Vol.007 岩本勝暁「折れることなく、昇っていけ!」【オフィシャルライター「聞きたい放題」】

アルディージャ練習場では日々、様々な取材活動が行われていますが、サッカーと関係のないことはなかなか聞けない場合もあります。このコーナーでは、そんな話も含めて記者が気になる質問を、どんどん選手にぶつけてみます。今回は、アカデミー出身の吉永昇偉選手に、ルーキーイヤーとなった今シーズンの手ごたえを聞いてきました。


Vol.007 岩本勝暁

折れることなく、昇っていけ!

――吉永選手にとって、プロ1年目となる今シーズンも残り1試合です。どんな1年でしたか?
「最初はプロの壁を感じました。やはり高校までとはレベルが違います。メンバーにも絡めなかったけど、U18の丹野友輔監督をはじめ、スタッフの皆さんが『ブレずにやれ』と言ってくださいました。そのおかげで夏場には試合に出られるようになりました。浮き沈みはあったけど、1年目からたくさんの経験を積むことができ、とても充実したシーズンになっています」

――今でもアカデミーの選手やスタッフと交流があるそうですね。
「はい。一つ、二つ下の後輩とはよく話をするし、一緒にご飯を食べに行くこともあります。自分が試合に出ることで、今のアカデミーの選手にとっても刺激になりますから。後輩の結果はいつも気にしているし、後輩も自分たちの結果を気にしてくれている。いい関係を築けていると思います」

――デビューは第15節・柏レイソル戦です。山越康平選手に代わって途中から出場することになりました。緊張はありましたか?
「いざ試合に出るとなったときは『えっ?』と思いましたが、ピッチの脇に立ったときは自然と緊張が解けていました。逆に『やってやるぞ』という気持ちで、ファーストプレーからライン際でガツっと行くことができたと思います。その瞬間に『やれる』と思い、その後は、チームのことだけを考えてプレーしました」

――第22節・鹿児島ユナイテッドFC戦ではプロ初ゴールを挙げています。
「あの試合は最初からドリブルで仕掛けることができていて、『(ゴールを)取れるんじゃないか』という予感めいたものがあったんです。もともとFWをやっていたので、サイドに流れたときに『(ボールが)来る!』と感じました。しかも、あの試合は自分の出身少年団(大宮早起き)の恩師と子どもたちが見にきていたんです。みんなの前でゴールを決めることができて、僕にとっても特別な試合になりました」


プロ初ゴールは第22節・鹿児島戦。奥井諒のクロスをヘディングで合わせてゴールにねじ込んだ


――それはうれしいですね。他に思い出に残る試合はありますか?
「アウェイで行われた第21節・アルビレックス新潟戦です。僕が裏を取られて失点してしまいました。自分の中で試合に出ることが当たり前の感覚になり、甘さが出てしまったと思います。失点場面も気が緩んだ瞬間で、すごく悔しい試合になりました」

――19歳のプライベートも聞かせてください。プロになって生活は変わりましたか?
「お金を自分で管理するようになったことが大きいですね。使い道を自分で考えないといけません。でも、そこは自分の中で制限できていて、生活自体がそれほど変わった感覚はないかなと思っています」

――何にハマっていますか?
「う〜ん、何だろう。漫画が好きで、地元の漫画文庫によく行きます」

――漫画文庫ですか? もう“大人買い"してもいいのでは?
「大人買いをすると、読まなかったときに無駄になっちゃうじゃないですか。買ったら買ったで、『読まずに終わるかもしれない』というのが自分の中にあって(笑)。途中まで集めていても、新刊が出たときに『今度、買いに行こう』と思っていたら、いつの間にかその漫画に興味がなくなっていることってありませんか?」

――確かに……。他に趣味はありますか?
「……、あっ、映画鑑賞です」

――いいですね。最近見た映画は?
「『IT/イット “それ"が見えたら、終わり。』を見ました。ホラー映画です。それから『ジョーカー』とか。『記憶にございません!』も面白かったですよ。一人で映画館に行くことが多いですね」

――プライベートはどこにでもいる19歳と同じですね。
「そうですね(笑)。高校生と変わらないかもしれません」

――貯金して、将来、大きな買い物をしようとか?
「いえいえ、そういうことは思っていません。子どもの頃から親に『無駄遣いをするな』と言われてきたんです」

――プロになっても、金銭感覚は変わらない。
「そうですね。後輩をご飯に連れて行く回数が増えたくらいです(笑)」

――街で気付かれることも増えたのではないですか?
「まあ、二度見をされたり(笑)。地元なので、歩いているだけで『吉永だ』ってスクール生から言われることもあります。でも、ヒソヒソ話をされるのはちょっと……(笑)。小さい子どもは気兼ねなく声をかけてくれるので、僕としてもうれしいです」

――子どもが声をかけてくれるとうれしいですね。
「地元でもオレンジの服を着ているスクール生が増えました。そういう子がアカデミーに入ったら、地域密着にもつながりますよね。地元の子どもたちにとって『一番近いプロ選手』になりたいという気持ちがあるんです。近くに住んでいるので、僕のことをもっと知ってもらい、みんながプロになりたいと思ってくれたらいいですね」

――小学5年で大宮アルディージャジュニアに入って、アルディージャ一筋です。プロになった喜びもひとしおでは?
「アルディージャには感謝しきれないくらい感謝しています。自分をここまで成長させてくれたのも、アカデミーのスタッフの皆さんのおかげ。地元出身ですし、クラブを背負って立つ人間にならなければいけないと感じています。金澤慎選手や渡部大輔選手、大山啓輔選手のように、もっとチームを引っ張り、北区出身の“吉永昇偉"というブランドをたくさんの人に知ってもらえるようになりたいですね。そうすれば、地元の少年団の子どもたちも『俺もプロになれるかも』と思ってくれるはず。もっと頑張ります」

――ところで“昇偉"というのは珍しい名前ですね。ご両親がつけてくれたのですか?
「はい。『折れることなく、昇っていけ』という意味でつけたと聞いています。名前の通り頑張っていけば、これからも必ずチャンスが訪れると思います」


本人が「すごく悔しい試合」と語った第21節・新潟戦。自身の裏を取られて決勝点を献上し、本人も直後に途中交代となった

岩本 勝暁 (いわもと かつあき)
2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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