今野浩喜の「タダのファン目線記」オフィシャルライター

突撃インタビューシリーズ 今野浩喜 vs クラブオフィシャルライター

今野さんがタダのファン目線でアルディージャの関係者に逆取材! 今回は今野さんのリクエストで、この連載の構成を担当しているクラブオフィシャルライターの粕川哲男さんにオンライン取材を敢行しました。


独特の空気感を文字で表現

粕川「いつもお世話になっております」

今野「こちらこそ。えぇっと、こうやって取材されることは、よくあるんですか?」

粕川「いや、よくないです。まさか自分が引っ張り出されるとは思っていなくて、最初は逃げようと思ったのですが、逃げ切れずに出てきちゃいました」

今野「逃げられないですよね(笑)。普段の取材では自分の意見を出すものですか?」

粕川「いや、僕の場合は自分の意見を出すというよりも、選手が考えていることをうまく伝えられたらいいな、と思っています」

今野「でも選手は話すのが仕事じゃないし、全然話を引き出せないこともあります?」

粕川「ありますね」

今野「そういうときはどうするんですか」

粕川「ひたすら嫌な汗をかきつつ、頑張って何とかなることもあれば、惨敗することも」

今野「惨敗の場合、どうやって誌面を埋めるんですか?」

粕川「過去には『……』みたいな場合もありました」

今野「正直に書くしかないわけですね」

粕川「最悪の場合は」

今野「今日は『……』がないといいですね」

粕川「今野さんのインタビューで無言が続くことはないんじゃないですか」

今野「本当ですか? でも、俺もどうしようって思うこともありますよ。それは相手が話してくれないというよりか、聞くことがないというか」

粕川「あははは……」

今野「だけど、この企画は俺が編集するわけじゃないから。あとはどうにかしてくれって。そのあたりはどう思ってます?」

粕川「困ることはありませんね。今野さん独特の間合いとか、言葉のチョイスとか、取材現場の雰囲気を忠実に再現できれば、面白く仕上がるような」

今野「文字で雰囲気を再現って、難しそうですけどね」

粕川「テンポのいい会話だけでなく、考えている間とか話が噛み合わない部分も“味”と思って表現するようにしています」

今野「俺は聞き手として客観的に見てどうですか?」

粕川「普通じゃないというか……」

今野「え!?」

粕川「あっ、もちろんいい意味です。独自性というか、視点が少し違って、僕なんかでは思い浮かばないような質問もされますし、突っ込んでいく角度も、そこを攻めるかと思うところが、とても面白いです」

今野「その人の仕事のことより、その人自身のことが知りたいと思うんですよ」

粕川「やっぱり、人が見えた方が面白いですよね」


新オフィシャルライターが爆誕?

今野「普段は、どんな記事を書いてるんですか?」

粕川「オフィシャルマガジンVAMOSの企画とか、マッチデープログラムのプレビュー記事とか、公式サイトのコラムなどです」

今野「オフィシャルライターっていうのは、どうやってなるんですか?」

粕川「僕の場合は編集者の方に声をかけていただいて、そこから始まりました」

今野「正式に肩書があるんですか?」

粕川「はい」

今野「俺は違うんですか?」

粕川「どうでしょう(笑)」

今野「もはや、オフィシャルライターじゃダメなんですかね」

粕川「コラムも書かれていましたからね」

今野「じゃ、今後は自称オフィシャルライターってことで」

粕川「分かりました」

今野「インタビュアーさん、テープレコーダーを置いて、メモもするじゃないですか。あれは何を書いてるんですか?」

粕川「大事なことを書いていることもあれば、長い会話に耐え切れずにメモを取っている振りをしているとか」

今野「あははは……。目線を逸らす言い訳ですか。実際は何も書いていないとか?」

粕川「あとは見返しても、何を書いているのか、さっぱり分からなかったり」

今野「それは危ないですね。今後は相手が何かを書き出したら、今はつまんないんだなと思った方がいいですね」

粕川「そうかもしれません(笑)」

今野「今までやった大きな失敗って何ですか?」

粕川「人の名前を間違えるとか、ミスを拾いきれずに出版しちゃったことはあります」

今野「それは怒られましたか?」

粕川「そのときは謝罪の電話をして、選手本人に優しく許してもらいました」

今野「俺もよく名前を間違えられますけど、謝られたことは一度もないですよ。こっちが言わない限り誰も気づいていないのかと思いますけどね。そういう系で一番思い出すのは、レギュラーのドラマのエンドロールで1週だけ名前がなかったことがありましたね。前の週も次の週もあったのに、1週だけなかったっていう(笑)」

粕川「わざわざ外す必要ないですけどね」

今野「だから、毎回書いてるんだって思いましたよ。使い回しじゃなくて」

粕川「正式に抗議しました?」

今野「いや、何とも思ってなかったから、次の撮影のときに面白い感じで言ったんですが、とんでもない大事になりました(笑)」

粕川「絶対にやっちゃいけないミスですものね」

今野「逆に、この仕事をしていて褒められることはありますか?」

粕川「ほぼないですね」

今野「難しいですよね。あそこを切ってくれてありがとうございますとか(笑)、編集を褒められる機会は少ないかもしれない」

粕川「そうですね」

今野「じゃ、やり甲斐ってどこにあるんですか?」

粕川「もともとサッカーが好きで、見るのも、書いたり編集したりするのも好きなので、仕事自体に楽しさがあります。あとは自分が携わったものが世に出るだけで、それなりの達成感は得られています」


