Vol.015 平野貴也「どんどんチャレンジして、状況を変えていく」【オフィシャルライター「聞きたい放題」】

Vol.015 平野貴也
どんどんチャレンジして、状況を変えていく

移籍を決意した理由とは

――大宮アルディージャという新しいクラブへ来ての印象は?
「一番に思うのは、サッカーに集中できる環境が整っているということです。寮の施設や練習場の周りもそうですし、クラブハウスも充実していますよね。ジムも使えるので、夕食前に筋トレをすることもあります。お風呂はリラックスできる場で、すごく良いなと思います。チームとしては、昨シーズン、SC相模原に所属していたとき、シーズン開幕前にNACK5スタジアム大宮で対戦したことがあったので、身近に感じていました。同い年の(高田)颯也は、高校のときから知っています。ミカさん(三門雄大)は、僕がマリノスの育成にいたときにトップチームでプレーしていたので知っていましたし、コウモさん(河本裕之)も映像などでプレーを見たことがあって一方的に知っていました。最初、ミカさんはマリノスの大先輩でもあるので、怖くて話にくい雰囲気がありましたけど(笑)、話してみたらすごく優しい先輩でした。チームには、マリノスと比べると若い選手が多いので、年が近い(松本)大弥君や佐相(壱明)君、(奥抜)侃志君と仲良くしています」

――1年目だった昨シーズンは、横浜FMでトップ昇格をしてすぐに当時J3のSC相模原へ期限付き移籍をしましたが、シーズン途中にはレンタルバックしJ1出場を果たしました。慌ただしいながらも充実したシーズンでしたよね。
「1年目ですぐにレンタルというのは、悔しかったですけど、それが自分の立ち位置だと受け入れて、何とか結果を出して戻ってやろうと思っていたので、戻ることが決まったときはうれしかったですし、やっとJ1でプレーできるなと思いました。ただ、かなり早い段階でマリノスに戻ることになったのは、正直、ビックリしました。その1週間後にはJ1の試合に出場できたのですが、心の準備をする期間もなく、何も考えずにプレーできたのが良かったのかなと思います」

――J1で出場機会があったなかで、初めてJ2のクラブに来たわけですが、移籍に迷いはなかったのでしょうか。
「昨シーズンの終盤は、なかなか出番がありませんでしたし、自分でも手応えがなかったので、状況を変えたいという気持ちを持っていました。声をかけていただき、また1年、大宮というクラブで成長したいと思って決断をしました。今シーズンは1年を通して戦うことができるのではないかと思うので、シーズンのなかでどうやって信頼を得ていくか、出場機会が少ないなかでどうしていくかは、今後の自分の成長につながる部分だと思っています」


両足が使えるドリブラー

――リーグ戦の10試合を終えました(※取材日:4月28日)。限られた出場時間のなかで持ち味の突破は見せられていると思います。ドリブルが武器だと思いますが、どんなことに気を付けてプレーしていますか。
「何度かは、自分の形、自分の良さを出せている部分はありますが、やはりその回数が少ないというところがいまの課題です。まだまだ足りないなと思っています。ペナルティーエリア付近が、自分が最も特長を出せる場所なので、そこでパスがもらえるような動き出し、引き出し方を意識しています。ボールを受けたら縦に仕掛けてクロス、カットインからパスやシュートというアイデアは常に持っているので、そこが自分の武器だと思っています」

――ナチュラルなスピードアップと、進路が予測しにくいドリブルをするという印象がありますが、いまのプレースタイルはどのように確立されたのですか。
「中学や高校のときの1対1の練習で、年上の選手と対峙するなかで自然と身についた仕掛け方です。中学3年くらいから右MFのプレーが多いのですが、右利きで右サイドをやると左足を使えないと難しいですし、使えたほうがプレーの幅が広がります。もともと、左足も苦にする方ではなかったのですが、高校のときに(ドリブル時は)左足でもボールを持つように意識して取り組んでいたので、自然と左足で持てるようになりました」

――両利きというか、左足も得意なところと仕掛け方が独特だと思うのですが、どんなところを狙って仕掛けているのですか。
「自分のプレースタイルや仕掛け方と似た選手はあまりいないので、それが良さだと思っています。スピードも自信があるので、意識しているのは相手との間合いです。抜けられる間合いは、ボールをもらったときに分かるので、その間合いを大切にしています。左足を使えることで(外で待ってパスを受けるだけでなく、外から中へ)クロスに走って相手と入れ替わる形もできますし、外へ抜けると見せかけて左足で中へかわすこともできるので、プレーの幅は広がっていると思いますし、左足を使えて良かったと思う場面はけっこう多いです」



