【ライターコラム「春夏秋橙」】あなたの声が、選手たちを奮い立たせる

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、良いときも悪いときもずっと大宮アルディージャを取材してきたオフィシャルライターの戸塚啓記者に、声援が持つ力について執筆してもらいました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
あなたの声が、選手たちを奮い立たせる


あなたも、あなたも、あなたも、ずっと考えているに違いない。

自分に何ができるのか。何をしなければならないのか、と。

状況は厳しい。かなり、厳しい。

残り試合と勝点差を考え、過去のシーズンに照らし合わせる。シーズン前には想像もしていなかった現実が、私たちに迫っていると認識せざるを得ない。

私たちにできるのは、週末の試合で声援を送ることだ。ピッチで戦う選手たちには、監督・スタッフには、あなたの思いが届いている。

昨年10月9日にNACK5スタジアム大宮で行なわれたレノファ山口FC戦は、ホームの声援が勝利に結びついた試合と言えるだろう。2-1で勝利し、J2残留を決めたのだった。

04年に初のJ1昇格を決めたのも、当時はまだ大宮サッカー場と呼ばれていた私たちの聖地だった。J1残留を勝ち取ったことも、J2優勝の歓喜に酔いしれたこともある。NACK5スタジアム大宮へ名称を変えながら、メモリアルなゲームが繰り広げられていった。

埼玉県出身の笠原昂史は、NACK5スタジアム大宮について「埼玉の地でサッカーをやりながら育ってきて、大宮サッカー場だった当時から目指していた場所です」と話す。「原点」であり「憧れの場所」でもあったピッチに立つことは「ホントに幸せで、その幸せを噛み締めながらプレーしています」と言う。

ジュビロ磐田でプロキャリアをスタートした中野誠也にとって、NACK5スタジアム大宮はアウェイチームの一員として訪れる場所だった。21年からホームチームの選手として戦うようになると、あらためて気づかされることがあった。

「アウェイチームで来ていたときから、声援のすばらしさは知っているつもりでした。けれど、味方として応援してもらうと、ホントにすばらしい。背中を押されている感じがするんです」

サッカー専用スタジアムならではの臨場感は、大宮の選手を後押しすると同時に、対戦相手にプレッシャーを与える。栗本広輝の肌触りは納得だ。

「僕らに大きな力がもたらされて、対戦相手にすごく圧力がかかるというか。アウェイで他のスタジアムへ行くと、『やっぱりいいよな』と実感して、チームメートとそんな話をよくしています」

選手たちが声援を実感するのは、ホームだけではない。アウェイでもファン・サポーターの後押しを心強く感じている。初のJ1で勝利をつかんだのは、ガンバ大阪とのアウェイゲームだった。12年から13年にかけての21戦無敗では、アウェイでも印象的な勝利を挙げている。

クラブ生え抜きの大山啓輔は、「たとえ結果が出なくても、ホームでもアウェイでもたくさんの人が僕らを後押ししてくれる。アウェイでもいつも声援を聞くことができます」と語る。袴田裕太郎も「アウェイにも数多くのファン・サポーターが来てくれて、僕たちを支えてくれている」と言う。

自分たちが勝ち続けることは大前提で、順位が上のチームが足踏みをしてくれることで、可能性が膨らんでいく。状況は本当に厳しいが、私たちにもできることがある。スタンドから試合を見つめる私たちにしか、できないことがある。

シーズン終了の笛を聞くその瞬間まで、選手たちに声援を届けたい。あなたの、あなたの、あなたの声が、選手たちを奮い立たせる。終了間際のバトルで、数センチの攻防を制することにつながっていく。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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