部屋とリクガメと今野さん

今野「サッカーを好きになったきっかけは?」

粕川「やっぱり、『キャプテン翼』かもしれません」

今野「日本人は大抵『キャプテン翼』ですよね」

粕川「そうだと思います」

今野「俺も『キャプテン翼』の影響を受けて地域の少年サッカーチームに入りましたけど、その影響のせいか、みんなボールを持ったらシュートしてましたよね。どの距離からでも本気で入るんじゃないかって気持ちで」

粕川「自分で解説しながらプレーしちゃうとか」

今野「いたいた(笑)。シュートの名前を言いながらね。でも、『キャプテン翼』の次に『ダイヤモンドサッカー』とかを見たと思うんですけど、子どもながらに全然面白く感じなかったんですよ。だって、本物のサッカーは翼くんみたいなドリブルなんてなくて、パスが基本だから。……今、ガチャガチャって音、聞こえてます? そっちに」

粕川「少し」

今野「うるさくはないですか?」

粕川「大丈夫です」

今野「ならいいか。今、テレビの裏にリクガメが入ってちゃって(笑)」

粕川「リクガメの方は大丈夫ですか?」

今野「横になりながら狭いところに行くのが好きみたいで」

粕川「具合を見に行った方がいいんじゃないですか?」

今野「いったんいいですか。あぁ、ちょうど出たところでした(笑)」

粕川「おぉ、大きいんですね」

今野「そうなんですよ。これで、だいぶリモート感が出ましたね」

粕川「カメを持っての取材は、なかなかないです(笑)」


今野「本物のサッカーを見たのは、いつ頃ですか?」

粕川「田舎で『ダイヤモンドサッカー』は放送していなかったので、トヨタカップとか、高校選手権とか、ワールドカップとかですね」

今野「最初から面白かったですか?」

粕川「はい! 最初に見たW杯は1986年のメキシコ大会でしたが、中学2年生で、めちゃくちゃ楽しめました」

今野「マラドーナがすごかったときですね」

粕川「そうですね」

今野「俺が初めて見たのは94年のアメリカ大会ですね。まさに93年のJリーグ開幕からサッカーを見始めて、ドーハの悲劇とか。だから、ちょうどいい入り方。いきなりドーンと盛り上がっている感じの。ただ、今考えるとアメリカW杯は面白くなかったなって」

粕川「確かに」

今野「振り返ると、かなりひどい大会でしたよね」

粕川「アメフトの会場とか使っていました」

今野「あとは灼熱のイメージ。みんな疲れてダラダラしてた印象がある。でも、初めてのW杯だったから、すごく覚えてるんです。FKが多かったとか、アメリカ代表のGKメオラが大会後すぐにアメフトのトライアウトを受けたとか」

粕川「ありましたね(笑)」


やる派? 見る派?

今野「サッカーを仕事にしたのは?」

粕川「96年に、『サッカーダイジェスト』という専門誌で働き始めました」

今野「あぁ……。俺は本当にマガジン派だったからな」

粕川「あははは……」

今野「いつまで『ダイジェスト』で働いてたんですか?」

粕川「2002年の日韓W杯の後にフリーランスになりました」

今野「あのときは忙しかったんじゃないですか」

粕川「毎日雑誌を出すというチャレンジをしたので、大変でした」

今野「確かに、めっちゃ出してた。96年からかぁ。だと、ユーロの年ですね」

粕川「イングランド大会ですね」

今野「マクマナマンとかガスコインがすごかった」

粕川「覚えています」

今野「ご家族はいらっしゃるんですか?」

粕川「はい。妻と子どもが2人います」

今野「みんなサッカー好きですか?」

粕川「いや、妻はほとんど何も知らなくて、上の息子はサッカーをしています」

今野「何歳ですか?」

粕川「16歳かな。高校1年生です」

今野「ゆくゆくはプロを目指すという話ですか?」

粕川「いやいや、本人がどう考えているのか分かりませんけど、そろそろ気づいているんじゃないでしょうか」

今野「どういう意味ですか?」

粕川「小さい頃は、将来の夢はプロサッカー選手と言っていましたけど、自分のレベルと、プロになる難しさと……」

今野「プロになる年齢が低いですもんね。早い人は10代ですからね」

粕川「そうですね」

今野「サッカーが好きになったのは、親の影響もあるんですかね」

粕川「好きになってくれたらいいなと思って、生まれた次の日に小さいボールをベッドに置いておいたので、少しは影響あるのかもしれません」

今野「じゃあ、よかったですね」

粕川「そうですね。これまで親として十分に楽しませてもらいました」

今野「息子さんは好きなチームとかは?」

粕川「特にないみたいですね」

今野「サッカー好きは、やる派と見る派に分かれますもんね」

粕川「ボールを蹴るのが好きみたいです」

今野「俺も演劇とかやるのは好きだけど、見るのはまったく好きじゃないです」

粕川「お芝居を見て参考にすることはないのですか?」

今野「ないですね〜。好きなドラマとかは見ますけど。ってことは、おそらく好きな芝居があって、その影響は受けてますけどね。でも演劇は、例えば一緒に出演した人と連絡先を交換すると、その人の舞台へのお誘いがあるんです。逆に見に来てもらったり。なんかお金が近場で動いてるだけなのがバカバカしくて」

