【VENTUS PRESS】村上真帆 前編

倒されそうで倒されない。抜かれたかと思うプレーのその後も、まだ粘り強く食らいついている——そんな村上真帆 選手のプレーを何度目にしたことでしょうか。主戦場であるボランチに加え、未経験のサイドハーフにも挑戦し、プレーの幅を広げています。文武両道で走ってきた彼女が身に着けた成長の方程式は意外にもシンプルなものでした。

Vol.30 文・写真=早草 紀子

「いままでやってこなかったドリブルでの仕掛けにチャレンジ中です」(村上真帆)

—いま、左右両足で蹴ってますけど、もともとは右利きですよね?
村上
 右利きだったんですけど、中学くらいかな・・・左右差があるのが嫌で、キックの練習をいっぱいしました。変なこだわりがあって(笑)。それで左右のキックの動画を撮ってどこがおかしいかを見たりしながら練習してたら、左右同等を狙ってたんですけど利き足を超えました(笑)

—そんなことあるんですね。コツコツ派なんですか?
村上
 基本的に地味なことは好きじゃないんですけど、自分が楽しいと思えればやれます。キックは楽しかったんでしょうね。何かを習得することに年齢は関係ないんじゃないですかね。小学校のときは筋力が全然なくて右足も飛ばなかったけど、中学2年には左足で蹴れるようになってました。高校のときのチームメイトもキックが苦手だったんですけど、毎日一緒に練習してたらめっちゃ飛ぶようになったんです。まずは量をこなして、そこから質を上げていけば身につきますよ。

—経験談が一番説得力ありますね。そうやって一つひとつコツコツやってるとスランプとかは陥らなかったんですか?
村上
 中学のとき、すっごい大大大スランプがありました。もうトラップすらできなかった。全部自分の思ってたところと違うところに飛んでいくんですよ。もうどうしようもなくて・・・抜けるためにとにかくボールに触りました。そのときは本当につまらなくて、でもその期間をなるべく短く終わらせたいって思ってたくさん触ってました。

—スランプの渦中にいてその俯瞰で見れる感性があるとは。苦しいことは短く! そのためには地道な道が一番早いと。
村上
 基本的に楽しいことしかしたくなくて、自由に生きてきたから・・・同じツラいことをするんだったらどう楽しくできるか、ポジティブにやれるかは昔から考えてやってました。

—勤勉さを持ち合わせたポジティブ思考ってなかなかいないですよ。
村上
 カッコいいですね、その言い方!

—お気に召したなら使ってください(笑)。そういうメンタルは、WEリーグが始まって発動することはあったんですか?
村上
 しましたよ! 小中高大と、最年少学年のときからずっとスタメンとして出させてもらってきたので、試合に出れない時期があまりなかったんです。このチームに入ってからは真逆で・・・スタメンの11人としてピッチに立ってないっていうことは、そこまでの戦力になれてないってことだから、前向きな状態ではいられないこともありました。でも、自分にとってその立ち位置すら、成長の過程として捉えていこうと思って・・・。自分よりも実力がある選手がいっぱいいるっていうことだから、その選手から学べることはたくさんあるし、そこと自分自身の誰にも負けない長所を生かしていいくっていうのを掛け合わせてやってきているつもりではいます。

—今シーズンは中盤とサイドハーフ、起用の時間帯によってもいろんな役割を担っています。
村上
 昨シーズンは4-4-2のボランチだったので、チャレンジする部分とセーフティにやる部分っていうのを持ち合わせながらやってたんですけど、今シーズンは攻撃のときは特に4-1-4-1の1ボランチをやることもある。そこはDFラインに近いのでバランスが大事なのでよりポジショニングや相手との駆け引きの部分で自分が今このプレーをしたらそれは成功するか、失敗するかの5分5分の状態なのかをよく見極めてプレーする感じ。チャレンジするところとバランスを取るところの判断基準というか判断レベルを上げないといけないことが多いです。

—サイドに入ったときに気を付けていることは?
村上
 昨シーズンの終わりからちょっとやってたんですけど、サイドはこれまでやってこなかったので、本当に探り探りのシーズンでした。サイドハーフの選手、チームメイトもJリーグとか他のサイドハーフの人のプレーも見て、こうしたら相手はもっと嫌がるなとか、こういうことすればチャンスだなってサイドハーフ視点で見ることが多くなりました。

—ご自身の中で変化は現れましたか?
村上
 私はそんなに足が速いタイプではないので、スピードでタテ突破してとかはできないんですけど、逆にその分クロスのタイミングとか、スピードを変えたりする工夫はできる。インテリオールの選手とかFWの選手とつながって連係を取りながらやっていくのを意識したので、全体的にできることが増えたかなと思います。

—理想の動きとして参考にした選手は?
村上
 日本代表の遠藤航選手です。バランスを取りつつ守備で強く行けて、攻撃で起点になるパスのタイミング、ビルドアップのポジショニング、このタイミングでサポートに行く、ここはあまりスピード上げ過ぎないとか・・・

—あふれ出すように次々と出てきますね(笑)
村上
 本当にすごい! まだまだ程遠いですけど、伸びしろだと信じて、あんな選手になりたいです。

—模索していた昨シーズンと比べて少し気持ちに余裕ができているように見えますが、そうなってくると、ああしたいこうしたいという欲も出てくるんじゃないですか?
村上
 心、読まれてます(笑)? まさにそれです。いままで真ん中では必要がなかったので、ドリブルで仕掛けることをほぼしてこなかったんです。サイドハーフはかわし切れなくても一枚ちょっと外せればクロスを上げられるんですけど、仕掛けるっていうのは私にとって難易度が高かった。いまは練習試合や練習中は高い位置でチャンスだと思ったら仕掛けてみてます。・・・あんまり成功することはないんですけど(苦笑)。そこから『間合いが狭かったな』とか、『ちょっとかわす幅が狭かったな』とか原因が見えてくるのでそれをいまチャレンジし始めてるところです。

—それも参考にしている選手がいたりします?
村上
 イメージは中村俊輔さんです。中村さんも走るのそこまで速くないですけど、あれだけサイドで活躍できたってことは相手との駆け引きのところで相手よりも一個二個先のことを考えてるからですよね。目の前の人じゃなくてその先にいる味方についてる相手を剥がすための駆け引きをしてる・・・

—いま名前が出た二人を掛け合わせたら、すごい選手が仕上がりますね。
村上
 最強ですよ(笑)

—最強の村上選手が仕上がるのを待ってます! WEリーグもここから終盤に差し掛かってきます。4位以下は勝点差が少ないので連勝できれば大きく順位も変わってきます。どんなプレーで勝利を呼び込んでくれますか?
村上
 以前は、「ゴールに結びつくプレーをしたい」と答えたと思うんですけど、そこは変わらずやっていきたいです。自分はシュートも強みの一つであるんで、結構インパクトあるシュートは打てる方だと思ってるのでゴールは常に意識してシュートを狙っていきたいです!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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