【ライターコラム「春夏秋橙」】種田の冷静なPKで大一番に勝利した大宮U18。最終節は残留が懸かった“ダービー”に挑む

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、アカデミーの定点観測を続けている土地記者に、プレミアリーグ残留に向けて負けられない一戦となった第21節・前橋育英高校戦の模様のレポートと、最終節における大宮アルディージャU18の状況を整理してもらった。

【ライターコラム「春夏秋橙」】土地 将靖
種田の冷静なPKで大一番に勝利した大宮U18。
最終節は残留が懸かった“ダービー”に挑む


高円宮杯JFA U-18プレミアリーグもいよいよ大詰め。大宮アルディージャU18は、後半戦8試合という長き未勝利のトンネルを抜け、第20節の流経大柏高校戦に今季初のクリーンシートで勝利。残留を争う横浜F・マリノスユースに勝点で並んだ。

横浜FMユースと、やはり残留が懸かる前橋育英が最終節に直接対決を残していることにより、残り2試合を両チームともに2連勝することはない。得失点差の兼ね合いもあり、ラスト2試合を2連勝で駆け抜ければ自力残留が果たせる。その1つ目となったのが第21節、アウェイでの前橋育英戦だ。

序盤は、じっくりつなぎながらサイドに起点を作ろうとする前橋育英に苦しめられたが、最後のところはやらせない粘り強さで対応する。徐々に徐々にリズムをつかめるようになった30分、スコアを動かすことに成功した。

安部直斗が左サイドをドリブルで進撃。深くえぐったところからクロスを入れると、ニアに走り込んだ石川颯が頭で合わせた。

「ちょうどタイミング良くニアに抜け出したらボールが来た。自信を持って打てた」(石川)


先制点を挙げた石川

その後は流れをつかみ、セットプレーでは決定的な場面も作ったが決めきれず。これが後々に響いた。1点リードで折り返した61分、コーナーキックから失点を喫した。タイスコアに追いつかれたが、しかし選手たちは顔を上げた。 

77分、ゴール前の混戦から相手選手がハンドの反則を犯したため、ペナルティキックを得た。キッカーは背番号10、種田陽。勝ち越しへ、そしてプレミア残留へ、プレッシャーの掛かりそうな場面だが、種田は事もなげに蹴り込んだ……ように見えた。

「何も考えてませんでした。何も聞こえてなかったです」(種田)

いわゆる“ゾーン”に入っていたのか、それほどまでに集中していたということか。冷静なキックで大宮U18は再びリードを得た。


冷静にPKを決めた種田(10)

今度はこのリードをしっかりと守り切った。アディショナルタイムには、至近距離から決定的なシュートを打たれたが、1年生GK野口依吹がしっかりと止めた。前節に続く2連勝で、ついについに、残留圏となる10位へと順位を上げた。

この試合、この選手の話は避けて通れない。誰であろう、市原吏音である。

712日の天皇杯3回戦セレッソ大阪戦以降、約5カ月間トップチームに帯同。J2リーグ戦17試合、カップ戦1試合にフル出場し揉まれたことで、一皮も二皮も剥けた。ここからは、その成長をU18に還元するときだ。

直前にU-18日本代表のスペイン遠征に召集され、帰国したのは1122日の深夜。翌23日は完全休養し、チームで練習したのは試合前の2日間のみ。時差ボケも残り、試合後には「少し体の重さを感じていた」(市原)100%には程遠いコンディションだったことを明かしたが、それでも森田浩史監督は、チームの絶対的な存在として先発起用した。

「彼がいることによってチームに与える影響力、安心感、信頼感が違う。今年の大宮U18のチームの中で、市原吏音という存在がただの1人じゃないというところ、彼がいることによる相乗効果みたいなところを期待してピッチに立ってもらった」(森田監督)


森田監督(左)

指揮官の目論見通り、チームは様変わりした。何より後ろの安定感がまったく違う。GKから最終ライン、ボランチまで、個々のプレーに余裕が生まれ、チームとしての落ち着きがもたらされていた。

もちろん市原自身も、「今日は自分のプレーに納得できなかった」と言いながらも、プロレベルのプレーを随所に見せた。ハイボールの競り合いはほぼ完勝。攻撃でも、精度の高いロングフィードで局面を打開した。


帰国直後の出場となった市原

「ビルドアップも不安はないし、走ればいいところにボールが来る」(種田陽)

「動き出せば背後に蹴ってくれるので信頼している」(石川颯)

前線の選手も、市原の復帰を手放しで歓迎する。コンディションが戻れば、この日何度となく決定機を作ったセットプレーで、今度こそ自ら豪快にネットを揺らしてくれることだろう。

最終節は123日、NACK5スタジアム大宮に昌平高校を迎えて行なわれる埼玉ダービー。第21節に横浜FMユースが敗れたことで、引分けでもプレミア残留が決まるが、あくまでも勝利を追求する。

「状況によって手堅いゲーム運びをする必要はあるかもしれないが、あくまでも勝つつもりで、勝ちにいくというところを選手とも共有していきたい」(森田監督)

「思い入れのあるスタジアムで高3最後の試合ができるのは、本当にこれ以上ないシチュエーションだと思います。勝ちしか見てないんで、勝って気持ち良く終わりたいですね」(市原)

プレミア残留の懸かったシーズンラストマッチであると同時に、3年生にとってはアカデミーでの集大成となるラストマッチでもある。悔いのないように戦い、そして、求めるものを勝ち取ってほしい。

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