【VENTUS PRESS】船木里奈 後編

ここまで6節を終えて2ゴールを挙げている船木里奈選手。シーズン前に目標に掲げていたのは“一旦”5ゴールでした。ビルドアップがさらに活性化すれば、前期の終盤にはさらなるゴール数を期待できそう。時折、魅せてくれる船木選手のトリッキーなプレーに思わず感嘆の声を上げた人も多いのではないでしょうか。後編は船木選手のサッカー観を語ってもらいましょう。


Vol.46 文・写真=早草 紀子

「人と違うことをしたい、“面白い”が好きなんです」 船木里奈

—幼少期はサッカー以外にも何かスポーツをしていたんですか
体操をしていました。男子は体操、女子は新体操をやってるところだったんですが、アクロバティックなことが好きで、柔らかい動きが苦手なうえに、化粧とかスカートとかがイヤだったんですよ。結局、途中で体操に移らせてもらったんですけど、続きませんでした。

—そこからなぜサッカーをするように
母が「何かスポーツしないと運動不足になって太っちゃうから」って感じで、買い物帰りにたまたま練習を見かけて「やってみたら」と。サッカーをしてる友達もいたので、その流れですね。もともと母が自転車で移動してても、自分は走ってたり…小さいころは走ることや木登りとかが好きな活発な子どもでした。

—想像どおり()。憧れていた選手がいたりしました?
女子サッカーはほとんど観たことがなかったんですけど、澤穂希さんや荒川恵理子さんの存在は知ってました。でも映像で観ていたのは、ほとんど男子でしたね。ドリブルが好きだったので足技とかはロナウジーニョ、プレーの遊びの部分は松井大輔さん、キックは中村俊輔さんの映像を観て、面白いと思うプレーをマネしてました。ちょっとした瞬間も面白いプレーっていうのが好きなんですけど、自分はまだまだサッカーを知らない人にまで伝わるプレーはできてないのが悔しくもあります。

NACK5スタジアム大宮でのプレーも重ねてきてますけど、どんなプレーが観客に伝わると感じますか?
スライディングで守備に行ったり、ライン際までランニングしたり…シンプルでわかりやすいプレーに観客のみなさんは沸くのかなって思います。NACK5スタジアムはピッチと観客席が近いのでそういう反応はすごくわかる。勝負強さっていうのは感じてもらえると思うんですよ。でも、自分が憧れてきた遊びのプレーのところでは伝えきれておらず…まだまだ力不足です。

—今はまだゴールを奪えるか、守り切れるかっていう勝敗に直結した部分に注目されがちなところはあるかもしれないですね。
勝つためのプレー、勝ちを引き込むプレーってことですよね。そこプラス「何今のプレー!?」みたいな部分も魅せていきたいって思うんです。人と逆のことをするのが好きっていうか…自分が面白いなって思うのは、今のは躓いた訳でも迷った訳でもなくて、狙いですっていうプレー。そういうのをどんどん出せるようになりたいです。

—今までの試合で、実はこういうプレー出してたんですという瞬間はありました?
マイ仙台戦で、相手のベンチ前でノールックで通したパスとか、NACK5(大島)ハルナにヒールで出したパスとかは、あれが最高って訳ではないんですけど、自分ではちょっと遊んでみました。

—そのマイ仙台戦ではゴールも決めました。やはり古巣との対戦はしびれましたか?
面白かった一緒にやっていた人が全員敵側にいる。負けたくない気持ちはもちろんあるけど、面白いほうが勝りました。あのゴールは嬉しかったです完璧でした。ゴールは見てなかったので、こっちにタッチしたらそっちかな、みたいな感じでしたけど()。試合後の取材で「萌乃さんのおかげで」って言っちゃったんですけど、あとで映像を観たら、タジさん(田嶋みのり)が後ろでしっかりウチらにつなげるように守備をしてくれたから2対1の形が作れた。だからタジさん、あらためて感謝です

—第6節を終えて5位につけています。
ここまでやってきた試合の感覚では良い方に進んで行ってる途中かなって思います。ここからまだフィットしてくるはず。それぞれの試合で得るものがちゃんとあって、その流れが切れずに何かしら一本にずっとつながってる感覚があるんです。また2月になれば新しい選手も入ってきますし。それも楽しみです。

—チームにフィットするには少し時間を要すかもしれないですけど。
プロリーグでプレーしている身としては、「VENTUSって簡単に試合出れるじゃん」ってなるのはイヤなので、フィットさせたいけど、簡単にフィットさせないぞっていうチームにはしたいですよね。そこは引き上げつつ抜かせない、ついて来いよ!くらいの。その上で楽しいって思わせられるチームになりたいです。

—今の手ごたえを積み重ねていけば、シーズン終了後には大きな変化が起きてそうですね。
はい。ポジティブがキーワード。失敗してもポジティブにとらえて、トライできてることは良いことだと柳井(里奈)監督も言ってます。トライしなきゃ失敗もできないし、その先の成長もないから。

—船木選手がここはトライしてるぞ!と思うのはどんなところですか?
足元でもらう回数は増えてきたかな。仙台のときはつねに裏!って感じだったけど、今は状況判断をつねにしてる。今はこっちかなって裏行くフリして足元でもらったりっていうのはVENTUSに来てから増えた自分のもう一つの持ち味です。

—この調子でいけば、目標ゴール数に到達できそうですね。
がんばれば…がんばります!でも結構緊張するんですよ。スタメンだと時間が来れば否応なく切り替わるんですけど…。そんなときは、いつもイノさん(井上綾香)に体を叩いて気合を入れてもらってます。前線で組む2人で点を取りたいっていう自分の思いから、これはイノさんに頼んでますね。なんか安心するんです()

—仙台のときはチームメイトだったんですもんね。
そうなんです。大学3年のころから練習参加をさせてもらってたので…。キャンプのときはイノさんが迎えに来てくれたりして、面倒を見てもらってました()。よく似てるとも言われてたんですよ。

—確かにタイプは似てるかも
同じチームつながりで言うと、実は柳井監督がジェフユナイテッド市原・千葉レディースでプレーしてたとき、自分はジュニアユースにいて柳井さんの存在は知ってたんです。とは言っても、当時トップチームの選手とは接点がなかったからただ怖かったです(苦笑)

—柳井監督ともつながりがあったとは…。そんな柳井監督と同じチームで臨むリーグ戦も前期の後半です。
自分のことを知らないでVENTUSのサッカーを観てくれても全然大丈夫です。でもNACK5スタジアムでの観戦はホントにおススメしますバックスタンド側なんて、試合中に目が合ったら手を振ろうかなって思うくらい、めちゃくちゃ近い自分がゴール決めたら、近くの観客席にハイタッチしに行こうかな()。パフォーマンスってサッカーだけじゃないですよね。逆にそこが大事だったりするし、それは選手たちだけでできることではないです。皆さんと一緒に面白いサッカーを作っていきたいと思ってます



早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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