「最初は2013年頃にケガのリハビリをJISS(国立スポーツ科学センター)でしてたんですけど、そこで出会ったんです。そのメンバーに支えてもらって、サッカー界で生きてるだけじゃなくて同じようなケガの悩みを抱えたアスリートとのつながりがあるだけで気持ちが救われることもあったから、やっぱりサッカー界だけでなく、外とのつながりって大事だなって思いました。トップアスリートの考えを聞くことで自分のマインドにもすごく影響がありました」

—大きな出会いでしたね。
「ホントに。もうすっかりなんでも話し合える仲で、いまでも元バドミントン選手の藤井瑞希ちゃんとかにはよく怒られます。サッカー界ってなんでも楽しんじゃうところあるじゃないですか。独特のノリがある。けっこうシリアスな場面でも笑いに持ってちゃったりする、ああいうのを、『笑いごとじゃないから』って昔からよく怒られるんです。でもね~これは無理、直せない(笑)」

—そういうところをちゃんと突いてくれるのもありがたいことですよね。
「ですね。こういう関係性も“つながり”がなければ生まれてない。もっとたくさんの人の話を聞きたいなって思うし、知らない世界を知ることはホントに面白い!」

—本当にアグレッシブ! いろんなスイッチがあって次はどんなことを始めるのか興味が尽きません。次にお話を聞くときは、また新たなネタをよろしくお願いします(笑)


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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