粕川「そういうものですか」

今野「あと、どの演劇も面白いと思えないので」

粕川「つまらないなら行かないですね」

今野「だから、似ているのかもしれないですね。実際に自分がやるのは好きだけど、見ることは興味ないっていう」

粕川「そうですね。その話でした」


怖くて見られない……

今野「この自粛期間中、選手の取材はリモートでやったんですか?」

粕川「数回やりました」

今野「リモート取材と、実際に会って聞くのとでは、どっちがいいですか?」

粕川「細かい表情とか、現場の空気感を感じるには、やっぱり対面の方がいいと思います。言葉の裏にある本当の感情のようなものは、顔に出るような気がするので」

今野「それを感じたときは、そこを引き出そうとするんですか?」

粕川「はい。頑張ってみます」

今野「ということは、書き起こすといっても、人が言っていることをただ文字にするだけじゃないってことですね」

粕川「ニュアンスとか、本当はこんな思いで言ったのだろうなという部分は、ある程度は肉付けしています」

今野「文脈を読んでってことですね。いや、何でこんなことを聞くかっていうと、俺は自分のこのコーナーを読んでないからなんですよ」

粕川「え!?」

今野「やっぱり、自分の発言を読むのは恥ずかしいんですよ。今回、自分で自分の発言を書き起こすのは平気ですか?」

粕川「いや、相当恥ずかしいと思います」

今野「ですよね。こんなこと言ったんだって、あらためて思うわけですからね。今回は自分が言ったことをキレイな感じに書き換えないでくだいさいよ」

粕川「それしなかったら成り立たないと思います(笑)」

今野「そこは生々しい感じにしてほしいですけどね。だって、もうつづがな〜くトークが流れていったら、それはそれで恥ずかしくないですか」

粕川「できるだけ生々しい感じを出せるように頑張ってみます」

今野「結果、俺は読まないけど(笑)」

粕川「いやいや、読んでくださいよ。今野さんの面白さが出ているはずですから」

今野「自分の意見は恥ずかしい」

粕川「でもこの前、誰が聞いても同じような質問では意味がない、自分の色を出したいとおっしゃっていましたよね」

今野「そうですそうです。自分の意見で、自然な質問をしたいという思いはありますけど、結果それを読みたくはない(笑)」

粕川「いやぁ〜、読んでいないのかぁ」

今野「演じることが好きなのは、人の台本、人の演出で自分の意見がないからなんですよ。俺のせいじゃないっていうか。だから、自分が出た映画とかドラマは見られるんですよ。でも、この企画は俺の責任が結構あるじゃないですか」

粕川「そうですね」

今野「だから怖くて見られない」

粕川「台本や演出に従って演じているとき、自分が出てくることはないのですか?」

今野「自分を出しても、結局OKしているのは監督なんで。だから、ドラマ、映画、演劇は、逆に言うと褒められても全然嬉しくないというか」

粕川「自分じゃない感覚ですか」

今野「あくまで監督のもの。だから大丈夫なんです」

粕川「ホームページ、一度も確認していないのですか?」

今野「見たことないです(笑)」

粕川「ぜひ、もう少し踏み込んで……」

今野「でも、反響はないですよね。意見や感想を書く場所がないですからね」

粕川「確かに」

今野「閲覧数が多いという話は聞いたので、その言葉だけをエネルギーに頑張っています」

粕川「毎回、取材対象者の方は『面白く読んでいます』と言ってくれますけどね」

今野「取材があると聞いて、急いで読んでるんじゃないですかね」

粕川「そういう正直な方がいましたね(笑)」

今野「だから、どうやって広げるかって部分も考えないといけないですね。広げる方法が結局、今は俺のフォロワー頼みというところがあるから」

粕川「う〜ん……」

今野「今回も本人を目の前に失礼ですけど、取材対象者が内々の人だから」

粕川「外とのつながりがないですもんね」

今野「1回くらいは、大宮アルディージャどころかサッカーにすら興味がない役者とか、お笑いタレントを引っ張り出してみるのはどうでしょう?」

粕川「広がりそうですね」

今野「なるべくフォロワーの多い人間を」

粕川「あははは……」

今野「この形はこの形で好きですけどね(笑)。じゃ、そろそろ締めましょうかね」

粕川「はい。もう十分すぎるほどお話できたと思います」

今野「後半、何の話をしてるのか、まったく分かんなかったですけどね。そのあたりもうまくまとめてください」

粕川「分かりました。ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」

今野「こちらこそ、よろしくお願いします」



インタビュアー:今野浩喜
構成:粕川哲男

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