【VENTUS PRESS】井上綾香 後編

昨季、井上綾香選手のゴールがすなわちVENTUSの勝利に結びつく試合が多くありました。だからこそ、勝利から遠ざかった終盤戦、彼女の肩には大きなプレッシャーも圧し掛かりました。今季は誰もがゴールを狙う貪欲さがある中、井上選手もエースとしての自覚とともに、プレッシャーを力に変えて、二桁ゴールを目指します!

Vol.44 文・写真=早草 紀子

「言葉で伝えられない分、背中でついて来い!ってプレーをしたい!」 井上綾香

5歳で始めたサッカーをここまで続けられた最大の理由とは?
こういうところが好き!というような感覚がないくらい、サッカーをやるのが当たり前でした。小さい頃なんてただひたすら楽しかった。自分は進路というか、サッカーをやるところがない!ってなったこともないんです。サッカーを辞めたいと思うことも・・・あ、2回目の膝をやったときは思ったんだった(苦笑)。1回目に靭帯を切って、1年も経たないで2回目を切ったから。しかも一回目の痛みも残っている中だったので、そのときはさすがにサッカーを辞めようかなって、初めて頭をよぎりました。

—進路に悩むことなく今に至る——恵まれた環境だったということですか?
そういうことでもないと思います。高校まで地元のチーム・・・鮫島彩選手の出身チームですけど(笑)、特別強豪というわけではなかったんですけど、ずっとそこでプレーすると思ってました。そもそも上のレベルを思い描いたこともなかったんです。でも初めてU-14女子代表に選出されたことで、恩師の監督とも「(代表に)選ばれ続けたいね」って言い合うほど大きな刺激があったというか、自分にとっては初めて経験する場所で、そこから“代表”は目標になりました。

U-14というと過酷なベトナムですね(笑)
そうそう(笑)。初めてがベトナム遠征。高倉(麻子)監督でした。大変だった!部屋にヤモリが出て、普通に窓とか開いてるからベッドとかにも入ってきちゃって・・・食事もあまり取れずにすごく痩せて帰国したのを覚えてます。そうだ!ここでルカ(乗松瑠華)と一緒だったんだ。

—中学で“代表”に触れても、ちがうチームでプレーしようとは思わなかったんですね。
なかったですね。そのチームでサッカーをするのが楽しかったんです。高校進学のタイミングでいろいろお話もいただきましたが、チームに残りました。大学進学の際にも残るつもりだったんですけど、恩師から「さすがにそれはダメ!外でプレーしろ」と半強制的に出されたんです(笑)その先が現マイナビ仙台レディースでした。

—スピードがご自身の武器だと気づいたのはいつですか?
ずっとFWというか攻撃を担ってきたんですけど、それほど高いレベルではなかったからすべてスピード勝負が出来ていたので本当に深く考えてはいませんでした。やっぱり代表に行くようになってから、そう言われることが増えたので、それで(笑)。

—“代表”はいろいろ気付きをもらえる場所でもありますから。
しばらく呼ばれなくなったときに度重なるケガもあったし、“なでしこジャパン”はもう諦めてたんですけど、昨季久しぶりに招集されたじゃないですか。代表って純粋にサッカーのことだけを考える空間で、あそこはやっぱり楽しいですよ。シーズン中は対戦相手だった選手とチームメイトになる。一緒にプレーすることで、「こんなところにパス出せるんだ」「こんなところも見えてるんだ」って、レベルの高さを実感できるんです。

—代表キャンプを経験して得たものは?
E-1選手権しか経験してないので得られたものは限られると思いますが、アジアに対してめちゃくちゃ出来ないってことはなかったです。かといってめちゃくちゃできた!とも言えないんですけど(苦笑)。球際は日本国内よりも激しいし、よく言われるアジア特有のやりづらさのようなものも多少は感じました。

—ひょっとしたらWEリーグの各チームの守備陣の方が粘度もあってやりづらいと言えるかもしれませんね。
それはあるかも。特に今季はチーム自体が上手くサッカーを組み立てられていても勝てないというのが絶対に出てくると思うんです。そうなったときにどうするか・・・自分は話が出来るタイプではないから、背中で「ついてこい!」ってもっと見せられるようにしないとダメだなって感じてます。

VENTUSに来てから成長を感じるところは?
得点数!仙台のときはそこまで取ってなくて最高で「6」とかだった。昨季、チームがなかなか勝てなくて苦しくなったタイミングで、自分も点が取れなくなった。あそこで1点でも2点でも取れたらちがったと思うんです。足を振るのを止めることがあったって話したと思うんですけど、そこを振り抜くことは練習中から意識するようにしてます。柳井里奈監督からは背後を狙い続けろってほぼ毎日言われ続けてます(笑)。個々のストロングを大事にする監督なので、自分が相手の背後を取ることは自分の特長でもあるし、背後を狙い続けることで味方にスペースが生まれる。そこはチームの調子が悪くても自分がやっていかないといけないところだと思ってます。

—そういう意味ではノジマステラ神奈川相模原との開幕戦は前半ほとんど何も出来ない苦しい展開でした。それでも勝利に結びつける勝負強さも見せてくれました。
柳井監督になって、紅白戦とかも含めてあんなにうまくいかないの初めてってくらいだったから、あれは結構どん底です。それを全員が理解してるから、逆にあれ以下にはならないだろうってどこかで思ってます。最後はもうパワープレーしか残されていませんでしたが、船木(里奈)が最後ツメて決めてくれて本当によかったです。

—井上選手が今季、新たに目論んでいるゴールの形はありますか?
クロスからの点をあまり取ったことがなくて・・・。サイド突破できる船木、(大島)ハルナ、(仲田)歩夢たちがいて、クロス練習もしっかりしているんですが、タイミングが合わないことが多々ある。その分相手も「ここ(井上)はこないだろうな」って、自分は穴だと思われているだろうから、あえてそこを突きたい。もえさん(阪口萌乃)とかキッカーもさらに増えて、ヘディングが強い選手も多いので、決まらないわけないはずなんです(笑)。セットプレーで決めきれるとチームは楽だと思うんですよね。そこを含めて自分的には目標は2桁ゴールです!

—カップ戦。NACK5スタジアムで井上選手が決めてゴール裏で盛り上がってる姿、やっと見られました。
それはもう・・・めちゃくちゃ気持ちよかった(笑)!今シーズンはみんな本当にアグレッシブに戦ってるのを感じます。厳しい試合もあると思いますが、観ていて楽しい!って思ってもらえるサッカーになってきてるので、ぜひNACK5スタジアム大宮で一緒に盛り上がりましょう!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

FOLLOW US