Vol.016 早草 紀子「鮫島彩の大胆な仕掛けから目が離せない」【ファインダーの向こうに】

クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。今回は長年、女子サッカーを取材し続けている早草紀子さんが、新生・大宮アルディージャVENTUSと鮫島彩選手を紹介してくれました。



Vol.016 早草 紀子
鮫島彩の大胆な仕掛けから目が離せない


いよいよ大宮アルディージャVENTUSの船出だ。今秋に開幕する日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)参入が決まってから約4カ月。2月6日に大宮Vの新体制が発表された。佐々木則夫総監督、岡本武行監督、そして、コーチには大きな潮目を作ってくれそうな元なでしこジャパンの大野忍氏を招聘し、伸びしろしかない25名の選手たちとともに大宮Vを形作る。

WEリーグ発足に一肌脱いだ形の佐々木氏が関わる女子チームとあって注目されていたが、最も衝撃的なニュースとして取り上げられたのはINAC神戸レオネッサからの鮫島彩の加入ではなかったか。現在のなでしこジャパンの中心選手でもある鮫島の移籍にザワつくのも無理はない。

鮫島は2011年、日本中を沸かせたFIFA女子ワールドカップ優勝時のメンバーであり、代表監督だった佐々木氏が彼女を引き上げたと言っても過言ではない。おそらく“則さん節”で口説き落としたのだろうと思っていたが、移籍決断に至る経緯を聞き、感服した。オファーを受けた際に、彼女の方から環境面から立ち上げの経緯まで詳しく聞き出し、さらにはフロントスタッフや広報活動などまで、クラブに関わることを「知りたい」と興味を示したのだ。いや、興味という言葉では表現が生易し過ぎる。完全にそこに入って行動する覚悟を持っていたのだ。こんな選手はなかなかいない。

私が最初に彼女を撮影したのは10代のころ。当然のことながらまだ若く、率先して責任ある発言をするタイプには見えなかった。そのころからは想像がつかない着地点だ。東日本大震災やワールドカップ制覇、初の海外移籍、ロンドン・オリンピック――。月日が、経験が、彼女を強く大きくした。その全てを持って、新しく立ち上げる大宮Vという未知なる可能性に懸けようとしている。

記者会見では、時に鋭い視線で確固たる意志を伝え、時にユーモアを交えながら笑いを誘う。さらにガッチガチに緊張する若手選手にも合いの手を入れて和ませる。その一連のふるまいに、ベテランの神髄を見た気がした。さすが百戦錬磨! 隣の席で一緒にチャチャを入れていた同期の阪口夢穂の存在も大きい。軽口を挟みながらも鮫島を立て、さりげなくコメントを助ける様も絶妙。これも苦楽をともにしてきた同期だからこその信頼と実績のなせる業だ。ちなみにバラしてしまうと……会見が終了した途端、堂々としていたベテランたちも「やりきったー!」と緊張を一気に緩めていた。

WEリーグは女性活躍を理念においている。壮大なテーマだけに、実際にはどこから手を付けるべきか悩ましい難題なのだが、そこが鮫島にとっては最大の興味ごとらしい。「これから選手たちと話し合って、企画をチームに持っていこうと思ってるんです」とニッコリ。ちょこっと話を聞いただけでも本気で、様々なアイデアを持っていた。おそらくここから選手たち自身で考え抜いた企画が次々と実現していくはずだ。

リーグ開幕は秋だが、4月にはプレシーズンマッチも予定されている。大宮アルディージャに新たに芽生えた蕾(つぼみ)たちが、どんなことを仕掛けてくるのか、ぜひ皆さんお楽しみに!



早草 紀子 (はやくさ のりこ)

兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。

FOLLOW US