MF26 小島幹敏【マンスリープレーヤーインタビュー】

試合出場ゼロの2年間

トップチーム昇格内定が発表されたのは5年前、小島幹敏が高校3年生だった秋のことだ。「夏のパフォーマンスを見て判断する」と保留されていたが、Jr.ユース時代からのチームメートである高山和真とそろって、Jリーガーへの道を切り拓いた。

あの瞬間の喜びは、鮮明に覚えている。

「うれしかったですね。中村順さんと伊藤彰さん(現・ヴァンフォーレ甲府監督)に部屋に呼ばれて、『上がれるよ』って。順さんは、『俺は止めておいた方がええって言ったけどな』と言ってましたけど(笑)、プッシュしてくれたみたいです。高校最後の夏はケガもあってほとんど試合に出られず、国体にも大学の練習会にも行けずに不安はありました。だから『おぉ!』って感じ。一番キレイな形じゃないですか。ストレートで昇格って」

ところが、待ち受けていた現実は甘くなかった。自慢の左足で観客を沸かせ、チームを勝利に導く姿を思い描いていたが、トップチームでのJリーグデビューは遠かった。

「1年目のグアムキャンプで、監督の渋谷(洋樹)さん(現・ロアッソ熊本監督)に言われたんですよ。『1年目は鍛えて、サッカーに慣れた方がいいと思う』って。“試合に出れない宣言”みたいな(笑)。そう言われて『なんだ、出られないのか』と」

だからといって、ふてくされることはなかったし、気持ちが切れることもなかった。日々の練習に全力で挑んだのはもちろん、監督の言葉を信じ、「いつか報われるはず」と苦手な筋トレにも励んだ。ベンチ入りさえかなわない現状を悲観せず、自分を磨き続けた。

それでも試合には絡めない。「プロの壁? それは全然。フィジカル面は少し劣ると思いましたが、テクニックでやれると思ったし、スピードにも慣れていました」。手応えと歯痒さが交錯する毎日。気づけば、リーグ戦に出場できないまま2年の歳月が流れていた。1年目はJ2リーグ優勝、2年目はクラブ最高位となるJ1リーグ年間5位の好成績を残してチームが盛り上がる中、小島の胸に刻まれたのは「悔しさ」のみだった。

転機となった水戸への移籍

プロ3年目の2017年1月、転機が訪れる。水戸ホーリーホックへの育成型期限付き移籍を打診する電話を受けて、迷わず「行きます」と答えた。初めての移籍。小学生のころから着てきたオレンジ色のユニホームを脱ぐことに抵抗があったし、「人見知りだから、知らないところへ行くのはドキドキした」ものの、試合に対する飢えを満たすために思い切って一歩を踏み出した。

そして小島は、2シーズンを過ごした水戸で大きく成長する。1年目の「ただのケガ。よくケガを乗り越えて強くなったとか言うじゃないですか。そんなことはない。公式戦に出た方が絶対にいい。時間のムダだと思う」という右足第5中足骨骨折による長期離脱を除けば、学ぶことばかりだった。Jリーグデビュー、先発フル出場、Jリーグ初ゴールと着実に階段を上がり、昨シーズンは主軸として39試合出場4得点と結果を残した。定期的に試合に出て、チームに必要とされて、初めて気づいたことは少なくない。

「やっぱり、実戦経験を積むことが一番身になると感じました。シーズン通して試合に出ると自信になるし、能力も上がる。水戸での2年間で、ずいぶん変わりました。去年は数試合ごとに分析担当の人がミーティングをしてくれて、めっちゃダメ出しされたんです。『もっとこうした方がいい』って。それを聞いて、次の試合で改善しようと努力する。次にまたダメ出しを受け、『あそこは改善された』というやり取りを繰り返す。あれが良かったかな。守備に関しては結構言われたので、考えてプレーするようになったし、少しは賢くなったと思います」

迎えた今シーズン、小島は3年ぶりとなる大宮で成長した姿を見せている。古巣復帰を決めたのは、プロ1、2年目に味わった「悔しさ」を晴らし、自分を育ててくれた大宮に恩返しがしたいからだ。

とはいえ、過度な力みは一切ない。今回のインタビューでも、レノファ山口FC戦での得点を褒めれば「イーニョくん(奥井諒)が、点を取ったらお寿司をごちそうしてくれると言ってくれたので、そのおかげ」と笑いにすり替え、「もっと強気にガンガン勝負するところが見たい」と煽っても、「無理っすよ。何か空回りしそう。気合いを入れたとしても、試合になれば自分のスタイルが出ちゃう」と乗ってこない。頼もしい言葉は皆無。プレー同様の軽いタッチで、スルスルと逃げてゆく。

唯一聞き出せた具体的な目標は、「去年は4得点だったので、5点は取りたいな……」という控え目なもの。とはいえ、その胸には「ここまでの出来がどうとかじゃなく、今年、大宮でどれだけできるかだと思っています。自分の中ではもっとやれる感覚があるので、目に見える結果にこだわりたい」と、熱い思いを秘めている。

たぶん小島は、今後も“らしさ”を失わず飄々と、落ち着き払った涼しい顔でチームの勝利に、J1昇格に貢献してくれるはずだ。

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