【VENTUS PRESS】坂井優紀 前編

ベテランでありながら、若手のように吸収力を発揮する坂井優紀選手。彼女の周りにはいつも笑いが絶えません。けれど2シーズン目を戦うなか、チームのために自分は何ができるのか、葛藤する日々が続いたと言います。“新規チーム”という甘えが許されない3シーズン目。坂井選手が決意したこととは——?

Vol.36 文・写真=早草 紀子

「本当の意味でのコミュニケーションを深めないと成長できない」坂井優紀

—坂井選手にとって2シーズン目はどんなものでしたか?
坂井 個人的にもチーム的にもまだまだやれたはずだと思うシーズンでした。自分たちのミスでボールを失う率が高い。DFからつなげるときにも、いざ攻撃だ!ってときにパスがちょっとズレるとか、お互いに思ったことがちょっと違ってしまう・・・そういうのが多かったと感じます。シノさん(大野忍前コーチ)から練習中に、「要求が少ない!自分はここに欲しかった、自分はこうしたかったっていうのが攻撃陣は特に少ないよ!」って言われてて・・・そういう積み重ねられなかったことが試合に出てしまいました。

—逆を返せば、コミュニケーションをしっかり取ることができれば改善できるということですか?
坂井 そう思います。しっかり話ができていれば埋まっていくズレは多々ありましたね。自分もだけど、キングさん(有吉佐織)やサメさん(鮫島彩)に任せっきりというか頼り過ぎてる。三菱重工浦和レッズレディースとの試合でも、キングさんから「もっとしゃべって!」と言われたんです。ハッとしました。全然言葉を発してないことに自覚がなかったんです・・・守備としては情報を上げ続けないといけないのに、です。

—初年度は強いリーダーシップが絶対的に必要でした。そこについていく習性がついてしまっているというか。声が限られた人からしか出ていないですよね。
坂井 そうなんです。ゴシ(五嶋京香)が入ると、リーダーシップが取れるから、結構声が出るんですけど、昨シーズンはケガで離脱してましたから。でもいないからって誰もやれないのはダメですよね。やっぱりキングさんたちに頼り過ぎてます。話しているようで実は話をしてない。本当の意味でのコミュニケーションを深めていかないと成長できないと感じてます。

—中堅以下の選手たちでその危機感について話をすることは?
坂井 どうでしょう?どう考えてるのかな?とは思いますけど。自分は87会(有吉、鮫島、上辻佑実)の一個下になるんです。87のみなさんはいろんなサッカーを経験してるし、もちろんみんながリスペクトするし、わからないことも教えてもらう・・・という中で自分は何ができるんだろう?ってよく考えるんですよ。キングさんにこの前聞いちゃいました。「自分はこのチームのために何ができますか?」って。もう立ち位置がわからなくて。そしたら「ユキちゃんはそのままでいてほしい。もちろん上の世代にも聞いてくるけど、わからないことをちゃんと下の世代にも聞いてくれてるから、そのままでいて」って。このスタンスは変えずに、自分自身が伝えていくこともしないといけないと思ってます。

—ゼロから積み上げるのは大変だけどそれがVENTUSの魅力でもあると言ってました。何をしても結果につながらないこともあるなかで、これがあるから難しくてもVENTUSというチームと向き合えるもの、というのはありますか?
坂井 まだハッキリと自信を持ってこれ!というのはないですけど、みんなそれぞれにいいところがたくさんあるんですよ。出ている選手も出ていない選手も。だからこそ、自分のいいところも出しつつ、でもまだまだ吸収しようって選手も多いから、それを上手くコミュニケーションを取っていくと、もっともっと力を出していけるんじゃないかなって思います。

—それは練習でも感じ取ることができますか?
坂井 はい。例えば源ちゃん(源間葉月)は左足のロングフィードっていう武器を持ってますけど、そこを突き詰めてる。プレー中にキングさんから「あそこ一発でこうできたよね」って言われると「あ~それできましたよね」って受け止めて吸収してそれを実践しようとするのが見える。そういう意識がメンバー外からスタメン枠へと覆せたと思うんです。しかも一緒にスタメンに入るようになったときなんて、「ここでせっかくウチら出れたんだから、ずっと出ていけるように頑張りましょうね!」って気持ちをぶつけてきてくれるんですよ。そういうのに接すると自分も頑張らないといけないなって思わせてもらってます。

—個人的にこのプレーはよかった!と思うのはどの場面ですか?
坂井 後半戦のEL埼玉戦の前日に、イノ(井上綾香)が「明日さ、斜めに走っていくからそこに左足でパス出して!」って言われたんですよ。で、そういうタイミングが来て、そこに出せたんですよね。シュートまでは行けなかったんですけど、思わずGood!ってやっちゃいました。「ヨシ!」っていう手応えというか。だから、もっといろんな人とそういう関係性を持っていくと、それだけバリエーションが増えますよね。

—ここでも大事なのはコミュニケーションですね。VENTUSでの2シーズンで坂井選手が一番成長したと思うのはどんなプレーですか?
坂井 成長ではないかもしれませんが、サッカーやってて楽しい!と改めて思えてます。この歳になってももっともっとうまくなりたいって思うことが増えました。左にサメさんがいて、右にキングさんとルカ(乗松瑠華)がいて、洸(長嶋洸)もいる。それぞれいいもの持ってて、それは自分にはないもの。こういう風にプレーしたいなって、自分の持ってるものプラスあれもこれもしてみたいと思える、そういう欲が出てきました。

—以前、欲を持つことが大事だとも言ってましたよね。今、どんな欲を持ってますか?
坂井 一番は、ギリギリまで相手の動きを見る力が欲しいです。キングさんは超ギリギリまで人を見れているじゃないですか、相手の表情まで見てる。それくらいの余裕を持ってポゼッションしていたい。今はまだちょっとプレッシャー感じると慌てちゃうから(苦笑)。こればっかりは自信のある領域、間合いを掴んでいかないといけないので、練習あるのみ!です。

—この2シーズンで土台を作って、いよいよ3シーズン目では目指す形を確立させたいVENTUSですが、その責務を任されたのが柳井里奈監督です。坂井選手は旧知の仲ですよね。
坂井 柳井監督は一つ下なんですけど、プレーしていた頃とはきっと違うじゃないですか。だからどんなサッカーをしようとするのか、しかもベテランよりも年下で、女性監督で、トップの指導は初めて。重圧はあると思います。自分たちも全く未知のことで、想像がつかないですけど、全力でチームのためにプレーできるようにしたいです。

—今季の目標は?
坂井 まずはコンスタントに試合に出ること。サブで終わりたくないですから。柳井監督は真っ新な状態からメンバーも組み直すはず。打点の高さは絶対的な自信がありますし、カバー力も出していきたい。そして何よりしっかりとコミュニケーションを取って、ピッチ上でも動きやすいようにしゃべり続けたいです!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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