【VENTUS PRESS】山崎円美 後編

THEポジティブなイメージの山崎円美 選手ですが、昨シーズンから大きな壁にぶつかっていたのだとか。VENTUSの一員として感じること、自分の役割など自問自答の日々から導き出した答え——ストイックな山崎選手の繊細さと逞しさが伺える後編をお届けします。


Vol.29 文・写真=早草 紀子

「どんな立場からでもチームの結果を変えられる、そんな選手になりたい」(山崎円美)

—WEリーグ元年は山崎選手にとってどんなシーズンでしたか?
山崎
 ホントにいろんなことを考えたシーズンでした。ピッチ上では自分のプレーに集中してるけど、他の人が何を考えてるか、いままでにはない考え方をたくさんしました。メンタル面とか、自分を含めて客観的に見るようにしていましたね。

—それは新規チームだからということは影響してますか?
山崎
 いま考えるとそれはあったと思います。自分自身、立ち上げのチームというのは初めてで…“移籍”だと、これまであるチームのスタイルに自分を合わせればいいけど、そこを一から作っていかないといけなかったから。そういうのを踏まえた上でも全然納得の行くプレーはできず、相当悔しいシーズンになってしまいました。自分の持ち味が出せるポジションではないところでも、なんとか良さを出そうといろいろ考えを巡らせて1周どころか、何周回っても何をどうがんばればいいのかわからなくなってしまってました。

—迷走・・・
山崎
 まさにそれ(笑)。とことん落ちました。ものすごく気持ちが落ちてました。どのくらい落ちたかって・・・この自分が! オフがうれしいと感じてしまうぐらいの落ちっぷりで、自分が自分じゃないような感覚でした。手を抜いたり、目の前の事に向き合わないことって簡単だけど、すごくしんどくて、何よりこのままじゃつまらないってことはわかるんだけど、頑張り方がわからないという大きな壁でした。

—キツイですね。それで何もしないっていうのは確かに山崎選手っぽくはないというのもわかります。
山崎
 そうなんですよね。この歳になって、“頑張る”の種類もたくさんあるんだなぁと感じて、新たな経験に感謝できるくらいには浮上しました(笑)。ここで立ち止まってるうちに、あっという間にシーズンは終わってしまう。こんなにももったいない時間はないので、自分を大切にしながらも、自分に負けず、自分をしっかりピッチの上で表現できるようにしようと覚悟を決めました。誰かと比べるのでは無く、他に無い自分の良さをチームの力にできるように気持ちを切り替えられました。「敵は自分」っていう言葉がいまの自分にはピッタリだと思います。

—そういうメンタルに切り替わって、新たにどんなプレーが出てきそうですか?
山崎
 まだ浮上したばかりなので模索中ですけど、誰とでも合わせたい気持ちは変わりません。でもいまちょっと面白いなって思う人、いますね。エリ(北川愛莉)です。まだVENTUSで自分の色は出せてないと思うんですけど、いま一番近い距離でプレーしてるからか、なんか感じ取れるんです。

—北川選手はFW登録ですよね?
山崎
 本人も、持ち味は得点能力だっていうと思いますよ。点もめっちゃ決めるし。でもシュートだけでなく、いろんなシチュエーションの視野を持ってますね、彼女は。だからやりやすい。

—いつも山崎選手が求めている、“チームを勢いづけるプレー”につながりそうですね。
山崎
 そうなるようにしたい! 自分的に前線からの守備が好きなんです。一口に前からのプレスって言っても、人それぞれ。そこがエリとハマるんです。

—まだ北川選手も合流したばかりなので、今後コンビネーションを高められれば、NACK5スタジアム大宮が沸きますよ。
山崎
 ですよね! NACKは本当にいいですよね。途中出場のとき、スタンドがどよめいたり、盛り上がったりするの、すごく感じます。ファン感も楽しかった! VENTUSの選手たちが誰よりも楽しんでたかもしれない(笑)。感染症対策も緩和されますし、もっといろいろやりたいですよね。以前もサイン会とか試合後にスクールとかやったこともありましたが、いまやるとまた違った反応があるような気がするんです。実際には試合後のスクールはキツイんですけど(苦笑)、それが「あのとき一緒にボールを蹴ったあとサッカーを始めたんです」っていう流れにつながることはあるので…やり方はいくらでもあると思います。

—そのためにもまずはスタジアムに足を運んでもらうこと、ですね。どんなときも熱い山崎選手ですが、そのなかでもさらに熱が入る一戦はありますか?
山崎
 昨シーズンの初戦でINAC神戸レオネッサに大敗(●5-0)したじゃないですか。あれはVENTUSに来てから一番悔しい試合だったんです。その後、後期は自分自身があまりチームに貢献できていなかったので…このままだとI神戸戦は一生悔しい試合になってしまいます。

—4月にホームで対戦がありますよ。
山崎 そこですね(笑)。そこまでにしっかり巻き返して、ゴール決めたら最高に気持ちいいだろうな。スタジアム、沸くでしょうね。

—沸きますね、確実に。
山崎
 サイドで勝負したい気持ちはありますが、トップにはトップの役割があって、それは理解しているつもりです。ボールを収める、ターゲットになることを意識してるなかで周りと合わせる楽しさも感じてきています。自分の良さが出せてる出せてないじゃなくて、どんな形でも欲しいのはゴール! それともう一つの自分の役割として、たくさんの人とコミュニケーションをとってそれをピッチに落とし込めるようにしたいです。自分が落ちるところまで落ちたからこそ、わかる部分もある。全員の良さが集結した時に、より強いチームになれると思うから。自分の良さをどうチームのプラスアルファにできるか。このチームのために今の自分にできることを全力でやるつもりです。どんな立場からでもチームの結果を変えられる、スタジアムの雰囲気こそを変えてしまえる、チームメイトのパワーになれる、共に闘ってくださるファン、サポーターの皆さまのワクワクの源になれる、そんな選手になりたいんです。

—完全にマインドが切り替わってますね(笑)山崎選手らしいです。
山崎
 ここで公言したからにはやるしかないっス(笑)。やったります! 奮闘している姿を、ぜひスタジアムまで観に来てください。



早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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