柳井里奈 監督 リーグ再開への抱負

2023-24 WEリーグ 前半戦7試合を終えたVENTUSは、3勝3敗1分の5位でウィンターブレイクに突入しました。新加入選手6名とともに修正と成長を重ねながら充実した沖縄キャンプも越え、いよいよ3月3日から5月25日まで一気に15試合を戦い抜く後半戦がスタートします。新生VENTUSが他クラブに知られていないカップ戦での好調から、リーグ戦は対策を打ってこられ苦戦する試合が続きましたが、沖縄キャンプでは全員で狙いを再確認し、十分に落とし込んできた様子。さらなるジャンプアップを目指す柳井里奈 監督に後期への意気込みを語ってもらいました。

文・写真=早草 紀子

——第7節までの戦いをどう受け止めていますか?
勝ち切れるゲームもありましたし、勝点をもう1、2ポイント取れてても良かったと思うところはありますが、良くもなく、悪くもない…1試合1試合を見ればもったいないと思う瞬間もありますし、ポジティブにとらえられる瞬間もありました。

——理想の展開はありましたか?
第3節のアウェイでのINAC神戸レオネッサ戦は、強い相手に対して粘り強く戦って、苦しい時間が多い中で先に点を奪うことができました。ノジマステラ神奈川相模原との開幕戦での大島暖菜や、第5節のマイナビ仙台レディース戦の船木里奈といった途中から流れを変えられる選手がしっかり仕事をして勝てたところはポジティブな要素ととらえています。

——逆に克服すべき展開としては?
前にもう少しシンプルに行かなければいけないジャッジの部分ですね。そこは“ボールを握る”という私の伝え方でズレが生じたかもしれないと感じています。ボールを握ることはゲームを握ることであって、パスをつなぐことが目的ではないんです。ゲームを握るためのトライは今も継続していますし、そのトライがあったからこそ、シンプルに行くべき判断をする、というところにまで来ていると思っています。大事なのはそのバランスです。

——そのあたりを整理する時間として6日間の沖縄キャンプ(2月12日~17日)がありました。
選手たちが積極的にトライしてくれたおかげで、他チームにVENTUSはボールを握りたいんだという印象は与えていると思います。それに対してプレスをかけられたときに、それをどう外していくか、やり方は一つではないので、その優先順位について少しずつ落とし込んでいけたキャンプでした。目指したいものはVENTUSのカラーが出るサッカーです。ボールをつないでいることで苦しくなるのであれば、狭いことがわかっていてつなぐ必要はない。裏が空いているならロングパスで“つないで”いくことも展開としては必要です。VENTUSがどんな長いボールを使っていようが何しようが、明らかにVENTUSがゲームを握っているということが大事。後手を踏まず、ゴールを取るために何をどう作っていくのか、この部分での判断力を後期では少しずつでも見せていけたらと考えています。

——沖縄キャンプには6名の新加入選手も本格的に参戦しました。馴染み具合は?
ウチは既存の選手たちのパーソナリティがすばらしいですから、ピッチ上でもしっかりコミュニケーションが取れていました。新加入選手も自分の意見を伝えてましたし、馴染み具合で行けば心配はしていません。何人かは後期のゲームに絡んでくるでしょう。特にアタッカーは今、大島がU-20女子アジア杯のためにチームを離れているのでチャンスです。

——ぜひ掴み取って、良い競争を生んでほしいですね。監督的、後半戦の見どころは?
ここを見て!というのではなく、今選手たちは日々成長をしているのでその過程を見ていただきたいです。もちろんトップカテゴリーを指揮する上で勝つことにもウェイトを置かなければならないですが、一人の指導者としては、やはり選手を上達させるという一面も捨てたくはありません。そのバランスにいつも葛藤していますし、そのバランスが難しいですね。

——タイトな15試合となる後半戦ですが、柳井監督が貫きたいものは?
VENTUSのカラーをより強く出すこと。カップ戦では警戒されていなかったこともあり、勢いを持ってプレーできました。もちろんそれがうまく行きすぎたということを理解した上で、その良さは捨てたくない。前半戦が苦しかったからVENTUSはあのサッカーを捨てたとは思われたくないし、私たちは捨てません。その良さをさらに輝かせるために違う方法を身に着けてきましたというのを見せる。あらゆる方法の中でVENTUSの一番いいバランスを見つけたいと思ってます。

——そうした監督や選手の意図がしっかりと伝わってくるピッチであってほしいです。スタンドとピッチが一緒に考察できるというのは、女子サッカーのいい塩梅、よきスピード感だと思います。
本当にそう思いますね。いろいろな考えをその場で見ている人も感じ取ることができるのは女子ならでは、だと思います。だからこそ、“育てる”というところは大事にしたい。自分はまだ監督としての指針のようなものはないと思っていましたが、きっとここにありますね。監督という立場になってあらためて指導者の意識というものの大切さを感じます。

——“監督”と“指導者”のバランス—、今すべてに共通しているのは“バランス”ですね。
15試合を戦う上で、自分自身の信念でやっぱり選手をうまくしたい。それはベテラン選手にも当てはまります。その時々の年代での成長があります。それがパチっと合う時がくる。バチン!かパチパチかわかりませんが、それを見逃さないようにしたいですね。今日なんかパチっと来た、小さなボタンが一つかかったんだよねっていうのを感じ取れるからこそ次のボタンに進めると思うので。沖縄キャンプではそういう場面を見ることができたので勇気を持って後半戦に挑めると思っています。



早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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