VENTUSを支える縁の下の力持ち 和田哲治ヘッドオブコンディショニング

選手がピッチでベストなパフォーマンスをするために必要なものの一つが“コーディネーション”。反応、変換、バランス、識別・・・あらゆる感覚を持つ身体を自分で操ることを求められます。VENTUSの選手たちのコーディネーションを支えているのが、ヘッドオブコンディショニングの和田哲治トレーナーです。今回はNTT関東時代から2022シーズンまで大宮アルディージャTOPチームのトレーナーとして活動していた和田トレーナー的視点から今季のVENTUSの変化を探っていきます。

文・写真=早草 紀子

—和田さんがトレーナ―を目指すきっかけとなったのは?
競技をしていたときにケガが多かったことから、治す立場に立ちたいと思いました。僕らの時代はトレーナーになろうと思う人も少なかったし、どうしたらなれるのかも知られていなくて、いろいろ模索しながら必要そうな国家資格を取ったりしていました。専門学校に通っているときに、今の会社の社長と知り合い、学校に行きながらサッカーやバレー、野球の現場を経験させてもらったことは大きかったですね。

30年以上現場に携わって、トレーナーに最も必要だと感じる要素は何ですか?
技術的なことはみんなそれぞれ強みがあると思うんですけど、人と接することが主なところになります。選手をより向上させるということももちろんですが、深刻な状況、ケガを持ってる選手もいるので、その人に合わせた臨機応変さを持たなければならない。僕の場合は、心が挫けたときに支えられるようにすることは大事にしています。それも今だから言えることで、若い頃にそれができていたかと言えば、そこまでのことはできてなかったと思います。

—やはり経験値が重要ですよね。理想の形に近づくにはかなりの時間を要したのでしょうか?
机上では勉強することは出来ますよね。それを現場にいかに落とし込むか。僕は今でも完璧にできているとは思ってません。向き合えるところまでいくのは、現場に顔を出せる環境がどれだけ揃っているかにかかっています。満足いくようなことってなかなかなくて、一つとして同じことがない。僕は11年リセットするようにしていて、そのたびにどうしていくのが一番いいのかを考える。そこで解決する術を臨機応変に見つけていくしかないんです。何年やっていても・・・同じ現象が起きて同じことをやっても解決できないことも多いし。いろんなことが見えてきたのってここ5,6年とかじゃないですかね。

—和田さんでも、ですか?その経験を積む上でモットーにしていることはありますか?
一番は、選手としっかりコミュニケーションを取ることですね。話してるのはくだらないことばっかりですよ(笑)。でもこっちが暗かったら、選手もオープンにならない、一歩踏み出せないじゃないですか。特にVENTUSには途中から来たから、そこに関しては「やってけるかな?」って正直思ってましたよ(苦笑)。VENTUSの中では僕は新参者ですから・・・今は明るく受け入れてもらってると思ってますけど(笑)

VENTUSの初年度にACL(膝前十字靱帯)関連の受傷が続き、残念ながらWEリーグ内でもかなり多い負傷者数になってしまいました。和田さんもリハビリに携わってましたよね。
リハビリに入った選手がなかなか復帰していかないということは聞いていて、阪口夢穂、田嶋みのり、久保真理子の3選手と一緒にやってました。男子とは骨格が違うし、骨盤の形も違えば、下肢の角度も違う。じゃあ女子選手全員ACL切ってしまうのかと言えばそうではない。だからそこだけが理由じゃないんです。理由も一つではないから完全な予防というのは難しい。ただ久保選手のステップを見たときにこんな足首の不安定さでステップ踏んでたらそりゃ膝やっちゃうでしょって思いました。なので、彼女の場合は足首、ふくらはぎをかなり強化したんです。ふくらはぎ、足首、片足でかかとを上げた状態で自分を支えられたり、ジャンプしてキャッチすることが出来ない選手がいたりもします。そこがピタッとおさまれば、膝への動揺性も少なくなります。

