【VENTUS PRESS】上辻佑実 前編

その視野の広さと類まれなキックのスキルを備えたボランチとして長くプレーしてきた上辻佑実選手。しかし、昨シーズンのゴールや好機の際に見せた上辻選手のゴール嗅覚はみなさんも目にしてきたと思います。どうやら今シーズンの彼女は少しポジションを上げ、昨季以上のゴールに絡むプレーを見せてくれそうです。

Vol.38 文・写真=早草 紀子

「“こっちのプレーで点を獲った方が面白い”ってプレーを選択する」上辻佑実

—3シーズン目を目前にして、ここまでの2シーズンを改めて振り返ってもらえますか?
上辻 私、あまりプレーできてないんですよね(苦笑)。最初はケガで出遅れましたが、あとは普通に出られていなかったので。でも、VENTUSに来て“伝える”ことをしないとって思った、そのことは同じポジションの選手たち・・・特に源ちゃん(源間葉月)、マホ(村上真帆)には(笑)結構伝えられたんじゃないかと思ってます。

—ここまでの間に阪口夢穂さんがプロサッカー選手という肩書を返上しました。87会のメンバーが初めてそろったのは初年度の第18節アウェイのサンフレッチェ広島レジーナ戦。途中交代で阪口さんが出場したときでした。
上辻 姿が見えたときは、もう「待ってました!」って感じでした。長くケガでプレーできていなかったので嬉しかったです。ただ、彼女が入ってきたときはビハインドがあって、しかも残り10分。あまりにも短すぎて、もう少し時間があればもっと何かできたのにって思いました。

—ホーム最終戦では同じような展開で阪口さんがアシストしたボールで1点を返したときにスタジアムが沸きました。あれはすごかったと本人も語ってました。
上辻 まるで勝ったような感じでしたよね(笑)。ああいうボールを出せる人なんですよ。知らないうちにスパイク脱いでましたけど(笑)。

—チームも2シーズンを戦って、いろいろ成長もあったと思います。
上辻 守備の部分で結構我慢強くなったというか、みんなが身体張って守って失点0に抑える試合が1年目よりも増えた分、6位につながってるんじゃないかなって思います。でも攻撃ではもっと点を獲らないと上には行けないんじゃないかなとも感じました。0点で抑えても0得点で終わる試合もあったので。

—ここまでのWEリーグで印象に残ってる試合はありますか?
上辻 個人的には昨季、ホームで最初に戦った第10節サンフレッチェ広島レジーナ戦(〇5-0)です。それまでなかなか出れてなかったんですけど、いきなり出ることになって(笑)。開始4分でゴールを決めたんです。

—すごいトラップからのゴールでしたよね。
上辻 自分よりも周りのみんながすごく喜んでくれて・・・あの時はみんなに囲まれて身動きが取れませんでした(笑)

—あの雰囲気は最高でした。ゴールが増えるとああいう場面も必然的に増えますね。
上辻 そうなんです。昨季は立ち位置が決まってて、そこからどうするか、っていうところでした。立ち位置は相手もわかってることで、そこからどうやって相手を剥がしてゴールまで持っていくかのアイデア、組み立てが難しかった。

—今シーズン、さらに上を目指すために上辻選手はどう絡んで行けそうですか?
上辻 私、前気味のポジションになりそうでして・・・(笑)。昨季たまに前とかやって、ゴールに近いのもいいなって思ったんです。でも前をやったらやったで、後ろでパス出したいなって気持ちにもなる(笑)。前だと短いパスになるじゃないですか。ロングで出したいなって思うんですよね。でも、ゴールが近い位置になったら、良さそうじゃないですか? もっとチャンスがありそう!

—ゴール前に入ると、上辻選手は何かしてくれそうな気配を感じさせてくれますよね。思わぬところからボレーを打ってみたり・・・
上辻 やっぱりゴールに近いところでは、遊び心は欲しいですから(笑)。今シーズンは監督も変わって、まだそこまでイメージは出来てないというか。でも私はクロスからではないですよね(笑)。そのこぼれ、かな。今シーズンは(阪口)萌乃がいるので、いろいろ出来そうです。

—阪口選手は周りを生かすことも、自ら決めることも出来ますし。
上辻 自分がパス出すとき、結構丁寧に出すんですけど、ちょっと浮いちゃったりしても彼女はそれをコントロールしてくれるんです。思わず「上手いな」って言っちゃってます(笑)

—さきほど監督の話も出ましたが、柳井里奈監督はどんな監督ですか?
上辻 いよいよ年下の監督が・・・とか言われますが、私はそんなに意識はしてないです。あ、監督はしてるのかな(笑)。現役時代には対戦もしてるけど、チームも違うし、話す機会はありませんでしたが、年齢も近いですしね。明るいですよ。

—確かに。いつも笑い声がある気がします。
上辻 笑い取りにきます(笑)。まさに今日も、私の右にキング(有吉佐織)、左にサメちゃん(鮫島彩)がいてちょっとヘラヘラしてたんですよ。そしたら柳井監督が「そこ、罰金ね!」って。「いやいや、ここ(両サイド)二人でしょ!?」って言ったら、「連帯!」って(笑)。今まではワチャワチャやってるなって傍観してたんですけど、これからはそれじゃダメっぽいです(苦笑)

—意外と上辻選手は87メンバー内では、最後の最後のところでまとめ役になりますよね。
上辻 そうなんですよ!みんなあの二人がしっかりしてると思ってるんですけど、意外と私締め役だったりするんですよね。

—チームの雰囲気はいいんですね。
上辻 良いですよ!よく下の世代とも話をしますし。この前は(北川)愛莉と話したんですよ。愛莉のプレーも独特!すごく力が抜けてるというか。身体の形がいい意味で変ですよね(笑)。それについて話してたんです。何か聞かれたんですよね・・・なんだっけな?

—そこ、一番大事なところですね。「ずっと顔をあげていられるのはなぜですか?」とか?
上辻 
違います。

—「視野が広いのはなぜですか?」
上辻 違ったな・・・

―「スペースを見つけれるのはなぜですか?」
上辻 違う。でもなんか・・・とても褒めてもらって嬉しくなってきた!

―そういうことじゃないです(笑)
上辻 「なんでそんなに落ち着いてるんですか?」だ!普段の態度かと思ったらサッカーのことでした(笑)。「周りを見たり、自分の態勢をなるべく崩さないようにしてる」って、ちゃんと伝えました。

―コミュニケーションは本当に大事ですよね。特に今シーズンはVENTUSにとってもキーワードになりそうです。さて、いよいよカップ戦が始まります。今シーズンの目標を聞かせてください。
上辻 まずは試合に出る!そして点、獲ります!面白いプレー・・・「そこ行くんだ!」みたいな意外性のあるプレーをしたいです。こっちの方が面白いかなプレーを選択することもあるので、そういうプレーをファン・サポーターのみなさんにお見せできるようにがんばります!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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