兄の影響でサッカーを始めた少年時代

――いまのプレースタイルは中学、高校からということですが、ルーツについても少し聞かせて下さい。男3人兄弟の真ん中で、お兄さんの影響でサッカーを始めたということですが、みんなサッカーをしているのでしょうか。
「兄(雄太郎さん)はもう競技を辞めましたけど、2学年上で中学、高校と湘南ベルマーレの育成組織でプレーしていたので、何度か対戦したこともあります。すごく負けたくない気持ちになりました。もともと兄に付いて公園やグラウンドに行っているうちに、自然と同じチームに入って、サッカーを始めていたという感じです。年上の人と一緒にやって自然とうまくなれたところはある気がしますし、一緒にやってくれる人が身近にいて良かったと思います。弟(康太郎さん)は、7歳年下でマリノスのジュニアユースでプレーしています」

――弟さんと一緒にプロの世界でプレーしようと思ったら、高卒でも4年後、大卒なら7年後ですね。
「弟もプロを目指しているので、いつか一緒にプレーしたり、対戦したりしてみたいですけど、まず僕自身が活躍し続けないといけません(笑)」

――鎌倉の出身で、ジュニアユースからマリノスの育成チーム(横浜F・マリノスジュニアユース追浜)に入ったわけですが、どんな子ども時代を過ごしてきたのでしょうか。プロを意識したのは、マリノスに行ってからですか。
「小学生のころは足が速かったので、それを生かしていました。ポジションはFWが多かったと思います。小さいころからプロになることしか考えていなかったので、ほかの夢というのは考えたことがないです。当時は、ブラジル代表のロナウジーニョ選手のプレーが好きでしたけど、参考にするとかではなく見て楽しんでいるという感じでした。子どものころは、テレビで見るというよりはとにかく夜までボールを蹴っていました。小学生のときもマリノスのスクールに通っていたのですが、地元の少年団(おなりサッカースポーツ少年団)を辞めたくなかったので、所属チームを変えたのはジュニアユースからという形になりました。スクールにプロ選手が来てくれたことがあって、格好良いな、自分もなりたいなと思っていました」

――人生の転機だったと思うのは?
「中学生になるときと、高校を卒業するときの進路選択ですかね。中学生になるときは、ほかのクラブからも声をかけてもらっていて、実は周りからはそっちを勧める声も多くて迷いました。でも、スクールにも通っていて、ずっとマリノスに入りたいと思っていたので気持ちを貫きました。高卒のタイミングでは、大学かプロかを悩みましたが、いつでもプロになれるチャンスがあるわけではないと思いましたし、ずっとなりたかったプロになって、この世界で生きていきたいと思ったので、プロを選びました。どちらも良い選択をできたのではないかと、いまは思っています」

――これまでに、強い影響を受けた人はいますか。
「昨シーズンはプロ1年目で何も分からなかったのですが、相模原にいたときは、水野晃樹さん(元日本代表。今シーズンは神奈川県1部リーグのはやぶさイレブンでプレー)が、いろいろとご自身の経験を話してくれたり、教えてくれたりして、すごくお世話になりました。(突破を得意とする)プレースタイルが似ているところもあって、自主練習も付き合ってもらいました。マリノスに戻る前にも『J1になるけど、1年目だから出られなくてもいいなんて考えないで、どんどん食らいついていけ。いろんな選手を見て学ぶことが一番大事だよ』と言っていただいて、すごく心に響きました」


公私ともにチャレンジしたい

――5月20日に20歳の誕生日を迎えますが、やってみたいことはありますか。
「お酒は、興味ないですね……。僕は、サッカー以外にあまり興味がないみたいで(笑)。来年の話になりますけど、成人式は楽しみですね。なかなか、地元の仲間で集まれることがないので」

――普段、オフの時間はどのように過ごしていますか。
「本当は旅行に行きたいですが、いまの時期はなかなか外出できないので、自宅でゲームなどをして過ごすか、実家に帰るか。地元だと海が近いので、海辺を散歩するのが好きです。あとは、日帰りで箱根の温泉に行くとかですね。でも、基本的にサッカー以外、何もして来なかったので、プロになって初めて時間ができて、どう使おうかと思っているところです。いつか海外に挑戦したいので、英語も勉強したいなと思っています」

――最後に、シーズン序盤はチームとして苦しんでいる状況ですが、個人的な手応えと、今後の抱負を教えて下さい。
「試合に絡めている回数が多くはないので(先発2試合、途中出場2試合)、個人的にも良い状況ではありません。与えられた時間のなかで、なかなか良いパフォーマンスを見せられずにチャンスをつかめていない現状があるので、ここからどんどんチャレンジして、状況を変えていきたいと思っています。チームがうまくいっていないなかで、自分が何とかしてやろうという気持ちで頑張ります」


平野 貴也 (ひらの たかや)
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。

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