—では和田さんが個人ではなくVENTUSに対してまずテコ入れしたのはその部分ですか?
そうですね。まずはしっかり身体を温めるために、ウォーミングアップにステップをかなり取り入れるようにしました。膝周りや関節周りもいろんな方向へのステップ、ステップに対してもまっすぐではなくて斜めの重力がかかってる時の動きを作ってあげた方がいい。あえて角度をつけたステップを交えたりすることで筋力がつきます。筋トレで簡単につく筋力もあるんですけど、実際に動きながらの筋力づくりが大切。それをすることによって骨盤をくるっと返しながら逆のターンにすぐに入れたりする足さばきができれば、いざとなったときに正しいステップが踏めるんじゃないかなって思って、意識させながらアップメニューに入れてます。

—今シーズンはACL受傷者が出ていないというのはその辺りの成果が出ているのでしょうか?
動きながら鍛える、というのは難しいことで、これをやったからということではないんです。ただ、アップの中で強化トレーニングも入れています。ステップもそうですけど、チューブを使ったり、股関節をメインにしたり。週に2回は強化ポイントを決めて取り組んでます。自分の体重を支える筋肉をしっかり鍛えていけば、いざとなったときに耐えることができます。現段階では事故のようなアクシデント的なケガ以外は確実に減ってはいますね。

—クラブハウス周辺では和田さんがストイックに走り込んでいる姿をよく目にします。やはりご自身のメンテナンスも抜かりなく?
そうです(笑)やっぱり一緒に走るんだったらゆとりを持って走りたいじゃないですか。こんなオジさんが横で走っててゼーゼー言ってたらイタイでしょ(笑)。一緒に1000メートルとか走って、涼しい顔してやってのけられたら選手も「やらなきゃ!」って思うじゃないですか。そのために朝夕は走ってます。なかなか僕もいい歳になってますから動きを止めたら老いがやってきますから(笑)。

—年齢によっても回復差ってあると思いますが、男女ではどんな違いがあるんですか?
男子はハイパワーを持続的にやってる部分があるので筋肉系のケガ、腱の断裂が多い。女子は筋パワーの出力ではないから肉離れが実際には少ない。ただその筋肉が疲弊したときに回復する時間は、これは完全に感覚的な話になりますが、男子の方が疲弊している気がします。女子の方が強いのかな・・・女子は忍耐力もあるからちょっとくらい痛みを持っててもやり切ってしまう。これを耐性というのかもしれませんが。

—でもそれは、いい方にも悪い方にも転びますね。
そうなんです。だからしっかりと見極めないと大ケガにつながるリスクも潜んでいると思います。環境面でも男子はクラブハウスで交代浴をしたりできますが、女子はまだ改善していかないといけない部分も多い。男子ほど過密なスケジュールはないので週一でスケジュールを組めるのでなんとかできている部分もあります。でも・・・僕がエビデンス的に言ってはいけないのかもしれないんですが、一番の疲労予防は勝つことですよ、やっぱり(笑)。

—わかります。勝利の後は何時間でも運転して帰れそうなほど力が漲ってます(笑)
ですよね(笑)?男子がJ1昇格した際、アウェイの試合があったんです。昇格も決まったし、選手の入れ替えをするかという話になったんですけど、選手たちが「やりたい!」と。過去に連勝つづきだったときあったじゃないですか。あのときも選手たちは平然とプレーしてました。「疲労はあるけど、疲れるのは当然でしょ」って言葉が選手たちから出てくるチームは強いですよ。いい成績を収め続けることが、回復にも影響するんだなって感じましたよね。

—和田さんから見て、今シーズンのVENTUSはどう映っていますか?
フィジカル的な走り込みとかはやってないんです。大切なのはそこだけじゃない。キャンプからやってる、ボールを使いながらの全体的な動きは落ちないで行けるんじゃないかと思ってます。選手たちの取り組みがすごくいい。監督と選手もそうですけど、選手同士のコミュニケーション、これをするしないで全然違いますよね。あと、ふくらはぎの筋肉とか、最初見たときノペ~っとしてたのが、リフトアップされてきてるなって最近感じてます。それが直接パフォーマンスとイコールってことにはなりませんが、僕の仕事はしっかりと戦えるように持っていくこと。監督の選手起用の選択肢を広げることができなければチーム力に響きます。サッカーは総合力だと思うので、そこにしっかりと貢献できるようにしていきたいです。


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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