FW10 大前元紀【マンスリープレーヤーインタビュー】

ぶれずにやり続けるだけ

他でもない大前元紀自身が、大前元紀という選手を誰よりも信じている。

シーズン前半戦は、わずか1得点に終わった。16節・アビスパ福岡戦からは、先発ではなく途中出場が続いていた。ウォーミングアップをするだけで、試合が終わってしまうこともあった。

「シーズン序盤は先発で使ってもらっていましたし、そこで僕はゴールを取れていなかった。シャドーの仕事がやれていなかったわけではないですが、高木監督が言うように、得点が求められるポジションですから」

加入3年目の今シーズンは、これまで以上の責任感と使命感を燃やしていた。「1年目はJ2に降格して、2年目はJ1に戻れなかった。3年目も昇格できなかったら、このチームに来た意味がない」との決意を胸に抱いている。

「試合に出ていない選手も含めて、チーム一丸となってハードに練習できている。開幕直後は試合に絡めなかったけれど、今は先発している選手もいる。我慢して出られなかった選手が活躍したりっていうのは、1年間を通して必要で、みんなが試合に絡んでいければいい。個人としては、悔しさや歯がゆさがありますけど、選手にできるのは準備に集中することだけ。試合で使われたときにいいプレーをすれば、次の試合につながるだろうし、出たときにいいプレーをするためにいい準備をするしかない」

チーム全体に目配せをするキャプテンらしいコメントである。その上で彼は、自らを冷静に見つめる。焦りや苛立ちといった感情に縛られることはない。

「大切なのは、やり続けることじゃないですか。自分に自信がなかったら、冷静になったり、客観的に見たり、いい準備をして待っていようとは思えないでしょう。そこに関しては自信があるし、出ている選手に対して自分が劣っている部分があるとは思っていない。いい意味で自分に余裕があるから、今は冷静にやれているんじゃないかな」

言葉に詰まることはなく、表情に必死さが滲むこともない。力みのない真っ直ぐな思いを、大前は明かしている。

「自分に自信があるからといって手を抜くわけではないし、手を抜くつもりもない。試合に先発で出ている選手を、リスペクトしないわけではない。でも、自分に対しての余裕はあるから、焦ってはいないんです」/p>


自分の存在価値とは

数字に感情を揺さぶられることもない。

「僕の考えとしては、それがいいのか悪いのか分からないですけれど、取れるときは取れるし、取れないときは取れない。もちろん、取れるときがずっと続いて、取れないときがない方がいい。波がない方がいいのも分かっています。けれど、入らないときは入らないし、入るときは入る。そこに関しては、あまり落ち込まないようにしています。自分に求められているのが得点というのは分かっているし、自分の存在価値は得点にあるというのは絶対なので、ゴールに対するどん欲さは常にあります」

得点を決めているストライカーには、不思議なほどチャンスが巡ってくるものだ。混戦の中で行き先を決めていないボールが、まるで吸い寄せられるように足元にこぼれてくることも例外ではない。きっかけさえつかめば得点できるとの思いが、精神的な余裕につながっているのだろう。

「点を取るのは、その選手の技術とかいろいろなものがあるけれど、そこまでボールを運んでくれる選手だったり、周りのサポートだったりが絶対に関係してくる。ましてや僕は、一人で点を取れるタイプじゃない。仲間に生かされて取れるタイプなので、取れない時期も割り切っていくしかない。ブレずにやっていくしかないでしょう」

7月20日の京都サンガF.C.戦で、大前はおよそ4か月ぶりのゴールを決めた。奥抜侃志のラストパスを右足で合わせ、DFに当たってコースの変わった一撃がネットに吸い込まれた。

1週間後のレノファ山口FC戦では、9試合ぶりの先発に指名された。そして、NACK5スタジアム大宮を沸き上がらせた。

68分、ダヴィッド・バブンスキーのシュートをGKがはじくと、「こぼれ球にうまく反応してミートできた」という一撃を豪快に突き刺す。これが決勝点となり、チームは1-0の勝利を飾った。

「京都戦の得点は結果につながらなかった。監督は結果を残した選手を使っているので、久しぶりの先発で自分も結果を残さなければいけないと思っていた。自分の得点がチームの勝利につながって何よりです」

いよいよ「取れるときは取れる」ゾーンに入ったのでは? そう問われると、「いや、まだ分からないですねえ」と笑みを浮かべる。表情には充実感が浮かんでいる。山口戦では前半にも決定的なシーンを迎えた。チャンスが集まるようになってきている、と言うことができそうだ。

「僕が取れば、僕個人もチームも、雰囲気が変わると思うんです。そこは感じている部分」と大前は言う。ファン・サポーターの気持ちを熱くたぎらせるゴールが、この男には何よりも似合うのだ。

FOLLOW US