待ち望んでいたDFがようやく、再開後のWEリーグのピッチに立とうとしています。西澤日菜乃選手は今シーズン、マイナビ仙台レディースから移籍してきました。しかし、そんな西澤選手に思いもよらない出来事が起こったのは、VENTUSの新しいサッカーを築くための網走キャンプ初日でした。左膝前十字靭帯損傷——全治8ヶ月の大ケガでした。焦り、戸惑い、不安・・・多くのマイナス要素をはねのけ、わずか5ヶ月で復帰を果たした西澤選手が、これまでの葛藤、ここからの抱負を語ってくれました。
Vol.25 文・写真=早草 紀子
—今回の沖縄キャンプでは「初日をケガなく終えること。最終日に大宮にみんなと一緒に帰ること」というかなり丁寧なテーマを掲げていました。
西澤 はい(笑)。無事に帰ってきました。ケガをした時期が移籍して間もない、早い段階だったので、このキャンプでは周りの選手の特長や合わせ方がちょっとつかめてきました。
—キャンプでは実戦形式のメニューもありましたが、ゲーム勘は戻ってきましたか?
西澤 練習試合を35分2本やったんですが、ゲームの流れの感覚はまだ戻り切ってないです。でもゲームの作り方や、動かし方、味方につける感覚は以前とそれほど差はないですね。あとはゲームを重ねていければ改善されていくはずです。
—昨シーズン、西澤選手はVENTUSと戦う立場にありました。まだスタイルを模索していたVENTUSへの移籍を決断したのはなぜですか?
西澤 昨シーズン、大宮Vと対戦したときに、チームの雰囲気がすごく良さそうだったんです。全員の能力は上位チームほどではないかもしれませんが、カバーし合える部分もあると思いました。最初にマサさん(斎藤雅人 ヘッドコーチ、当時強化担当)からこういうサッカーをしたいんだという説明を受けたんですが、それがつなぐサッカーで、私に求められたのがビルドアップでした。自分の得意としているプレーが裏へのロングフィードやサイドチェンジだったので、一番大きかったのは自分のやりたいサッカーとフィットしたことです。
—その新しいサッカーの落とし込みのための網走キャンプでのケガだったんですよね。
西澤 しかも初日でした(苦笑)。相当落ち込みました。いままで大きいケガもしたことなかったし、そもそも離脱したことがなかったので・・・。やった瞬間は自分のなかでも「あ、いったな」って思ったんですけど、でも切れてないとうれしいなっていうモチベーションで病院に行きました。実際にはやっぱり切れてて・・・。自分がケガをしてこなかったからまだ受け入れられてなくて、実際に手術が決まってそれを待つ時間がきつかった。この先がどうなるか全く想像もつかなかったので不安でした。
—どうやって切り替えたんですか?
西澤 切り替えたというか、周りの人からアドバイスをもらったりしたことで、どれくらいで復帰できるのかっていうのがわかってきて、だんだん自分のなかでビジョンが見えて、ここまでには復帰しようっていう目標ができた。もう手術は決まってるし、落ちこんでる意味はないなって思いました。リハビリするしか道はなかったですしね。
—当初は全治8ヶ月と言われてました。
西澤 実際はリハビリが順調に進んで、約5ヶ月での復帰となりました。もっと早く復帰したかったんですが、当然リスクもありますし、いろいろ考えて後期には間に合わせるって思ってたので、その通りの回復具合にはなりました。
—リハビリ中はストレスも溜まると思いますが、どんなリフレッシュをしていたんですか?
西澤 私温泉が好きなんです。というより、スーパー銭湯といった方がいいかも(笑)。志木に「お風呂の王様」っていうスーパー銭湯があるんですが、いまでもよく行ってます。ここはおススメですよ! 気になるところを発見すると、雰囲気とかお風呂の数とか見に行きますね。昔から好きで、一人で行ったりしますね。
—ケガと向き合う一年ではありましたが、VENTUSに来て一番気分が上がった出来事はなんですか? というか、西澤選手は冷静な印象があるのですが、はっちゃけることありますか?
西澤 ありますよ(笑)! でも気分が上がるというか、楽しい! と思ったのは、全体練習が終わったあとに、シノさん(大野忍 コーチ)と1対1の練習をしてるんですが、その時間ですかね。ボールキープの身体の使い方が自分の中で初めてっていうか、自分のなかになかったものだったので楽しいです。特に腕の使い方・・・もともと自分のなかでも意識はしてたんですけど、そのなかでの力の入れ方がわかった。シノさんのなかでどうされたら嫌だっていう守備を学べるんです。
—前半戦は外からVENTUSの戦いを見て、どう感じてましたか?
西澤 ゲームの流れとか、どういう流れになったら失いやすいかは、上から見てるとわかりやすくて、VENTUSに足りないものが見えてくるんです。ゲームの流れがいいときは距離感も保てて連係もいい。でも何かの瞬間にそれが切れるんですけど、それの戻し方のイメージはずっとしてました。
—それ、戻し方あるんですか!?
西澤 戻し方というか、そこはやって行ってみるしかないんですけど(苦笑)。このチーム自体、全員が声を出して鼓舞して、プレーを求めるっていうのは実は少ないと感じたんです。チームが良くなくなったとき、声が完全になくなる。そこは自分が足せると思います。
—意外です。声は出てると思ってました。
西澤 もちろん、ちょっとした声はあるんです。でもゲームのなかでの要求の声は一定の選手しか出してない。それがすごく・・・悪い状況になればなるほど声は少なくなるのが気になってます。
—確かに、最終ラインはかなり声が出て賑やかですが、前に行くほど静かな印象はありますね。そこ引き出していけそうですか?
西澤 はい、がんばります! そこの壁を超えると変わると思うので。
—WEリーグが再開して出場機会も増えてくると思いますが、個人的にブラッシュアップが必要だと感じる部分は?
西澤 現状、守備での球際や、背後への対応はまだ感覚の誤差があって、自分のイメージと合ってないことがあるので、そこは埋めていかないといけないです。でも沖縄キャンプでサイドバックのお姉さん方とよく話すようになって(笑)、ゲームの作り方の細かいところを話せてきてるのでそれをどこまで突き詰めていけるかがカギになってくると思います。
—NACK5スタジアム大宮でのプレーがやっと見られますね。
西澤 そうなれるようにがんばります! NACK5スタジアム大宮ってすごくピッチと観客席が近いじゃないですか。見に来てるくれる人たちと一体になれる感覚があるのはこのスタジアムならではですよね。ピッチも素晴らしいし。そこで、自分の武器にしたいビルドアップを見せられるようにしたいです。逆サイドへのロングフィード、前線に速い選手もいるのでそこへ一発裏替えパスを出します! あとは、トレーニングマッチではセットプレーから得点を決めているので、そこも高めていきたいです。
—それ! ぜひとも得点が欲しいです。セットプレーで得点できるとかなり戦いやすくなりますよね。
西澤 間違いない(笑)! 前期見ていたなかでもセットプレーのチャンスはけっこうあったので、そこは決めたいですよね。本当にキッカーもいいし。自分としては滞空時間のあるボールを狙っていきたいです。
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。