Vol.030 粕川 哲男「見ずにはいられない」【ライターコラム「春夏秋橙」】

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”するオフィシャルライター陣の視点で、毎月1回程度お届けします。

Vol.030 粕川 哲男
見ずにはいられない

フリーライターを名乗りながら、書くことが得意じゃない。あまり気も進まない。原稿依頼を受けると、いつだって逡巡してしまう。面白いものが書けると思えないからだ。

ただ、サッカーを見るのは大好きで、いつも楽しい。レベルやカテゴリーは問わない。アルディージャの試合はもちろん、幼稚園児の球蹴りでも、心を躍らせて見る自信がある。40年近く見てきているが、飽きたと思ったことは一度もない。

だから、今シーズンもスタジアムへ向かう足取りは軽い。開幕戦となれば、なおさらだ。

観戦中、難しいことは考えない。ヴァンフォーレ甲府との一戦。両チームともシステムが同じ3-4-2-1のミラーゲームだな、くらいはさすがに感じるが、戦術やシステムよりも選手の表情を確認したり、その心情を想像したりすることの方が多い。

試合前の整列のとき、今シーズンからキャプテンマークを巻く大前元紀が、昨シーズンまでのチームメートである横谷繁に歩み寄って握手をする。「いいなぁ」と思う。試合中、渡部大輔の顔に右手が当たったドゥドゥが必死に故意ではなかったと説明する。大山啓輔が彼の話を聞いてあげて、分かった分かったとばかりに背中をポンポンとたたく。「いいなぁ」と思う。

やっぱり、サッカーは面白い。

快晴に恵まれたNACK5スタジアム大宮。1万2,000人を越す大観衆。最高の舞台に立てる選手たちを心底うらやましいと思いながら、素晴らしいプレーに感嘆の声をあげたり、惜しいシーンに身をよじらせたりする。後半開始早々には立て続けにそんな場面が訪れた。

渡部のクロスにフアンマ デルガドが合わせられず、逆サイドに抜けてきたボールを拾った大前が右足で狙うが、GK河田晃兵の素晴らしい反応に防がれてしまう。そこで得たCK。大山が蹴ったボールは急激な弧を描き、アカデミーの4つ先輩である石川俊輝へ。だが、右足でとらえたシュートは、わずかにゴール左へ外れる。

素早いリスタートから中村太亮がゴール前へクロスを入れて、ファーサイドに流れたボールを渡部が狙うが、これも得点に至らない。直後、最後尾からボールをつないできた甲府にプレッシャーを掛けて、技巧的スライディングで小柳達司からボールを奪った石川のプレーにも唸らされた。

結局、2019シーズン最初の試合はスコアレスドローに終わった。試合後に話を聞いた大前も河面旺成も中村も茨田陽生も、思うようにいかなかったと反省していた。渡部は「枠にいかないとダメですね。練習してきたことが、もう少しできると思ったんですが、やっぱり、練習試合と公式戦は違いますね」と悔しそうだった。

それでも僕は悲観していない。移籍1年目の昨シーズン、悔しさを味わったフル出場の中村も、中盤の底でコンビを組んだ石川と大山も、途中交代に「もうちょっとやりたかったです」と語った渡部も、頑張っていたと思う。シーズンは、まだ始まったばかり。

今週末もホームでゲームがあると思うと、また気持ちが高まってくる。そんな高揚感に任せて、何とかこの原稿を書き終えたところだ。


粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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