MF10 黒川淳史【マンスリープレーヤーインタビュー】


回り始めた歯車

この男の躍動を、誰もが待っていたに違いない。

黒川淳史が状態を上げている。

8月下旬に話を聞いた時点で、この22歳は「シーズン2ケタはいけるなっていう感覚はあります」と話していた。「まだ1点だからと悲観的になることはなく、全然いけるなという感じがするので、自分のゴールでチームを再起させられれば」と、落ち着いた口調で、なおかつ熱っぽく語ったものだった。

すぐに2点目を決めることはできなかった。それでも、9月23日の徳島ヴォルティス戦でネットを揺らす。ペナルティーエリア内で相手のセンターバックに圧力をかけ、力のないバックパスをダブルタッチで処理してGKをかわし、すかさずゴールへ蹴り込んだ。

「あの得点シーンは、相手のクリアミスを誘うことができました。最初はすぐにシュートを打とうと思ったのですが、GKが迫って来ていたのでうまくかわしてゴールに流し込めました」

得点に絡める予感はあった。アカデミーまでさかのぼってもキャリアで初めてとなる3-4-2-1のシステムに、自分がフィットしていくフィーリングをつかんでいたからだ。

「ベースが3バックのチームでプレーするのは、今回が初めてです。最初は2シャドーからの守備に難しさを感じていたのですが、試合を重ねるごとに慣れてきています」

シーズン前半戦は7勝5分9敗の15位で折り返した。17得点はリーグワーストタイだった。複数得点を記録したのは開幕節の水戸ホーリーホック戦、第3節・ザスパクサツ群馬戦、それに第11節・ジュビロ磐田戦にとどまる。

2シーズンにわたる水戸への期限付き移籍を終え、4シーズンぶりのJ1復帰へ向けた“新戦力”の一人として、黒川は大きな期待を寄せられる存在だ。チームの成績に対する自覚と責任は大きい。言葉にも力がこもっていく。

「チーム全体としてアグレッシブに、前へ前へという気持ちを出すことが大事だと思います。前半戦は得点数も少なかったですし、複数得点がなかなかできていない。チームが苦しい状況の中で、後半戦はチームを勝たせる選手になりたい。そこは、こだわっていきたいです」

徳島戦は1-2の敗戦に終わった。黒川の得点は勝利に結びつかなかったが、続く京都サンガF.C.戦では勝点3を手繰り寄せる貴重な同点ゴールを奪う。1点差に迫った57分、相手MFのヘディングのパスをしたたかにカットすると、相手陣内をそのままドリブルで持ち込む。ペナルティーエリア左から放たれたシュートが、相手GKのセーブをはねのけてネットに突き刺さった。2-2に追いついたチームは、4-2の大逆転勝利を飾った。


アカデミーの価値とは

今シーズンはアカデミーからトップチームに昇格した選手が、出場機会を増やしている。すでに実績のある渡部大輔と大山啓輔に加え、小島幹敏、小野雅史、奥抜侃志、髙田颯也、それに黒川らが、同じタイミングでピッチに立つことも少なくない。

「ここから大宮が強くなっていくには、アカデミー出身の選手が軸となって、このチームを勝たせることができるようにならないといけない。今はまだ厳しい状況が続いていますけど、やはりここで、どうやってチームを這い上がらせるか、誰がそれをやるのかも、問われるかなと思う。僕らが中心となってやれればベストですし、それによって大宮のアカデミーの価値を示すことができると感じています」

アカデミーからトップチームに昇格した選手の中で、黒川だけが背負う重責もある。アカデミー出身の選手ではクラブ初となる背番号10を託されているのだ。

「なかなか結果が出ていない時期も、自分の中ではやるべきことを整理できていました。それを常に質高くやっていきたい。10番だからこうしなければいけないというのはないと思いますし、自分の特長を最大限に発揮することが一番です。チームから10番をもらえたのは期待があってのことで、僕自身が少しでも認められたということでもあると理解しています。これまでの行動なども含めての期待だと思うので、変に空回りすることなく自分のやることを徹底して見せていけたらなと思います」

1998年2月生まれの黒川は、来夏開催予定の東京五輪世代の一人だ。大舞台に立つことへの意欲はもちろんあるが、軸足がブレることはない。小さな積み重ねの継続が大きな目標の達成につながる、というのが彼の矜持である。

「開催が1年延びたことで、今年の活躍次第で十分狙えると思っています。まず大前提として常に成長していくことを考えていて、その先にキャリアの通過点として五輪がある。自分が成長するために、自分の目的を果たすために、何をやるのがベストなのか。それを整理しながら日々行動することが、東京五輪に出場することだったり、日本代表に選ばれたりすることにつながっていく。まずは自分の軸というものを作って、そこからブレずに目的に向かっていくことが大事。東京五輪に出場することも、それが一番の近道かなと思います」

後半戦のスタートで7試合ぶりの勝利をつかんだチームは、10月の反攻を誓う。その中心には黒川がいるはずだ。いや、いなければならない。

「とにかく一試合、一試合、勝点を積み重ねていくことに集中したい。変に遠くを見過ぎることなく、今、自分ができること、やるべきことをしっかりやった先に結果がついてくると思います」

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