【ライターコラム「春夏秋橙」】すべてはチャンスを与えてくれた大宮のために

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、今夏に加入したカイケ選手について、長崎の番記者としてカイケ選手を取材してきた杉山記者に、紹介してもらいました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】杉山 文宣
すべてはチャンスを与えてくれた大宮のために


スケールは大きく、心は謙虚に

未完の大器はサッカー選手としての成功を夢見て日本へとやって来た。ブラジル一部の名門パルメイラスの下部組織出身ながら、ブラジルでのキャリアはU-20チームでのものばかり。そんな中、届いたトップチームでのプロ契約のオファーは異国からのものだったが、カイケは迷いなく日本行きを決断した。

「まだまだ、自分は成長しなければいけない立場」。来日直後、カイケはそう語っていた。クラブとしても評価は “今後の期待枠”といったもの。ただ、190センチ86キロという日本人にはない強靭な体躯は、そのポテンシャルに期待を抱かせるには十分だった。

ただ、ポテンシャルを備えていても、そこに精神が伴わなければ成長することはできない。その点でカイケは実に謙虚だった。

「自分自身が課題としている部分がまだまだあるので、そこを良くしていかないといけない。試合に出るか出ないかは監督が決めること。練習から自分自身の価値を見せるだけだと思っています」

Jリーグとブラジルの違いに「機敏さ」を挙げる。「切り替えの速さ」に順応することが日本での成功のテーマと捉え、日々の練習から懸命に取り組んだ。長崎にはブラジル人選手も多かったが、同年代の日本人選手たちの輪にも積極的に加わった。日本サッカーの知識を深めることはもちろん、それだけに留まらず、日本文化の吸収にも積極的だった。「どんな場所に行ってもすぐに適応することができますし、サッカーが変わってもすぐに順応できるのは、自分の強みと言えるのかもしれない」と本人も話すが、それは新しい物事を知ろうと謙虚に取り組む姿勢があるからだろう。

成長と自信、そして逆風

順応の一年目を終え、迎えた今季、カイケは確かな成長を示すことになる。第4節・栃木SC戦、味方の負傷で8分からピッチに立つと、急遽の出場にも関わらず、堂々としたプレーを見せてチームの今季初の無失点に貢献。続く第5節・ロアッソ熊本戦で自身初のリーグ戦先発を飾ると、またしても完封でチームは今季初勝利。翌節、翌々節も先発で勝利に貢献した。第8節・ザスパクサツ群馬戦で破れこそしたが、実はカイケにとってこれが来日以来、初めて味わう敗戦だった。昨季までは守備固めが主な役割だったこともあるが、出場した試合では長く不敗神話を続けてきた。結果と好パフォーマンスは、カイケに確かな自信を植え付けていた。

しかし、その後は逆風が待っていた。外国籍選手を多数抱えているチーム状況から、外国籍選手の出場枠を巡る競争は激しく、同ポジションのヴァウドが復帰して以降はベンチ入りできない日々が続く。それでも、カイケは謙虚に自分と向き合う姿勢を崩さなかった。

「難しい時期でした。ただ、どこかで必ずチャンスが来るとは常に考えていました。その気持ちがあったからこそ、継続して前向きにトレーニングに取り組むことができた。それが一番の要因だと思っています」

必要とされる喜び

そんな中、夏の暑さが日を追うごとに増していく時期に、大宮アルディージャからのオファーが届くことになる。

「オファーには驚いたんですけど、試合に出るチャンスがあるといううれしさもありました。選手としてもっと試合に出たい気持ちがあったし、そのための大きなチャンスをいただけたのかなと思いました。何よりも自分を信じてオファーをしてくれた大宮には感謝しかないです。自分を信じてもらっているので恩返ししなければいけないし、それだけの価値があることを見せなければいけない」

謙虚に練習に取り組みつつも、選手として試合に出たいという欲求を抑えることはできなかった。何よりも選手として必要とされる喜びを感じることができた。移籍の決断に迷う必要はなかった。そして、強い決意を持ってやって来た新天地は、温かくカイケを受け入れてくれた。

「クバ(シュヴィルツォク)やアンジェロッティ、通訳もそうだし、日本人のチームメート、スタッフ、フロントの方々もみんなが自分のことを温かく迎え入れてくれました。フレンドリーに接してくれたこともすごくうれしかった。監督からは『自分が思ったこと、考えついたことは怠らずにやってほしい』と言われました。自分のスタイルに対して信頼を寄せてくれる監督には感謝しかありません」

感謝の思いを示す機会は唐突にやって来た。加入後、初のベンチ入りとなった第29節・ブラウブリッツ秋田戦。袴田裕太郎が脳震盪により交代を余儀なくされると、24分にピッチに入った。

「自分はしっかりと準備をしていたので、スムーズに試合に入ることができたと思います。自分のストロングポイントである部分を数多く出すことができたと思います」

その言葉どおり、守備に強固さをもたらし失点を防ぐと、試合は最終盤に泉澤仁のゴールが生まれ、チームは劇的な勝利で今季初の連勝を飾った。そして、勝利の瞬間のNACK5スタジアム大宮の光景は脳裏に深く刻まれた。

「サポーターの熱というものをあの形で感じることができたのは、選手としてプレーしている喜びを感じられるものでした。これからもこういう雰囲気をもっと作っていくために、自分が選手として貢献していきたいと感じる時間でした」

カイケが見せたパフォーマンスは自身が口にする「長崎で試合に出られない時期でも準備を怠らなかった」という言葉が嘘ではないことを証明した。そして、その視線はすでに実現すべき大宮の未来へと向けられている。 

「もっと自分がこのチームのために貢献できることがあると思うので、それを実現していって大宮の目標達成のために頑張っていきたい」

すべてはチャンスを与えてくれた大宮のために。カイケの全身全霊を捧げる覚悟には、一点の曇りもない。

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