【ライターコラム「春夏秋橙」】読み取れる確かな変化。その中心には石川がいる

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、ケガから復帰し終盤戦の貴重な戦力として奮闘している石川俊輝 選手に、オフィシャルライターの戸塚啓さんが話を聞きました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
読み取れる確かな変化。その中心には石川がいる


長期離脱から待望の復帰

背番号16が帰ってきた。きわめて重要なこの局面で、石川俊輝が戦列に戻ってきたのだ。

期限付き移籍先のヴァンフォーレ甲府から復帰した今シーズンは、第5節の栃木SC戦で初出場した。翌第6節の大分トリニータ戦は初先発し、3-0の勝利に貢献する。そこからスタメンに定着していったが、第18節の甲府戦を最後にケガで戦列を離れた。左ハムストリングス損傷により、全治12週間の診断を受けた。

「試合に出ていない時期は、ホントにいろいろな感情がありました。大好きなこのクラブが結果を残すことできなくて、応援してくださっているファン・サポーターのみなさんの顔を見ると、申し訳なさとか、もどかしさとかがホントに……グラウンドで何もできないことに対して、いろいろな感情がありました」

およそ4カ月ぶりの出場となった第35節のロアッソ熊本戦で、いきなりフル出場を果たした。続く徳島ヴォルティス戦でも先発に名を連ね、68分までプレーした。

「長い間チームを離れてしまったので、やっぱり悔しかったですし、何もできないもどかしさもありました。そういう思いをピッチで表現しないといけないと思って試合に入りました。ゲーム勘がどうとか、自分のコンディションがどうとかいう状況ではないんですね。ホントに自分ができることをやるだけだ、と思っていました」

熊本戦は0-3で敗れたが、徳島戦は1-0の勝利をつかんだ。

「勝つことは簡単でなくて、キツい思いをしなければ……ここで走っておけば、ここで寄せておけば、というように、ちょっとした苦しいこと、大変なことを乗り越えたうえでの勝利だと思っています」

徳島戦はシステムが変更された。それまでの[3-1-4-2]ではなく、[4-4-2]が採用された。

これまで石川が在籍してきたチームは、3バックをメインに戦ってきた。今シーズンの開幕直後にメンバー外だったのも、「[4-4-2]の感覚をつかむために、時間がかかった」ことが一因だった。

ダブルボランチの一角を任された徳島戦では、一切の迷いを感じさせなかった。システムの成熟度については、「細かいところを見ていけば、まだまだ詰めていかなきゃいけないところがあります」と言う。同時に、「今は正直、形よりもお互いを助け合うとか、一人ひとりが戦うとかいう部分が、すごく大事になるので。形に縛られ過ぎちゃいけないのかな、と思います」と続けた。

徳島戦の決勝点は、石川のハイプレスから生まれている。相手CBの縦パスを激しい寄せで引っかけると、ムロこと室井彗佑が豪快な右足シュートへつなげたのだった。

「ムロはストライカーなので、どんどん思い切って打ってもらいたいですし、そういう話もしています。守備も含めてあれだけ頑張ってくれている選手が点を取ってくれるのは、個人的にもうれしいです。守備の部分はフォーカスされにくいですけど、ムロはホントに手を抜かずにやってくれていますので」

自身のボール奪取には触れない。利他的な人柄が表われる。

「僕のところはたまたまです。ホントにムロの献身性とか、普段の努力の成果だと思います」

自分の力を出し切るだけ

オフ・ザ・ピッチでは控え目でも、そのプレーは雄弁だ。

背番号16は戦う。シーズン開幕当初には、「チームが勝つために僕のところで示さないと、周りの選手に伝わらないですし、伝えなきゃいけない立場でもあります」と語っていた。「ぬるいところをなくしていくのが、一つの使命だと思っています。相手にスキを与えない。逆にこちらがスキを突いていく姿勢を示していく」とも話していた。サッカーの本質をとことんまで追求する彼の姿勢は、今のチームにもっとも必要なものと言っていいだろう。

「僕は声で引っ張っていくタイプではないので、見てもらって、その選手にどう感じてもらうか。話しても変わらないのであれば、見せ続けて変わってもらうしかない。自分で気づかないと、長続きがしない。僕の立場を考えたら、そういうところで見せ続けなきゃいけない」

育成組織出身である。湘南から完全移籍してきた19年当時から、「自分が背負わなきゃいけない責任がある」と自覚してきた。それだけに、J1昇格争いに加わることができず、J2残留争いでも際どい立場にある現状を、厳しく受け止めている。

「残り試合はホントに思い切って戦うことが一番ですし、結果の責任は上の世代が背負えばいいので、若い選手たちは自分が持っているものを出すことが、チームに貢献することになると思います。僕自身もそういうふうに先輩に言ってもらったので、この状況だからこそ出し惜しみしないのが一番です」

原崎政人監督には大宮ユースと東洋大学で指導を受けた。指揮官への思いを問われると、「もちろんそれはあります」と答える。

「ユース、大学とお世話になりましたし、大宮に来てからもお世話になっています。だからこそ、すごく申し訳ないというか、チームが苦しいタイミングでケガをしてしまった自分に対して、何をやっているんだという気持ちがありました。いまはとにかく、毎試合自分の力を出し切ることだけを考えています」

J1昇格プレーオフ圏を争う大分トリニータと敵地で対戦した第37節も、チームは1-0の勝利を収めた。開始序盤のリードを守り切った徳島戦とは対照的に、0-0で迎えた90+2分に決勝点をゲットした。石川は79分までプレーし、戦う姿勢を示した。

連勝を飾ったが、状況は依然として厳しい。これからも勝ち続けなければならない。それでも、チームには確かな変化が読み取れ、その中心には石川がいる。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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