【VENTUS PRESS】阪口萌乃 後編

決して大声で鼓舞するタイプではないですが、とてつもない信頼感をまとっている阪口萌乃選手。正確なキック、的確に放たれるシュート、味方を生かすパスセンス…阪口選手を形作るスキルはどのようにして培われてきたのか。そして今、彼女のなかに生じている葛藤とは——。リーグ後半へ向けてどのような挑戦をしようとしているのか、丁寧に紡がれたその言葉の数々から阪口選手の決意を感じてもらえるはずです。


Vol.48 文・写真=早草 紀子

「躊躇しながらのプレーはもったいない!」 阪口萌乃

4歳からサッカーを始めたと聞いています。
もう幼な過ぎて、記憶がないんです。でも親は何かを感じていたようで「サッカー続けて」ってお願いされてました()。確かに小学生のときはハーフラインから毎回シュートを打って決めてたなぁ。もちろんその当時、GKも本職の人がやってないっていうのもありましたけど。

—高校は名門・藤枝順心高校へ進みました。寮生活をしながらサッカーに集中できる環境ですね。順心と言えば、とても“熱い”イメージがあります。
「ナンバー1(人差し指を突き上げる仕草)ってやってましたよ()。高校3年間で本当にサッカーに関して考え方が変わったというか、サッカーを“知った”という感じで、間違いなくターニングポイントだったと思います。私は1.5列目で、今はサンフレッチェ広島レジーナにいる桃ちゃん(左山桃子)との萌・桃コンビでめちゃくちゃ点を取ってたんです。2年の途中からワンボランチになっちゃいましたけど。

—キックなどのスキルを身につけたのはこの頃ですか?
いや…高校ではスキル面は結構自信持ってプレーしてましたね。小学生の頃から相手を剥がすパスやドリブルが好きで、自覚はありませんでしたが得意だったんだと思います。自分がその瞬間に思い描いたものが、その通りにいったときは、パスでもシュートでも一番気持ちが上がりますね。

—その後、あらゆる経験を積んでいきますが、その中でも“なでしこジャパン”というのは、やはりご自身にとって大きな影響がありましたか?
なでしこジャパンでプレーするのは楽しかったです周りの選手が適格に動いてくれるので、それこそ思い描いたプレーが出来るんです。

—確かに招集されるごとにグイっと引き上げられているように見えました。
サイドバックで起用されて…。初めてのポジションだったので、もう大変で()。周りのみんなに聞いて聞いてなんとかやってました。それこそサメさん(鮫島彩)CBをやっていたので、その存在は大きかった。そうだアリさん(有吉佐織)が私の本来のポジションのボランチに入ってて、「なんで()?逆じゃない」ってよく言ってました。でも、わからないからこそSBは新鮮で面白かった今思えば楽しくやってましたね。

—今はその二人ともチームメイトになりました。
ホントまさか、ですよ()

—今季の最初に、久保真理子選手が「萌乃さんが最初のトレーニングマッチの切り抜き映像を解説付きで送ってきてくれたのが嬉しかった」と言っていました。よくそういうコミュニケーションの取り方をするんですか?
いえいえ、やったことなかったです!VENTUSに加入してからですね。ちょうど自分もいろいろ伝え方を勉強していることも大きいかもしれません。こうするともっと良くなるかも、こういうやり方もあるかもって気になるところの映像を切り取ってるんです。でも編集作業とかはしつつも、これを本人に送るか送るまいかっていうのはいつも悩みます(苦笑)。でもこの前は(杉澤)海星に映像を渡しましたね()

—でもお互いに考えを分かり合ういいツールだと思います。映像はわかりやすいですから。でも多大な労力が必要ですね。
そんなことないですよ。自分が気になるところをピックアップしてるだけなので…

—そういうタイプに見えなかったのでちょっと驚いてます()
やらないタイプでしたね。これは自分にとっても大きな変化で、成長を感じているところです()

—カップ戦でこのチームの戦い方を初めて実戦で感じました。現在はウィンターブレイク中ですが、ここまでWEリーグを戦ってみて、前半戦をどうとらえていますか
カップ戦の頃のVENTUSっていい意味で失うものがなくて、自分たちの色を出しながらも大胆に打って出ることができてたと思うんです。それを見て相手が対策をしてきているということもあるのですが、今は積み重ねてきたからこその迷いがあるというか、躊躇しているように見えて、もったいないなって感じるところもありました。

—どのチームも失点を抑えたいというサッカーをしてきますし、長所の消し合いのようになりますよね。
カップ戦よりもリーグ戦はやりにくいというのは覚悟していて…でも今は相手よりも自分たちの中に問題があるように感じて歯がゆく、もどかしいです。

—難しい試合でも勝ち点を拾えていた開幕戦付近と、後半の追い上げが効かなくなってきて勝ち点を拾えなくなってきた中断前。ウィンターブレイクは立て直しのためのいいチャンスです。
今のままでやっていたら後半戦は本当に難しいと思うんです。一人ひとりの意識も変えないといけないし、つなぐところか、蹴るところかの共通意識がすごく大事なんですけど、そこのバラつきをしっかりこの期間で作り直していきたいです。実は、この前このことをみんなに伝えようとしたんです。でも…緊張もあって限られた時間で全然うまく伝えることができなかった…最終的にはアリさん(有吉)がフォローしてくれたんですけど。全然ダメダメでした(苦笑)

—ドンマイ()!ぜひ再度チャレンジしてください。
そうですよね。ちょっと焦っちゃった(苦笑)。もう一度頭の中を整理してうまく伝えられるようにがんばります

—苦しい中でも古巣INAC神戸レオネッサ戦では、泥臭く最後まで食らいついてゴールを奪い取った阪口選手なら、プレーでも見せることができますし、ぜひいろんな角度から伝えてください。
ですね。あのゴールは…嬉しかった()

—古巣に対してメラメラ感はあるって言ってましたし、有言実行でした。
ああいうのを続けていかないとですね。大胆なプレーをカップ戦ではできていたことですから柳井(里奈)監督も「ポジティブにプレーしよう」って声掛けをしてくれます。ネガティブなプレーは観てる人もやってる選手も面白くない。躊躇することなく積極的なプレーを選べるようにこの期間でしっかり突き詰めます



早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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